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『勇者ですが、勇気しかありません』  作者: asnt2026


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第十三話 音のする忍者

 エスタを出て三日目。


 次の街へ向かう途中。


「助けてください!」


 街道で一人の商人が六人の前へ飛び出してきた。


「落ち着いて」


 レオンが支える。


「何があったんです?」


「仲間が……!」


 東へ延びる旧道。


 そこにある廃関所を、十人ほどの盗賊が占拠しているらしい。


 商人たちの荷馬車が襲われ、三人が連れ去られた。


「騎士団は?」


「この辺りまで来るのに二日は……」


「分かりました」


 レオンが答える。


「行きます」


 ミレイアが見る。


「即答?」


「人が捕まってるんだぞ」


「勇者適合率」


「…………」


 レオンは能力表示を見る。


《14%》


「困ったな」


「助ける?」


「助ける」


「上がるかもしれない」


「でも放っておけない」


「なら行くしかないわね」


 ガルドが言う。


「ただし殺さない」


「もちろん」


 廃関所。


 石造りの古い建物だった。


 正面には盗賊が四人。


 裏手にも見張り。


「全部で十二」


 シオンが戻ってくる。


「人質は地下」


「見たの?」


「ああ」


「潜入できた?」


 シオンが黙る。


「途中まで」


 ポキッ。


「なるほど」


「笑うな」


 作戦会議。


「正面突破は?」


 レオン。


「却下」


 全員。


「早い!」


 ミレイアが地図を描く。


「人質がいる以上、大規模魔法は無理」


「俺が中へ入る」


 シオンが言う。


「大丈夫?」


「今度は鳴らさない」


 立ち上がる。


 コキッ。


「説得力!」


「……今ので鳴り納めだ」


「そんなシステム?」


 夜。


 シオンは一人、関所の外壁へ取りついた。


 音はしない。


 一歩。


 また一歩。


 窓へ手をかける。


 肩。


 ポキッ。


「誰だ!」


 見張りが振り向く。


「…………」


 シオンは目を閉じた。


 やはり無理。


 その時。


 あることを思いついた。


 わざと右手の指を鳴らす。


 パキッ。


「向こうだ!」


 見張り二人が右へ走る。


 シオンは左へ。


「……使える」


 さらに廊下。


 角を曲がる前に膝を鳴らす。


 コキッ。


 盗賊が音へ向かう。


 シオンは別の扉へ。


 敵が音に反応する。


 なら。


 音を消す必要はない。


 間違った場所で鳴らせばいい。


「何だこれ」


 シオンは自分で少し笑った。


 生まれて初めて。


 関節が鳴ってよかったと思った。


 屋根裏。


 ポキッ。


 敵が上を見る。


 地下階段。


 パキッ。


 敵が階段へ走る。


 さらに壁の向こうで。


 コキッ。


「何人いるんだ!?」


 盗賊たちが混乱し始める。


 その隙に。


 シオンは地下へ降りた。


 三人の商人。


 縄で縛られている。


「静かに」


「誰だ?」


「忍者だ」


 ポキッ。


「忍者?」


「今のは忘れろ」


 縄を切る。


 その時。


 地下室の奥。


 木箱が積まれている。


 盗賊たちの略奪品らしい。


 その中に。


 教会の紋章。


「……これは」


 一つの箱を開ける。


 銀色の輪。


 見覚えがある。


 ロデスが持っていた《天職調律環》。


 ほかにも書類。


 帳簿。


「何で盗賊が教会の荷物を」


 シオンは一冊を懐へ入れた。


 地上。


 レオンたちが待っている。


「遅い」


 ミレイアが小声で言う。


「大丈夫かな」


 その時。


 関所の中から。


 ポキッ。


 しばらくして。


 パキッ。


 さらに。


 ポキッ、ポキッ。


 レオンが首を傾げる。


「何してるんだ?」


 ガルドが目を細める。


「違う」


「何が?」


「一定間隔だ」


 エルナも気づいた。


「合図?」


 三回。


 休み。


 二回。


「シオンが出発前に決めていた符号ですね」


「いつ?」


「あなたがトイレに行っている時」


「俺だけ知らない?」


「勇者は捕まった時に喋る可能性があるから」


「信用低いな!」


 合図の意味。


《人質確保》


《正面撹乱》


「行くぞ」


 ガルドが立つ。


「どうやって?」


 レオンが訊く。


 ミレイアが笑った。


「騒ぐのよ」


 数分後。


 関所正面。


「盗賊どもー!」


 レオンが叫ぶ。


「人質は返してもらった!」


「誰だ!」


「勇者だ!」


 名乗った瞬間。


《勇者適合率――15%》


「うわ、上がった!」


「今!?」


 扉の陰からミレイアが叫ぶ。


「もっと勇者っぽくない言い方しなさい!」


「無茶言うな!」


 盗賊が飛び出す。


 ガルドが武器を受け流す。


 ノアが煙玉を投げる。


「それシオンの!」


「借りた!」


「返せよ!」


 エルナが結界で出口を塞ぐ。


 戦わず。


 殺さず。


 最後は盗賊全員を倉庫へ閉じ込めた。


「……できた」


 レオンが息を吐く。


 誰もレベルアップしていない。


 人質も無事。


 翌朝、商人たちを送り出した後。


 シオンが昨夜の帳簿を机へ置いた。


「これを見つけた」


 表紙。


《中央教会・職能調律局》


 ページを開く。


 記録。


 年齢。


 職業。


 症状。


《戦士――筋力欠落》


《魔法使い――発声不全》


《僧侶――信仰拒絶》


 六人が黙った。


「これ……」


 ミレイアの顔が青ざめる。


「私たちだけじゃない」


 ガルドがページをめくる。


 数十人。


 数百人。


 何十年も前から。


 同じような者がいた。


 最後の欄。


《処置先》


 ほぼすべてに同じ文字。


《中央矯正院》


 その下には。


《処置完了》


 そして。


《社会復帰》


 レオンはその文字を見ながら。


 アルベルトを思い出していた。


 昔のことは覚えていない。


 必要のない記憶だ。


「社会復帰って」


 ノアが小さく言う。


「本当に、その人のまま戻ってきたのかな」


 誰も答えられなかった。

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