2、婚約者様達に変装するなんて万死に値する2
「こ、これは一体………」
「見た通りです、婚約者に扮しロイフォード様を襲おうとした敵を無力化しました衛兵殿」
「なっ、何だと!!?」
「ですが油断禁物、まだ周囲に敵は潜んでいるかもしれません、見たところかなり精密な変装が可能な魔道具を所持しているようです、もしかしたら変装だけでなく風景に溶け込む擬態能力やまさかとは思いますが透明化など高位魔法に匹敵する効果を発揮する魔道具の所持も考えられます…………お互い今まで以上に気を引き締めてここにいる人達を守り抜きましょう」
「ハッ!!了解しました少佐殿!」
騒ぎを聞きつけた衛兵達が駆けつけ、私は彼らに事情を説明、納得した彼らと私は警戒心を高める。
「…………ふぅ、危ないところでした、大丈夫ですかロイフォード様」
「な、な、何をしてるんだファスティー?!」
「…………成程、まだ混乱してるんですね、無理もありません、我々のような戦場上がりならいざ知らず、王族であるロイフォード様が本当の命の危険に瀕したんです、取り乱しても仕方ありません」
「は?、命の危険?」
「ええ」
間一髪のところでロイフォード様を守る事ができた私は一息つきながらロイフォード様に話しかけるも、慌てた様子の彼………まぁ仕方あるまい、いくら王族といえど本当の命の危機に瀕したら平静を保つなど困難だろう。
「えっと………どういう事だ?」
「王族本人の入学を祝うパーティーで突然口頭で婚約破棄を一方的に告げるなどありえません、百歩譲って婚約破棄をするにしても事前に書類を通達し、綿密な計画を立ててから落ち着ける環境で冷静に話し合うもの…………理知的で聡明な婚約者シャーリー様や第四王子ロゴミス様がこのように突発的で感情的な愚行をするわけがない、つまりこの二人は変装した偽物、婚約破棄などという戯言でロイフォード様を動揺させ襲おうと企んでいた暗殺者と愚考します」
「へ?、そう……なのか?」
「ええ、私でも一見見分けがつきませんでしたが、見た目は完全に再現できても中身までは再現できない魔道具を使っているのでしょう、彼女たちの常軌を逸した発言の数々によって看破できました」
(見分けがつかないって………それって本物なんじゃ…………というかいきなり閉じ込めて魔法で爆破する貴方の行動も常軌を逸しているような気が………)
どうやら自分の命を狙われている事すら気づいていなかったのか、ロイフォード様の質問に私は理路整然と答える、だが尚も疑問符を浮かべ続けるロイフォード様……お労しい、どうやら未だ自分が暗殺者に狙われていたと実感が湧かないのだろう。
「……っていうかあんな爆発魔法を受けて二人は大丈夫なのか?」
「安心してください抜かりはありません、密閉空間で爆発魔法の威力を底上げしておきました、確実に仕留めた筈です」
(いや、生きてるかどうかを聞いてるんであって確実に仕留めたかどうかは聞いてないんだが………)
護衛の私の任務達成率を即座に確認するロイフォード様、私は爆発魔法の威力の底上げをしたことを報告する………まさか戦場にも出た事のない彼がそこまで細かいところまで意識がいくとは…………さすがは王族、経験が無くとも本質や核心に至る並々ならぬ直感力を備えているのだろう、頼もしいが末恐ろしくもある。
「誰か手の空いている衛兵はいませんか?」
「ハッ、何用ですか少佐」
「私はロイフォード様の護衛任務がある為動けません、まだ辛うじて生きているはず、その二人の尋問は衛兵にお任せいたします」
「承知いたしました」
「ロイフォード様を襲おうとした暗殺者です、多少手荒になっても構いません、情報を洗いざらい吐かせてください」
「ハッ!!」
「手間取るようでしたら護衛任務の引き付きが終わり次第そちらの手助けに向かいます」
「心遣い感謝いたします!」
私は近くの衛兵を呼び、制圧した暗殺者二人を衛兵へと引き渡す。
「いえ、こちらこそありがとうございます…………全くシャーリー様達に変装するだけでも罪深いのに、あまつさえ同じ顔であのような愚かな発言をするなど万死に値します、無数の星々が煌めく夜空のような黒髪、黒瑪瑙の様な輝きを放つ眼と血を触媒としてありとあらゆる武器を変幻自在に作り出す血液魔法を扱うロイフォード様の上品さ、気高さ、高貴さを理解できず、吸血悪役王子などと揶揄するなど言語道断」
「ッッ!?、ななななな何を言っているんだ!?」
「?、…………成程、沸点が低くこの様な些事で感情制御をしきれず怒りを剥き出し、暗殺者達が宣う戯言に一々心を乱していては護衛なんて務まらない……とそう言いたいのですねロイフォード様」
「へ?」
「大変失礼いたしました………確かにその通りです、本来最低でもパーティーの前日に目標を補足、鎮圧するのが護衛としての責務、そもそもここまでの接近を許している時点で護衛としては半人前以下、護衛に限らずありとあらゆる事で必要な冷静な判断と的確な行動をする為に先ずは完璧な感情制御を目指せと………勿体無いお言葉恐縮です」
「え?」
「この様な未熟者が護衛ではさぞご心配でしょう…………この失敗を教訓にして次の任務の達成率を向上させる様誠心誠意努力致しますので何卒ご容赦をお願い致します」
「い、いやだから、その……」
私の言葉に顔を真っ赤に染めて怒っているロイフォード様………私は彼の意図を完全に汲み取る、護衛である私が暗殺者が標的へ近づく為、殺しやすいように効率的にするためにしただけの発言に怒りをあらわにしている事がロイフォード様の怒りに触れたのだろう、確かに暗殺者如きの戯言に耳を傾け、あまつさえ感情を抑えきれずにいるなど護衛としてあまりに未熟………ここまで先見の明を持っているなんてあまりの才能に恐怖すら感じる、これでまだ実戦未経験の十六歳とは…………ロイフォード様の類稀なる才能に驚愕する。
「無論、非力な女かつ少佐如きの護衛ではご納得いただけないのであれば私などと比べほどにならないほど優秀な護衛を手配いたしまーーー」
「ーーー!、だ、大丈夫だ!!」
しかし、ロイフォード様の気持ちも十二分に理解できる、勿論、自分なりに全力は尽くしたつもりだ、だがそれでも完璧では無かった、無論反省点を振り返り次に生かすつもりだ………だがいつでもその〝次〟があるわけじゃない、今回が最後だったら〝次〟はない、その言い訳はロイフォード様が生きている間だけしか通用しない、彼が納得できないのであれば他の護衛を用意する旨を伝えようとするが、ロイフォード様が途中で言葉を挟んでくる。
「………大丈夫とは?」
「だ、だからその………ファ、ファスティーで良い」
「………〝で良い〟………ですか………私の様な愚かな未熟者でも傷つけない様に労る、正しく王にふさわしき民に寄り添う優しい心………ですが、私如きの為にロイフォード様に負担をかけるわけにはいきません、心配が払拭できないのであれば今すぐにでもーーー」
「ーーーファ、ファスティー 〝が〟良いんだ!!」
「…………成程、承知いたしました、私ファスティー ・エーデルシュタインはロイフォード様という太陽をお守り致します、例え力尽き蝋で固めた翼もがれ地に堕とされようとも」
「あ、ありがとう」
「まさかこのような失敗を犯した私を許していただけるとは………ロイフォード様の晴天のような一点の曇りもない果てしない広さ、深海のような深さ、太陽のように輝く眩しさを持つ心の器に私はただただ感激することしかできません」
(な、なんかまた勘違いをしている………ちょっと変な人だけど…………でも俺の髪と目をあんなに純粋に、一点の曇りない眼差しで褒めてくれたのはこの人が初めて…………かもしれない)
……….初日でここまでの失態を犯した私を許すという彼の言葉、私を労るロイフォード様の言葉は温かった、しかしその優しさに甘えるわけにはいかない、ロイフォード様の言葉から察するに無理をしているのは明白だ、潔く身を引こうとするも彼は私に言い直す、私〝が〟必要だと………私のような未熟者に命を預けるというその言葉、どれほどの勇気が必要なのかはわからない、顔をあそこまで紅潮させて、きっと命の危険を感じて緊張してしまっているのだろう、だけどここまで気高さを見せられては私も命を賭して彼を守り抜くしかない、彼の心の器のデカさについ涙が溢れてしまった。
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