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『勇者ですが、勇気しかありません』  作者: asnt2026


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第二十六話 世界に命を狙われるということ

 最初に襲ってきたのは。


 魔物ではなかった。


「レオン!」


 ミレイアの声。


 振り向く。


 第七観測区の地下。


 入口へ続く階段から。


 一人の男が降りてきた。


 剣。


 革鎧。


 どこにでもいる冒険者。


「勇者レオン・アルヴァ」


 男が言った。


「え?」


「世界秩序破壊対象」


 目。


 焦点が合っていない。


「排除する」


 剣を抜く。


「待て!」


 レオンは反射的に後ろへ下がった。


 男が斬りかかる。


 ガルド。


 間へ入る。


 ガキン。


「何者だ!」


「冒険者」


 男が答える。


「職業――剣士」


 再び剣。


「だから何で襲ってくる!」


「緊急職能命令」


 その言葉。


 ゼルディアが顔をしかめた。


「始まった」


「何が!」


 レオン。


「世界補正だ」


 さらに。


 階段。


 足音。


 二人。


 三人。


 五人。


 冒険者。


 兵士。


 商人までいる。


「商人!?」


 ノアが叫ぶ。


 男は手に。


 算盤。


「それで戦うの!?」


「秩序維持に必要な物資を提供する」


「戦わないんだ!」


 後方。


 兵士たちへ薬。


 武器。


 食料。


「職業に沿った形で排除に参加してる」


 ミレイアが気づく。


「その通りだ」


 ゼルディア。


「世界は人間を直接操る必要がない」


「どういう意味?」


「天職へ命令を流す」


 剣士には。


 戦え。


 僧侶には。


 敵と戦う者を治せ。


 商人には。


 必要物資を提供しろ。


 門衛には。


 道を塞げ。


 狩人には。


 追跡しろ。


「それぞれが」


 エルナ。


「自分の仕事をしているだけだと思う?」


「ああ」


 ゼルディア。


「本人には正しい行動に感じる」


 レオンは。


 矯正院で少女を見捨てようとしたガルドを思い出した。


 正しい。


 合理的。


 必要だから。


 それが。


 怖い。


「倒したら?」


 レオン。


「止められる?」


「一時的には」


「経験値は?」


「入る」


「却下!」


 ゼルディアが。


 初めて少し呆れた顔をした。


「命を狙われている状況でそこを気にするのか」


「俺たちには大問題なんだよ!」


「変な勇者だ」


「知ってる!」


 ガルドが剣士の攻撃を受け流す。


「話している場合か!」


「そうだった!」


 ミレイア。


 杖。


「眠れ!」


 魔法。


 二人が倒れる。


「殺してない!」


「いい!」


 シオン。


 壁。


 何かを探す。


「別の出口がある」


「本当?」


「この施設は観測所だ。非常口があるはず」


「勘?」


「構造上そうなる」


 ポキッ。


「今の音で見つけられない?」


「黙れ」


 ゼルディアが。


 壁の一角へ手を向ける。


 黒い光。


 石壁。


 崩れる。


「あるぞ」


 シオン。


 無言。


「どうした?」


「俺が見つけたかった」


「そこ?」


 狭い通路。


「行け」


 ゼルディア。


 レオンが止まる。


「あなたは?」


「残る」


「何で?」


「俺は排除対象じゃない」


「魔王なのに?」


 ゼルディア。


 少し笑う。


「俺は世界にとって必要だからだ」


 レオンの表情が。


 変わる。


「必要?」


「勇者と戦う魔王が必要なんだ」


「じゃあ」


 一つ。


 嫌な可能性。


「あなたが人間を襲ってきたことも」


「全部が命令だったわけじゃない」


 ゼルディアの顔から。


 笑み。


 消える。


「自分で選んだこともある」


「…………」


「だから言った」


 俺を信じるな。


「俺は被害者じゃない」


 ゼルディア。


「そういう便利な言葉で、俺が殺した人間を消すな」


 レオンは。


 何も言えなくなった。


 ゼルディアが。


 通路を指す。


「行け」


「でも」


「今のお前たちが俺と一緒にいれば」


 目。


 細める。


「勇者が魔王側についたという、分かりやすすぎる物語になる」


「物語?」


「世界は役割を好む」


 勇者。


 魔王。


 善。


 悪。


 戦争。


「それに乗るな」


 ゼルディア。


「俺の言うことにも従うな」


 レオンは。


 少しだけ笑った。


「言われなくても」


「何?」


「俺たち、あなたについていくって決めてないです」


 ゼルディア。


 一瞬。


 目を見開く。


「魔王城に来いとか言われても嫌です」


「まだ言っていない」


「言いそうだったから」


「…………」


「会ってから決めるって言った」


 ティオへ。


 そう答えた。


「会った」


 レオン。


「でもまだ決めない」


《自律率――4%》


 表示。


 一%。


 上がる。


 ゼルディアは。


 それを見て。


 笑った。


「それでいい」


「だからその言い方」


 レオン。


「正解を知ってるみたいで嫌なんですよ」


 ゼルディアの笑みが止まる。


「……なるほど」


「行くぞ!」


 ガルド。


「増えてる!」


 通路。


 六人。


 走る。


 最後。


 レオンが振り返る。


「ゼルディア!」


「何だ」


「次に会った時」


 一瞬。


 言葉を考える。


「あなたが魔王だからじゃなく」


 剣士たち。


 迫ってくる。


「カイルだった人として話します」


 ゼルディアの表情。


 初めて。


 完全に消えた。


 レオンは走った。


 通路。


 暗闇。


 後ろ。


 戦闘音。


「今の格好つけた?」


 ミレイア。


「ちょっと」


《勇者適合率――17%》


「上がった!」


「やっぱり格好つけるから!」


「勇者って面倒くさい!」


 走る。


 やがて。


 地上。


 夜。


 森。


「出た!」


 ノア。


 だが。


 森の中。


 光。


 無数。


「何?」


 レオン。


 目。


 だった。


 狼。


 獣。


 鳥。


 魔物。


 何百。


 六人を。


 見ている。


「ノア」


 レオン。


「これ」


「うん」


 ノアの声。


 震えている。


「囲まれてる」


 一匹。


 狼。


 前へ出る。


 以前。


 泉で会った。


 右目に傷のある灰色の狼。


「……あの子」


 ノア。


 狼。


 歯を剥く。


 唸る。


 でも。


 足。


 震えている。


「待って」


 ノアが言う。


「この子」


「何?」


「襲いたくないんだ」


 その瞬間。


 狼の身体。


 青白い文字。


《魔物種緊急命令》


《世界秩序破壊対象》


《排除》


 狼。


 苦しそうに。


 頭を振る。


「命令されてる」


 ノア。


 一歩。


 前へ。


「魔物まで」


 狼が飛びかかる。


「ノア!」


 レオン。


 だが。


 牙。


 彼女の首の横。


 止まる。


 震える。


「大丈夫」


 ノア。


 狼を見る。


「嫌なんでしょ」


 唸り声。


「だったら」


 優しく。


「やらなくていいよ」


 狼の表示。


 揺れる。


《排除》


《排除》


《排――》


 文字。


 途切れる。


 狼。


 後ろへ下がる。


 森へ。


 逃げた。


 一匹。


 それを見た。


 別の魔物。


 逃げる。


 また一匹。


 次々。


 命令に逆らう。


「……魔物にも」


 ミレイア。


「自律がある?」


 ノアの能力表示。


《自律率――5%》


 レオンは。


 逃げていく魔物たちを見た。


「世界に逆らえるの」


 人間だけじゃない。


 そう思った。


 だが。


 最後。


 森の奥。


 巨大な影。


 逃げない。


 鎧。


 人型。


 身長二メートルを超える。


 剣。


 一本。


 男。


 ゆっくり。


 近づく。


 魔物ではない。


「誰だ」


 ガルドが前へ。


 男の能力表示。


 見えた。


《天職――勇将》


《職業適合率――100%》


《自律率――0%》


 男が剣を抜く。


「魔王軍第一将」


 一言。


「ヴァレス」


 そして。


 レオンを見る。


「勇者を」


 完全に感情のない目。


「殺す」

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