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『勇者ですが、勇気しかありません』  作者: asnt2026


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第十八話 捨てられたものの部屋

 中央矯正院。


 正面から見れば。


 宗教施設だった。


 白い石壁。


 神の像。


 美しい庭。


「正面から入る?」


 レオンが聞く。


「教会に追われている勇者が?」


 ミレイア。


「だよな」


「裏」


 シオン。


「さすが忍者」


「ただし」


 ポキッ。


「近づくまで俺から離れて歩け」


「自覚してる」


 セラの矢が示した《地下》。


 建物の東側。


 古い排水口。


「また水路……」


 ミレイアが顔を覆う。


「もう慣れよう」


「嫌」


 鉄格子。


 シオンが鍵を調べる。


「三十秒」


 カチャ。


 ポキッ。


 ガチャ。


「どっちが解錠音?」


「黙れ」


 中へ。


 湿った地下通路。


 しばらく進むと。


 壁が変わった。


 白。


 異様に清潔。


 扉。


《第一調律室》


《第二調律室》


《記憶整理室》


 レオンが止まる。


「記憶……整理」


 アルベルト。


 必要のない記憶。


 ロデスも言っていた。


 些細な記憶が整理される。


「嫌な名前」


 ノア。


 廊下の奥。


 足音。


 シオンが指を上げる。


 全員静止。


 兵士二人。


 近づく。


 シオンが。


 指を鳴らす。


 パキッ。


 反対側。


「何だ?」


 兵士たちが音へ向かう。


 六人は逆へ。


「完全に技になってる」


 レオンが囁く。


「不本意だ」


「でも便利」


「不本意だ」


 二度言った。


 さらに進む。


 小さな扉。


《私物保管庫》


「ここ?」


 ミレイアが開ける。


 そして。


 誰も言葉を出せなくなった。


 部屋いっぱいに。


 物があった。


 ぬいぐるみ。


 木剣。


 手紙。


 子供の絵。


 花飾り。


 壊れた笛。


 古い本。


 靴。


 首飾り。


 何百。


 いや。


 何千。


 一つ一つに札。


《対象二一四》


《不要執着物》


 別の箱。


《対象四〇八》


《家族関連記憶誘発物》


 ノアの手が震えた。


「これ」


 小さな木彫り。


 兎。


 札。


《対象五三一 セラ》


 その下。


《弟より贈与》


 ノアは木彫りを握った。


「ティオ」


 セラは忘れたのではない。


 忘れさせられた。


「全部」


 ガルドが部屋を見る。


「矯正された者の私物か」


 エルナが手紙を一つ取る。


 封は開いている。


 数行。


《お母さんへ》


《剣はまだ怖いけど、戦士になれなくてもいいと思う》


《畑を手伝う方が好きです》


 その横。


 処理理由。


《天職拒絶を強化するため没収》


「……なるほど」


 エルナの声が低くなる。


「何が?」


 レオン。


「彼らが消しているのは弱点ではありません」


 手紙を戻す。


「その人が、その人でいようとする理由です」


 ミレイアが拳を握った。


「家族も」


「好きな物も」


 ガルド。


「嫌いな物も」


 ノア。


「全部」


 シオン。


 レオンは。


 部屋を見た。


 もし自分がここへ入れば。


 何を捨てられる?


 怖かった記憶。


 逃げたかった気持ち。


 泣いたこと。


 笑ったこと。


 仲間と過ごした時間。


 それを全部取ったら。


 残るのは。


《勇者》。


 奥の机。


 書類。


 ミレイアが読む。


「これ」


《不適合者同時発生事例》


《二十六年前》


《対象数――六》


 全員が固まった。


「六人?」


 レオン。


 続き。


《通常矯正不可》


《自律反応確認》


《対象を第七観測区へ移送》


「自律?」


 ガルド。


 その言葉。


 どこかで。


 いや。


 初めて見る。


 だが。


 以前現れた。


《――――率 1%》


 ミレイアがページをめくる。


 次。


 破られていた。


「またこれか」


「第七観測区って?」


 ノア。


「分からない」


 シオンが別の棚を調べる。


「地図がある」


 広げる。


 第七観測区。


 位置。


 北。


 さらに北。


 人間領と魔王領の境界付近。


「魔王の近く?」


 レオン。


 その時。


 天井。


 カチッ。


 音。


 シオンの表情が変わる。


「まずい」


「何?」


「俺じゃない音だ」


 次の瞬間。


 扉が閉まった。


 ガシャン。


 外。


 足音。


 一人。


 二人。


 十人以上。


 そして。


 聞き覚えのある声。


「お待ちしておりました」


 ロデス。


「勇者レオン・アルヴァ様」


 レオンはため息をついた。


「毎回笑顔で出てくるのやめてもらえます?」


 扉の向こう。


「残念です」


「何が?」


「ここまで来れば」


 鍵が回る。


「もう保護では済みません」


 扉が開いた。


 教会騎士。


 その奥。


 ロデス。


「六名全員」


 笑顔。


「矯正します」

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