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これはギルフォードがシャンティと出会う少し前のお話
父の日──それは涼暮月の第3日曜日に、父親に感謝の気持ちを伝える記念日。
ヨルシャ国では父親に限らず男性親族や友人知人もその対象になるが、そもそも”父の日”は平民層から生まれた習慣で、貴族層には馴染みがない。
例に漏れず、エリアスとクローネもつい最近知った。
ある日の食堂で、何を贈ろうか頭を悩ます他部署の軍人たちの会話を何気なく耳にしたその瞬間、エリアスとクローネは同時に頷いた。
私たちも、やるっきゃない。
親友であり、命の恩人であり、上司であるギルフォードに、エリアスとクローネは全力で感謝の気持ちを伝えようとサプライズイベントをすることを決意した。
……したのだが、多忙な日々が続いてしまい、何の準備もできないまま父の日を迎えてしまった。
*
休日の王都の朝市は沢山の屋台が並び、それを目当てにやって来た大勢の人々で賑わっている。
そんな中、エリアスとクローネは、ギルフォードへの贈り物を真剣な表情で選んでいる。
「うーん……日頃の感謝を形にするって……難しいよねぇ。実用的なものの方が喜ばれそうだけど、ギルってあんまこだわりとかないからどれにしよう」
私服姿のエリアスは、屋台を覗き込みながら隣にいるクローネに声をかけた。
「そうねぇ。黄色い花を贈るのが父の日の定番みたいだけど、それだけだとちょっと物足りないわよね」
エリアスより真剣な表情を浮かべながら屋台に並べられた品々を物色しているクローネは、休日なのに軍服姿だ。
貴重な私服姿が見れるかもと僅かな期待を持っていたエリアスは、若干がっかりしているが今はそれどころじゃない。
今日の予定は午前中に贈り物を選んだあと、ディアス邸に行きギルフォードにそれを渡す。
その後、鳥の丸焼きが美味しいと評判の店に移動し、3人で昼食をとる。無論、エリアスは全額負担する所存だ。好きな子にも、親友にも、今日はびた一文支払わせるつもりはない。
そう固く決めているが、財布を取り出したくても取り出せないのが現状だ。
かれこれ2時間近く屋台を見て回っているが、ピンとくるものがどうしても見つからない。
このまま悩みに悩んだ挙句、結局手ぶらで昼過ぎにディアス邸に訪問して、じゃあ良かったらと流れで昼食を食べさせてもらって、はい解散!
そんなことになってしまったらサプライズじゃない!いつもの休日だ。
ギルフォードには、言葉では言い尽くせないほど恩がある。エリアスは、それを一度も当たり前だと思ったことはない。
でも、どれほど感謝をしているか、友達として傍にいてくれるのがどれほど嬉しいか。それを口にしたくても、ギルフォードは巧妙に避けやがる。
この照れ屋!と怒鳴りたくなるが、エリアスはギルフォードの性格を熟知している。無理矢理伝えれば、ギルフォードは重荷に感じるだろう。
だからこそ父の日に便乗して、ちゃんと自分の気持ちを伝えたい。
自分の気持ちを再確認したエリアスは、ふんすっと鼻息を荒くする。
もうカッコつけた贈り物はやめにして、最後の手段として取っておいたギルフォードが絶対に気に入るであろうアレを購入することにした。
「クローネ、このままじゃお昼を過ぎちゃうから、俺に選ばせてくれる?」
「ええ、いいけど……」
変なものじゃないわよね?と言いたげなクローネの視線を避けながら、エリアスは「……多分」と小声で頷く。
クローネからの疑惑が更に強まったが、時間もないし代替案も浮かばない。
「うちらの前じゃ素直に喜べないけど、きっと一人っきりになったらギルは喜んでくれると思うんだよね」
「なにそれ?」
ポリポリと頬をかきながら思ったままを口にしたエリアスに、クローネは冷めた表情を浮かべる。
「いやだからさ……」
ごにょごにょごにょ。エリアスが買いたいものを小声で伝えると、すぐさまクローネは納得したように大きく頷いた。
「さすがエリアス、ギルのことちゃんと見てるのね」
「ああ……まぁね」
ギルだけじゃなく、君のことも見てるよ。などと口にできれば、少しは異性として意識してもらえるかもしれない。しかしエリアスは、空気が読める。
「じゃあ、ちゃちゃっと買って、移動しよう!」
口説くタイミングじゃないことを勘で悟ったエリアスは、身体の向きを変えて目的地へと急いだ。
それから贈り物と花束を購入したエリアスとクローネは、馬に乗ってディアス邸へと向かう。
昨日、ギルフォードにそれとなく休日の予定を尋ねたところ、特に予定はなく終日屋敷で過ごすらしい。
時刻は、もうすぐ正午。これならランチも間違いなく一緒にできるだろう。
当初の予定より少し時間はズレてしまったが、これなら問題ない。最高の父の日になるはずだ。
そう楽観視していたエリアスだったが──
「申し訳ございません。旦那様は、生憎留守にしております」
玄関先で、執事のドミールにそう告げられてしまった。
「えぇえーー!なんで!?」
大きな包みを抱えてぎょっとするエリアスの隣で、ヒマワリをメインとした黄色の花束を持ったクローネもがっくり肩を落とす。
そんな二人を見つめるドミールは、淡々とした口調でこう言った。
「ご主人様は、早朝から職場に向かわれました。部下が提出した書類に不備があったとかで」
「あ……!」
包みを抱えたまま、エリアスはバツの悪い顔になる。
昨日、ギルフォードへのサプライズにウキウキしすぎて、報告書を適当に書いてしまったのを思い出したのだ。
と、同時に隣から「お前か?またお前なのか??」というクローネの鋭い視線を痛いほど感じる。
エリアスはまた一歩、初恋成就が遠のくのを感じた。
「ええっと……じゃあ、僕たちは……本部に行くね。教えてくれてありがとう、ドミールさん。それでは!」
バッと片手を挙げてドミールに暇を告げたエリアスは、駆け足で馬にまたがると逃げるようにディアス邸を後にした。
明日も更新します!
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