第二十三話 魔物に嫌われる理由
教会の追跡を振り切るまで。
丸一日かかった。
「もう」
ミレイアが地面に座る。
「教会の人たち、体力ありすぎ」
「職業適合率高いんじゃない?」
ノア。
「笑えない」
六人は峡谷へ入っていた。
第七観測区まで。
あと一日。
しかし。
問題。
「食料」
ガルド。
「残り一日分」
「昨日逃げながら落とした」
レオン。
「誰が?」
ミレイア。
「俺」
「勇者!」
「荷物係なんだから仕方ないだろ!」
「勇者兼荷物持ち」
「ガルドより筋力あるから」
「事実だ」
「お前戦士だよね?」
ノアが。
鼻をひくつかせた。
「水」
「分かる?」
「こっち」
峡谷の奥。
小さな泉。
その周囲。
動物。
いや。
魔物。
角兎。
岩蜥蜴。
小型の狼。
何種類も。
「珍しい」
ノアの目が輝く。
「一緒に水飲んでる」
「襲い合わないの?」
「普通は縄張り争いする」
ノアが近づく。
いつものように。
魔物たちが。
一斉に。
離れた。
「…………」
「安定の嫌われ方」
レオン。
「うるさい」
だが。
一匹。
狼型魔物。
逃げなかった。
「え?」
ノア。
毛。
灰色。
右目に傷。
「おいで」
狼。
動かない。
ノアが。
慎重に一歩。
「怖くないよ」
狼。
唸る。
「やっぱり嫌われてる」
「まだ!」
もう一歩。
その時。
狼が。
突然。
ノアへ飛びかかった。
「ノア!」
レオンが剣へ手。
「抜かないで!」
ノア。
狼。
彼女を押し倒す。
牙。
顔のすぐ横。
しかし。
噛まない。
匂いを嗅いでいる。
「……え?」
ノア。
狼が。
胸元。
能力表示が浮かぶ辺りを。
じっと見る。
そして。
逃げた。
「何だった?」
レオン。
「分からない」
ノアは起きる。
その夜。
六人は泉近くで野営した。
ノアだけ。
眠れない。
「どうした」
シオンが。
隣へ。
ポキッ。
「びっくりした!」
「悪い」
「忍者なら気配消して来てよ」
「音が出た」
「そうだった」
ノアは膝を抱える。
「私さ」
「何だ」
「本当は」
一度。
黙る。
「ちょっと嬉しかったんだ」
「何が」
「適合率が上がって、魔物が近づいてくれるようになった時」
「当然だ」
「でも怖くなった」
魔物を。
戦力と呼んだ。
「私が魔物を好きなのか」
ノア。
「魔物使いだから好きだと思わされてるのか」
シオン。
何も言わない。
「分かんなくなった」
「なら」
「うん?」
「今決めろ」
「何を?」
「好きかどうか」
「簡単に言うね」
「難しいか?」
ノア。
少し考える。
泉。
魔物たち。
「好き」
「なら、それでいい」
「雑!」
「俺は慰める職業じゃない」
「何その言い方」
「忍者だからな」
ポキッ。
「そこだけ職業使う?」
翌朝。
再び。
灰色の狼。
泉。
ノアが。
近づかない。
座った。
「今日は行かないの?」
レオン。
「うん」
「なつかせない?」
「しない」
「魔物使いなのに?」
ノアは笑った。
「だから?」
レオン。
少し笑う。
「いいと思う」
狼が。
遠くから見る。
ノアは。
干し肉を一つ。
地面へ置いた。
そして。
後ろへ下がる。
「欲しかったらどうぞ」
命令しない。
呼ばない。
待つ。
狼。
警戒。
少しずつ。
近づく。
肉。
食べる。
ノアへ。
近づかない。
そのまま。
去る。
「なつかなかった」
ミレイア。
「うん」
「残念?」
ノアは。
少し考え。
「全然」
表示。
《魔物使い適合率――11%》
揺れる。
《10%》
そして。
《自律率――4%》
「上がった」
ノア。
「自律率」
エルナ。
「魔物使いとして望ましい行動を拒絶したから?」
「違う」
ノア。
狼が消えた森を見る。
「なつかせたくなかったわけじゃない」
「じゃあ?」
「選ばせたかった」
その言葉。
レオンは。
何か引っかかった。
魔物を従える。
魔物使い。
でも。
本当に魔物は。
従いたいのか?
「待って」
ノアが。
突然立つ。
「どうした?」
「あの狼」
「うん」
「私を襲った時」
胸元。
「ここ見てた」
「能力表示?」
「うん」
ノアの顔。
真剣。
「もしかして」
魔物使いだから。
魔物に嫌われているのではない。
魔物たちには。
何かが。
見えている?
「ノア?」
彼女は。
森を見る。
「私じゃない」
「何が」
「魔物が嫌ってるの」
一言。
「私に付いてる《魔物使い》の方かもしれない」
六人が。
黙った。
それが本当なら。
魔物たちは。
人間よりずっと前から。
職業の正体を。
知っているのかもしれなかった。




