4、涙を禁じ得ない
「新入生代表、ロイフォード・ガルシア前へ」
「はい」
ブルーネル王立学院の大広間、その場にいる者達は尊敬、畏怖、嫉妬、恐怖、多種多様な感情を視線に込め、私の護衛対象である彼を凝視している
「ーーー新しい門出をみなさんと共に歩める事、そして入学生代表の挨拶を承る事を私、ロイフォード・ガルシアは誇りに思います」
(…………先日命の危険があったというのに、こうして無事に入学式に参加し、新入生代表の挨拶をしているとは………さっきまで一緒に歩いていたのが信じられませんね)
現在壇上に立ち新入生代表の挨拶をしているロイフォード・ガルシア様、あまりに立派な姿に涙を禁じ得ない、護衛する為に彼と同じ新入生として入学式に参加している私、ファスティー・エーデルシュタインはひたすらハンカチで涙を拭くが、すぐに視界が涙で滲む、ついさっきまで自分がロイフォード様と肩を並べて歩いていた事が遠い過去に感じる。
((…………あの女子生徒、入学式なのに一人だけ卒業式ばりに泣いてる………しかもあんなに号泣してるのに無表情なのはなんなんだ??………どういうテンションなのかわからん…………))
……………ひたすら無表情で泣いて涙をハンカチで拭っているファスティーの周りにいる新入生はおろか講師陣の殆どがそう思っていた、しかし当の本人はそんなことはつゆ知らず、感動の余りもはや走馬灯の様に数十分前のことを思い出していた。
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「改めて自己紹介をさせて頂きます、つい先日から貴方を護衛する事になったガルシア王国軍所属ファスティー・エーデルシュタイン少佐、命を賭して貴方を守り抜く事を誓います」
「ああ、改めてよろしく頼む、〝カルブンクルスの悪魔〟が護衛ならば心強いな」
「ロイフォード様も知っていたんですね」
「ハハ、灰燼白髪爆裂炎眼の宝石魔法師、ガルシア王国軍が誇る〝カルブンクルスの悪魔〟を知らぬ者はそうそう居ないだろ」
「ですね」
「………もしかして照れてる?」
「…………そうですね、少し照れくさいです」
「可愛いところもあるんだな」
「~ーーッッッ、お、お戯はおやめください!!」
「何だ何だ、また照れたのか?、天下の〝カルブンクルスの悪魔〟にも意外な弱点があるんだな」
「………もしかしてロイフォード様はサディストの気があるのですか?」
「かもな………白髪はわかるがなぜ爆裂炎眼と言われているんだ?」
「よく爆発魔法を使いますので……」
「成程爆炎に例えられているわけか」
「白い髪に赤い瞳………私の容姿は悪魔染みてて不気味でしょう?、だからその名前は苦手なんです」
「そうなのか?、灰というよりは銀世界を連想させる綺麗な白髪に紅玉石の様に輝く瞳、俺は結構気に入ったぞ、〝カルブンクルスの悪魔〟って名前もなんだか強そうな響きで好みだ」
「~~ッッッ!………あ、ありがとうございます」
お互いブルーネル学院の制服に身を包み、学院へ向かう道中、改めて自己紹介をする私、ファスティー ・エーデルシュタイン、護衛対象であるロイフォード様は〝カルブンクルスの悪魔〟が守ってくれるなら心強いと返事をしてくれる………〝カルブンクルスの悪魔〟というのは私につけられた異名だ、正直知り合いにそう呼ばれると気恥ずかしい、私の心を見透かす様にロイフォード様はここぞとばかりに褒めてくる………こんな異名をつけられるくらい白い髪に赤い瞳、悪魔の様に不気味な私、それを端的に表している〝カルブンクルスの悪魔〟という異名はあまり好きではない…………しかし、ロイフォード様はそんな不気味な私の容姿を誉めてくれた、珍しい言葉に動揺してしまう、更に〝カルブンクルスの悪魔〟という名前も言葉の響きを褒められ、狼狽してしまう私。
「ふふ、やっとやり返すことができた」
「やり返す?」
「ーーー!、あ、えーーと気にするな、ただの言い間違えだ」
「はぁ……そうですか」
「………にしても、ファスティー まで入学するんだな」
「はい、やはり学生という同じ立場の方が一緒に行動しやすく、周りの人間には私が護衛だと露骨にわかるようにはしたくありませんので」
「………悪いな」
「?」
「俺の護衛の為にわざわざ入学までさせて………」
「ーーー!………本当にお優しいんですね、気にしないでください」
「………俺の都合で人を付き合わせているこの状況は嫌でも気になる」
「………確かに入学するきっかけは護衛任務です、しかし私としても好都合なのですよ」
「?」
「物心ついた時から訓練の日々、そして幼少期にはもうすでに戦場へと足を踏み入れていました………当たり前ですが戦場に教育機関などありません、なので任務と同時に学習過程を終えられるのならば私にとっても効率が良いのです」
「そう……なのか?」
「はい、ですから後ろめたく思う必要はありません」
「そうか………良かった」
「案じてくれてありがとうございます」
「ーーーッッ、ほら無駄口叩いてないで急ぐぞ、入学初日に遅刻なんて勘弁だからな」
「了解いたしました、ではここにお立ちください」
「…………」
「どうされました?、此方へどうぞ」
「まず何をする気なのか聞きたい」
「風の魔力が宿っている翠玉石を触媒に風魔法を発動させてロイフォード様を撃ち出します、現状最速で学院につける方法と愚考します!」
「………そこまで急がなくて良い、普通に歩いていれば入学式の十分前にはつける筈だ」
「そうですか、失礼致しました」
何かを呟いたが、気にするなと言われれば聞き流すのが私の仕事、雑談をしながら歩いていると不意に神妙な顔で謝罪をするロイフォード様、何故謝罪されたのかわからず疑問符を浮かべていると、どうやら護衛をする為に私を学院に入学させてしまったことに対する謝罪だった様だ………彼の心の優しさになんだか胸が熱くなる、懇切丁寧に自分も都合がいいと説明すると、幾分か溜飲が下がったロイフォード様、彼の気遣いに感謝を述べると顔を背けてる歩みを早めるロイフォード様、確かに入学式に遅刻なんてしたら冗談では済まない、ロイフォード様の冷静で正確な判断を可及的速やかに実行する為に風魔法でロイフォード様を撃ち出そうと準備を整え、ロイフォード様に提案するも、そこまではしなくていいと断られてしまう
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