第二十五話 魔王も勇者だった
「…………」
誰も。
動かなかった。
レオンは。
剣に手を置いたまま。
魔王を見た。
ゼルディア。
世界を滅ぼそうとしていると教えられた存在。
目の前。
人間に見える。
そして。
カイル・レヴァン。
二十六年前。
記録から消された勇者。
「冗談?」
レオンが聞いた。
「この状況で?」
ゼルディア。
「俺、結構冗談好きだったらしい」
「らしい?」
「昔はな」
レオン。
言葉。
引っかかる。
「カイルなんですか?」
「だった」
「今は?」
「ゼルディア」
「魔王?」
「ああ」
ノアが。
ガルドの後ろから。
顔を出す。
「本物?」
「多分」
ゼルディア。
「そこは自信持って」
ミレイアが。
反射的に言った。
沈黙。
「……何で今同じこと言ったの私」
レオン。
「俺もどっかで聞いた」
「黙って」
ゼルディア。
少し。
笑う。
「似てるな」
「誰と?」
「俺たちに」
その笑顔。
映像の。
カイルに。
少しだけ似ていた。
ガルド。
大剣。
「目的は」
「何が」
「我々をここへ誘導したのか」
「俺じゃない」
「ではなぜここにいる」
「待っていた」
「矛盾している」
「来ると思っていたからな」
レオン。
「六人が?」
「ああ」
「どうして?」
ゼルディア。
壁。
六本の線。
「世界は同じことを繰り返す」
一歩。
「勇者が生まれる」
さらに。
「魔王が生まれる」
「戦う」
「どちらかが死ぬ」
ゼルディア。
「しばらく平和になる」
そして。
「また始まる」
「それが?」
ミレイア。
「職業システムと関係してる?」
ゼルディアが。
彼女を見る。
「頭がいい」
「魔法使いなので」
止まる。
「……今のなし」
「適合率気にしてるのか?」
全員。
固まる。
「知ってる?」
「当然」
「自律率も?」
「知っている」
レオン。
「あなたは?」
「何が」
「自律率」
ゼルディア。
しばらく。
答えない。
「昔」
一言。
「七十八%まで上がった」
「七十八!?」
ノア。
「私四なのに!」
「競うものか?」
「分かんない!」
「今は?」
レオン。
ゼルディアは。
能力表示を開く。
初めて。
六人。
見る。
《名称――ゼルディア》
《天職――魔王》
《職業適合率――99%》
レオンの呼吸。
止まる。
《自律率――1%》
「……一」
エルナ。
「逆転してる」
かつて。
自律率七十八。
今。
一。
「何があったんです?」
レオン。
「見れば分かるだろ」
ゼルディア。
天職。
《魔王》
「勇者から魔王になった?」
「違う」
「え?」
「勇者が」
ゼルディア。
胸。
指差す。
「魔王に書き換えられた」
静寂。
「誰に?」
レオン。
ゼルディア。
天井。
いや。
そのさらに下。
「神に」
エルナの表情。
変わる。
「神は存在する?」
「ああ」
「本当に?」
「ああ」
「どこに?」
「この世界の中心」
マルタ。
言葉。
神は空にいない。
世界の下にいる。
「何者なんです?」
エルナ。
ゼルディアは。
少し笑う。
「お前、神を信じてないな」
「見れば分かります?」
「僧侶適合率十四%」
「失礼ですね」
「褒めている」
「なら結構です」
ゼルディアが。
中央端末へ。
「神は」
手。
置く。
「人間が祈るような存在じゃない」
光。
巨大な図。
世界。
大地。
その地下。
網のような光。
「千年以上前」
ゼルディア。
「人間は世界を管理するための仕組みを作った」
ミレイア。
「古代文明?」
「ああ」
「職業も?」
「ああ」
「なぜ」
「最初は便利だった」
農業に向いた人間を農民へ。
戦闘に向いた者を戦士へ。
治療能力を持つ者を僧侶へ。
「適性を見つけるための仕組み」
「だった?」
レオン。
「だった」
ゼルディア。
「だが」
長い年月。
システムは。
変わった。
「適性を見つけるのではなく」
一言。
「人間を適性に合わせ始めた」
ミレイア。
息を呑む。
戦士だから。
筋力を上げる。
魔法使いだから。
詠唱を正す。
僧侶だから。
信仰させる。
「そして」
ゼルディア。
「人間の感情は予測不能だ」
迷う。
悩む。
愛する。
嫌う。
怖がる。
「だから削った」
レオン。
拳。
握る。
「職業に必要ないものを?」
「ああ」
アルベルト。
家族。
好きだった食べ物。
すべて。
必要ない。
「それが神?」
エルナ。
「今、人間が神と呼んでいるものだ」
彼女は。
長い間。
何も言わなかった。
「……最悪ですね」
「もっと驚くかと思った」
「存在していることより」
エルナ。
「性格が悪いことの方が腹立たしいです」
レオン。
「性格なのかな」
「今は重要ではありません」
ゼルディアが。
少し。
笑った。
「ユリアも似たことを言った」
エルナ。
表情。
止まる。
「彼女は?」
ゼルディアの笑顔。
消える。
「死んだ」
静寂。
「他の四人も?」
「死んだ」
「どうして」
ゼルディア。
拳。
「俺が殺した」
六人。
凍りつく。
レオン。
剣へ。
手。
「何で」
「魔王だからだ」
「その時は?」
「もう」
ゼルディアの表示。
《職業適合率――99%》
「かなり進んでいた」
「でも自律率七十八だったんでしょう!」
「だから苦しかった」
ゼルディア。
「自分で選びたい俺と」
胸。
「魔王として人間を殺したい俺が」
一つの身体。
二つの命令。
「最後には」
声。
低い。
「負けた」
レオン。
剣から。
手を離せない。
「じゃあ」
一言。
「今のあなたは」
魔王なのか。
カイルなのか。
ゼルディアは。
答えない。
「俺を信じるな」
レオンの頭に。
絵の裏。
文字。
俺を信じるな。
「……あれ」
「読んだか」
「はい」
「正しい」
「じゃあ何で俺たちに説明する?」
「選択させるためだ」
「何を?」
ゼルディア。
一歩。
レオンへ。
「俺を殺すか」
さらに。
「神を殺すか」
そして。
「何も知らなかったことにして、人間領へ帰るか」
「そんなの」
「選べ」
ゼルディアの声。
強い。
「勇者だからじゃない」
レオンの目を見る。
「レオン・アルヴァとして」
能力表示。
揺れる。
《自律率――3%》
レオンは。
目を見開いた。
一%。
上がった。
何も選んでいない。
まだ。
「何で?」
ゼルディア。
静かに言う。
「選択肢があると知ること」
一度。
目を閉じる。
「それが最初だからだ」
その時。
施設全体。
振動。
警報。
《高自律個体群を確認》
《魔王個体との接触を確認》
《危険度――臨界》
赤い光。
《世界補正を実行します》
「まずい」
ゼルディアが。
初めて。
明確に焦った。
「何が起きる?」
レオン。
天井。
亀裂。
「世界が」
ゼルディア。
「お前たちを殺しに来る」
地上。
轟音。
六人は。
まだ知らなかった。
第七観測区の外。
森。
山。
空。
そこにいた。
何百もの魔物が。
一斉に。
同じ方向を向いたことを。
そして。
人間領側では。
教会騎士。
王国兵。
冒険者。
村人。
職業を持つ者たちの能力表示に。
同じ命令が。
浮かんだことを。
《緊急職能命令》
《勇者レオン・アルヴァ以下五名》
《世界秩序破壊対象として指定》
《排除せよ》
その瞬間。
勇者パーティーは。
魔王を倒す人類の希望から。
世界そのものの敵になった。




