13. 昔話
秋人と匠は久宝寺ダンジョンの最後について詳細に語った。
「ははー。ではその守神みたいなべっぴんは神崎さんのとこへ引っ越したんか」
「そうやねん。いきなり消えるからまじでびっくりしたわ。ええな、あれ。瞬間移動っての。俺も使えたらよかってんけどなぁ」
しみじみと匠が語る。
「でも、結構使用に制限があるんですよ。飛べる場所はすごく馴染みのある覚えている場所か、覚えている魔力の型の人物のとこだけだし。出発地点や出口がダンジョンだとそれなりだけど、何もない普通の空間同士だとかなり魔力食うんです」
秋人の説明に、魔法師系ではない2人は「はーん」とわかったような、分からないような返事を返した。
「ところで、秋人くんは俺に何か聞きたいことがあったからきたんやろ?」
と大善が告げると、秋人は神妙な顔で頷いた。
「はい、匠さんの剣は少しだけ父の剣筋に似ているような気がして。だとしたら、匠さんに剣を教えた方は、もしかしたら父のことを知ってるのではないかと」
秋人の返事に大善は大きく頷いた。
「まあ、お前さんの両親はどっちもSランクの探索者やったからな。知らない仲じゃない。だが、聞きたいのはそこじゃないやろ?」
大善の答えに秋人は躊躇いながら頷く。
「救世来神教はご存知ですか?」
秋人の口からその名が出た途端、大善の顔が厳しいものに変わった。
「やはり奴らはお前さんに手を伸ばしてきたか」
「はい。最近では薫が暗殺されかけたり誘拐されたりしたし、僕の婚約者が殺されそうになりました」
「こんやくしゃ!お前16歳で婚約者いんの!?」
匠が思わず声をあげると、大善はぽかりとその頭を叩いた。
「黙って聞いとけ。お前にも関係ある話や」
「え?」
匠と秋人の両方が思わず声を漏らした。秋人は匠はまったく関係ないと思っていたのだ。
「むかし、むかしの話だ」
大善は難しい顔をしていた。
「現代の久宝家の当主はクソだが、4代前に立派な当主がおったんや」
「久宝三門って人ですか?」
秋人が聞くと、大善は少し驚いた。
「よう知っとるな」
「ダンジョンの姫が名当主だったって言ってました」
という秋人の答えに大善はおおいに頷いた。
「俺はまだガキやったがあの方はすばらしい人やった。実力も抜きんでとったし、頭も冴えとった。なにより、人格がなぁ、申し分のないええ人やったわ。蔵持当主やのに気取ったところがなく、戦闘以外では温和で家族思い。まあ、理想の当主やった」
大善の脳裏には今も華やかだった久宝家の様子が思い浮かぶ。
トップがそんな調子だったから一族もよく纏まり、不平不満など何一つない平穏な日常を営むことができていた。
「ある日のことやった。1人の女が現れた。長い髪と烟る様な瞳の、見たこともないほど美しい女やった。おまけにたいそうな回復魔法の使い手で献身的に三門に尽くした。暴漢に襲われそうなところを三門が助けたらしい。連れて帰ってきた時にはもう遅かった」
三門は恋に落ちた。
彼には当時妻も子供もいた。なので、女とは愛人という関係だった。あの品行方正な彼がそんなことを?と眉を顰める者もいたが、とにかく美しい健気な女だった。三門を庇って怪我をしたり、大善の父の大きな欠損を一晩かけて修復してくれるような女だった。
欠損を回復できるほどの回復魔法師というのは、そうそういない。一族は女の貴重性を考慮して見て見ぬふりをした。
「ある日、女が三門に告げたんや。自分は救世来神教に追われているとな」
大善の顔は暗い。
「彼らは執拗にわたしを追っている。連れ戻されれば好きでもない男たちに与えられる、子供を産むためのおぞましい道具にされるだろう。あなたを愛しているのでそんなことは耐えられない」
女がそう話しているのをたまたま大善は聞いてしまった。救世来神教という単語だけが大善の心に不吉な影を落とした。
「そして、三門は消えた」
大騒動だった。当主が失踪したのだ。女も消えた。
駆け落ちだとか、不倫旅行だとかゴシップが流れたが、三門の嫁はガンとして受け入れなかった。あの人がお家の義務を放棄するはずがない。子供たちを放り出すわけがない、きっと事件に巻き込まれたのだと泣きながら言い張った。
大善は、その時ふとあの2人の話を聞いたことを思い出し、彼女に話した。
すると、彼女は真っ青になってあちこち連絡を入れだした。三門の妻は「救世来神教」という単語は知らなかったが、蔵持の家から子や人を攫っていく組織があることは知っていた。彼女の従姉妹が行方不明になったからだ。
「何もかも遅かった」
大善の声は苦い。
方々探すと三門らしい男が船に乗せられたことがわかった。外国へ彼は連れ去られたのだ。
「あれほどの腕前を持つ男をどうやって拐かしたのかまったくもって分からんかった。救世来神教という単語は、それから久宝家では仇敵の名前と同じになったんや」
「その女って…」
「救世来神教の信徒だったんだね」
「おそらくな」
久宝家は全勢力をあげて調べていたが、一向に三門の行方はしれなかった。それどころか、救世来神教の痕跡さえ掴めなかった。
「そうこうしているうちに50年前のダンジョン顕現が起こった」
久宝家も無事には済まず、多くの血族、親族を失った。当主を無くして右往左往していた久宝家はあっという間に衰退していった。
「章さんは三男やったさかい、覚悟がなかったんやろうな」
妻と普通に暮らしていたところへ転がり込んできた久宝の当主の座。
長男とはあからさまに差別されて育ってきたが、それは己の身をダンジョンに捧げるための代償のようなものだった。それなのに。兄は安楽死し、自分が恐ろしい生贄にされる。
そのことが章には耐えられなかった。
「彼はもともとあまり強くなかった。魔力も心もな」
大善はふうっと深くため息を吐いた。
おまけに、彼はごく一般人の花嫁を迎えていた。生まれた長男は明らかに魔力の兆候が見られず、十歳の儀式を見送ったくらいである。綾も同じくそれほど魔力が高くなかった。回復魔法師の布石とするということで、これも儀式を見送ったのだ。
章は次代へと繋ぐこともできない無能と言われ続けた。匠が生まれるまでそれが続いたのだ。
「そこに現れたんが、お前さんの親父さんや」
「お父さん?」
大善はこっくりと頷いた。
「親父さんは恐ろしいくらいに三門にそっくりだった」
「え?」
匠が驚きの声をあげるも、秋人はだいたい予測していた。
「顔だけじゃない、剣技もまるで瓜二つやった。映像でしか見たことない章にとって三門のコピーのような男が現れたんや。どうなると思う?」
「うわあ」
匠が嫌そうな顔をする。
「そうや。章は久宝の家を、生贄になる運命ごと春彦に押し付けようとしたんや」
章はおそらく春彦が三門の血を引く者だと思ったのだろう。執拗に春彦に出自を尋ね、三門を知らないかと迫った。
春彦は常に「知らない」と答えていた。おそらく本当に知らなかったのだろう。自分の『材料』となった男の名前など。
だがある日、とうとう章は尋ねた。
「お前は救世来神教を知っとるか!?」
と。その名前を外部の人間から初めて聞いた春彦は動揺した。つい反応してしまったのだ。その様子を章は見逃さなかった。
「知っとるんやな?やはりお前は三門の血縁なんやろ?なあ?それなら俺は久宝家をお前に返す。当主はお前や」
とそう縋ったが、春彦はがんとして聞き入れなかった。
それはそうだ。春彦からしたら寝耳に水の話だし、日本での蔵の風習は義父の四季から聞いて知っていた。自分たちにその血が入っているかもしれないことは十分理解していたし、その厄介な運命もわかっていた。
「悪いが、俺は関係ない。如月四季が俺の父親だ」
そう言って章を振り払った。
「章は春彦が死ぬまで、粘着をやめなかった」
大善の言葉の重さに匠も秋人も沈黙するしかなかった。
匠「三門ってイケメンやったん?」
大善「ああ。いわゆるあれだ。『初恋泥棒』ってやつやったな。本家はもとより、槍持も剣持も女は全員こどごとく三門が好きやった。やろうと思えばハーレムやって作れたやろうに」
匠「・・・・・・・ちら」
秋人「僕は美香一筋です」
次回の更新は 7/15(木)です。
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更新日間違ってるううう 7/16ですヽ(;▽;)ノ
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