第二十一話 勇者を歓迎しない村
第七観測区。
地図には、そう書かれていた。
ただし、それは町でも村でもない。
現在使われている地図には名前すら載っていなかった。
「本当にこっち?」
ノアが不安そうに聞く。
「帳簿では」
ガルドが古い地図を広げた。
「人間領と魔王領の境界から南へ二十キル。旧国境監視区域となっている」
「旧?」
「三十年前に放棄されたらしい」
「ちょうど二十六年前と近いわね」
ミレイアが言う。
二十六年前。
六人の不適合者が送られた場所。
そして過去に唯一確認された《自律率》の発生者が、最後に確認された場所。
「罠かもしれませんね」
エルナ。
「教会の?」
「それ以外も」
「世界?」
レオンが聞く。
「最近は教会と世界、どちらを警戒すればいいのか分かりません」
「両方でいいんじゃない?」
「敵多すぎない?」
シオンが先頭を歩いている。
ポキッ。
「あと野生動物」
「俺を野生動物みたいに言うな」
「言ってない」
三日目。
風景が変わった。
森が減り。
岩。
枯れ木。
低い草。
遠くには黒い山脈。
あれを越えれば魔王領。
「近づいてきたな」
レオンが呟く。
魔王。
倒すべき敵。
そう教えられてきた。
だが今は。
会ってみたい。
それが正直な気持ちだった。
「レオン」
ミレイア。
「何?」
「また難しい顔」
「俺、魔王に会ったら何て言えばいいのかなって」
「普通は『覚悟しろ魔王!』とかじゃない?」
「俺が言ったら適合率上がりそう」
「じゃあ『こんにちは』」
「魔王に?」
「礼儀は大事よ」
ノアが手を挙げる。
「『何で魔王やってるんですか?』」
「就職相談みたいになる」
エルナ。
「『神を信じますか?』」
「お前は魔王まで勧誘する気か」
「むしろ意見が合いそうです」
「確かに」
少し笑う。
その時。
シオンが止まった。
「人がいる」
「どこ?」
「前」
小さな集落。
十軒ほど。
煙。
畑。
人が住んでいる。
「地図にはない」
ガルド。
「第七観測区?」
「まだ三キルほど先だ」
六人は近づいた。
村人が気づく。
農具を持った男。
「旅人か?」
「はい」
レオンが答える。
「北へ行きたいんですけど」
「北?」
男の顔が変わった。
「何しに」
「第七観測区という場所を探しています」
男の手から。
鍬が落ちた。
「帰れ」
「え?」
「そんな場所はない」
「でも」
「帰れ!」
村人たちが集まる。
老人。
女性。
若者。
全員。
怯えている。
「俺たちは教会じゃありません」
レオン。
「分かってる」
老人が言った。
「だから余計に帰れ」
「どういう意味です?」
老人の視線が。
レオンの剣へ。
「勇者だろ」
「……一応」
「勇者はここに来るな」
レオンが固まる。
これまで。
どこへ行っても。
勇者だと名乗れば期待された。
助けて。
魔王を倒して。
世界を救って。
でも。
「どうして?」
「勇者が来ると」
老人。
「人が死ぬ」
風が吹いた。
「昔もそうだった」
「昔?」
レオンが一歩近づく。
「二十六年前ですか?」
老人の表情が変わった。
「お前」
「知ってるんですね」
「帰れ」
「六人の不適合者」
「黙れ!」
老人が怒鳴った。
そして。
その声に。
誰かが反応した。
「六人?」
家の陰。
白髪の女性。
七十歳ほど。
「あなたたち」
六人を見る。
一人ずつ。
レオン。
ミレイア。
ガルド。
ノア。
シオン。
エルナ。
女性の顔から。
血の気が引く。
「また……」
「知ってるんですか?」
女性は。
レオンへ近づいた。
震える手。
頬へ触れようとして。
止める。
「違う」
「何が?」
「顔は違う」
「誰と?」
「でも」
女性の目から。
涙。
「六人」
呟く。
「また六人なのね」
村人たちがざわめく。
「マルタ!」
「話すな!」
女性。
マルタは無視した。
「来なさい」
「どこへ?」
「見せるものがある」
老人が腕を掴む。
「やめろ!」
「もういいでしょう」
マルタは振りほどいた。
「二十六年も黙った」
「教会が来るぞ!」
「来ればいい」
「殺される!」
「もう」
マルタの声が。
震える。
「忘れたふりをする方が苦しい」
六人は。
小さな家へ案内された。
部屋。
古い家具。
奥。
鍵のかかった箱。
マルタが開ける。
中。
一枚の絵。
「……これ」
ノアが息を呑んだ。
六人。
若い男女。
服装。
勇者。
魔法使い。
戦士。
魔物使い。
忍者。
僧侶。
まるで。
自分たち。
「この人たちが?」
「二十六年前」
マルタ。
「この村へ来た」
レオンが絵を見る。
中央。
青年。
剣を持っている。
「勇者?」
マルタの顔が。
歪んだ。
「違う」
「え?」
「最初は勇者だった」
「どういうことです?」
マルタは。
青年を指した。
「この人は」
一度。
言葉を飲む。
「最後には」
声。
震える。
「魔王になった」
六人の誰も。
言葉を出せなかった。




