3.星クズ運ぶ珍道中
ガタガタガタガタガタ……とロードメイカー足裏に備わっているキャタピラが景気の悪そうな走行音を立てる。
「……」
『……?』
白けた顔でモニターの前面を凝視するコウヤ。頬に指を当て、不思議そうに首を傾げるリア。2人は吐息だけで会話をしているようだったが。片方がしびれを切らす。
「おっっっっっせぇ! ナニコレ!?」
『どうやら機体のスペックに対して積荷がオーバーウェイト気味の様だな。40分じゃつかねーぞこりゃ……』
澄まし顔のリアは何処からともなく取り出した星型の浮かれた色合いの眼鏡と付け髭を装着し、博士帽を被りサイズのあっていないぶかぶかの白衣を羽織る。
『再計算する。ちょっと待ってて』
画面外から引っ張り出した黒板とチョーク。
手の動くスピードに一致しない速度でそれはそれは幼稚なイラストを交えたプランニング表があっという間に出来上がる。
プランA→重ぇ、遅ぇ、片道でおk。
プランB→軽ぃ、速ぇ、往復だるい。
『提案だコウヤ。プランA、要するにこのまま進もう』
「えぇ〜……夕方になっちまうだろ……」
『ならない。ボクの計算によると目的地までの移動時間は約75分。当初の予定よりはだいぶズレたが。まぁ密輸船への搬入に間に合えば連中も文句はねーだろう』
「じゃあ、それで行くか……ちなみにプランBって?」
『荷物を切り離して一個ずつ運ぶというものだ。快適にはなるんだろうが所要時間が論外過ぎる』
「プラン練る必要あった……?」
『ごめん。ボクもここまで打つ手が無いとは思わなんだ。まぁ、なんだ! 暇潰しにはなったろ?』
しれっとデフォルトの私服に戻ったリアがにこりと笑って見せるもコウヤは真顔で彼女の顔も次第にしれっとした表情に変わっていく。
「……」
『……』
沈黙に耐え兼ねてか、退屈に耐え兼ねてか。コウヤはほぼ変わらない景色を見て現状を再確認する。
「にしても、本当に進まねぇな……なに入ってんのコレ」
『……ガラクシー西部「ウェストーノ」の山岳地帯に群生しているハーブを星型の粉末状にした化学調味料なんだそうだ。便宜上はね』
リアでさえ大袈裟なアクションで反応するのにも飽きたのか遊び心なくモニターにただそのハーブの画像を表示させた。
腑に落ちたような表情で前を向き直すコウヤ。しかし、1つだけ引っかかっている言葉があった。
「ヘンリー・ジョン……?誰それ?」
『べ、ん、ぎ、じょ、う! こっちの台詞すぎるだろ! 誰だよそいつ!』
「そのヘンリージョンって人が調味料にされんの?」
『んなわけねぇだろうが! こえーよ発想が!』
ひと呼吸置くとリアは真面目なトーンで語る。
『詮索は止そうぜ。ボクたち清廉潔白で無辜なゴロツキには理解も遠く及ばない、裏の裏。深淵のお話だ』
「ふーん。そんなモンか」
『そんなモンだ。ボク達はただ、与えられた事を熟していけば良い。わざわざ覗き込んだって仕方ない』
ガタガタガタガタガタ……泥まみれのキャタピラの跡を泥まみれのコンテナが潰していく。遠く見える海が目的地までの道程を知らせた。
「良い天気だな。昨日の雨がウソみたいだ」
『ちょいちょい。天気とか気温の話なんてホントに最後の手段だぞ。なんかねぇのかぁ……?』
データの集合体である彼女が話題に困るほどの退屈が押し寄せていた。景色の話でもと思っても広がるのは点在する廃墟と広大な草原。語るに値しない物ばかりだ。
そんな中でも話をしていたいと思えるほどの「ナニカ」が2人の間には存在するのだろう。
「そうだ!」
しばらく真顔でロードメイカーを前進させ続けるのみだったコウヤだったがふいに、頬を緩め突拍子もなく言った。
「なんか歌ってよ、ヒマだし!」
『はぁ? 歌えってナニ? お前けっこうヤなノリの無茶振りしてるって自覚あるぅ?』
「いいじゃん! 聞かせてよ!」
『しゃあないなぁ。じゃ、最近のオススメをお一つ』
ごほんっと咳を1つするとリアは瞳を閉じて手を後ろに組む。左右に弾みながら口ずさみ始めた。
『ずんちゃちゃっちゃちゃちゃ……』
「いい入りだな」
とても耳に残るキャッチーな前奏をセルフで奏でるリアを微笑みと真顔の中間のような表情で見つめるコウヤ。幼い歌声はどこか楽しげでほんの僅かながら退屈を紛らわせた。
『えげつなーい……ハンバーグ……ふふふ〜んふ……』
「歌詞めっちゃうろ覚えじゃん……あってんのそれ?」
『なんだぁ? 注文の多い奴だなぁ……』
千里の道も一歩から。千里よりは遙かに良心的な距離で進む彼らの道程をリードするかのように一筋のひこうき雲がまっすぐとなぞっている。




