表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十七章 代理人、大阪遠征に行く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
316/325

10. 久宝寺ダンジョン 3

 一行は翌日の朝早くに出発し、昼前にはダンジョンボスのいる祠にまでたどり着いた。瑛人は

「嘘だろう」

 と半ば呆然と呟く。ここまで来るのに慣れた者でも通常は5日間の筈だ。さらに驚いたのは、秋人が鳥居を簡単に潜ったことだ。

「待て!」

 匠が慌てて止めるも、秋人は平然とした顔である。久宝寺ダンジョンを守ってきた一族の末裔たちが呆然としている。この鳥居を潜れるのは一族の長クラスだけの筈なのだ。

 

「お姉さん、いる?」

 秋人が祠に向かって声を掛ける。すると、視界が切り替わるように一行の前に巨大な樹が出現した。匠と瑛人は言葉もなく立ち尽くした。こんな光景は見たことがない。

 

【おや、私と話せる龍がまだいたか】

「こんにちわ」

 秋人が丁寧に挨拶すると、樹の根元に座り込んでいた女性がゆっくりと顔を上げた。その顔は新潟の姫と同じだったが、ひどく病み窶れた顔だった。

 

「樹が枯れてる」

 薫の呟きに女性はゆっくりと首を傾げた。

【妾の力が尽きようとしておるからの…とはいえ、何とも麗しいのが参ったな。こちらに来て顔を見せておくれ】

 女性の言葉にしたがって薫が歩み寄ると、彼女は感慨深そうに頷いた。

【最後の最後にこの顔を見れたのは悪くないのう】

「あの、私の顔ってそんなに珍しいのですか?」

 思わず薫が尋ねると、女性はふっと小さく笑った。

【我らの主神の顔に似ておるのだ。加護も深かろう】

「マジか」

 薫は唸った。異界の神様と同じ顔とか壮絶に厄ネタにしか思えない。

【似てると言っても人間レベルじゃ。同じではないぞ】

 と女性は釘を刺したが、だからと言って薫の心労が減るわけではなかった。

 

「お姉さん、今からダンジョンを閉じる予定なんだけど、このままダンジョンボスを討伐して大丈夫ですか?」

 と秋人が尋ねると、彼女は少し困った顔をした。

【そこの、一族の長がそう決めたのならば、仕方あるまい】

 女性が匠を指さす。

 

「いや、俺は長じゃねえよ」

 匠が慌てて首を振るも、女性はじっと匠を見た。

【三門以来の立派な族長じゃ。何度も荒れそうなところを1人で抑えておったろう。魔力回路がそんなにボロボロになるまでよう頑張った。それに、よく修行もしておる。そなたのような立派な長に送ってもらえるなら妾も満足じゃ】

「みかど…って、久宝三門?4代前の」

 と瑛人が驚きの声をあげた。近代では伝説の当主だ。28才の若さで行方不明になったが。

 

【そなたが、命を捧げる前に閉鎖できてよかった】

 ぽつりと女性が呟く。匠は複雑な顔をしていた。

「俺は、でも主様にちゃんと捧げるつもりやったで」

 匠が思わずそう告げると、女性は嫌そうに顔を顰めた。

 

【不要じゃ。そもそも当主や一族の命を捧げるなどという愚かな行為が広まった所為で、妾たちは立ち行かなくなったのじゃ。そなたはこれからも生きて元気に暮らすがよかろう】

 と女性が爆弾発言を行い、匠だけでなく朽木家の3人も愕然とした顔になった。

 

【おそらく、血が弱まった所為かうまく魔窟を攻略できなんだ者がやり始めたのだろう。命をもっての盟約の強要じゃ。妾たちは力を削られる羽目になり、徐々に魔窟を支配できなくなって、魔窟は暴走するようになった。そのことで、さらにお主らは命を差し出すようになったのだ。悪循環じゃな】

 女性の言う内容はこれまでの犠牲が無駄だったと言われているようなものだ。とうてい蔵持たちは納得できないだろう。

 

 しかし、秋人は蔵は関係ないのでさらに尋ねた。

「蔵を閉めたらお姉さんはどうなるの?」

【消滅する】

「消滅したら新潟の姫や小姫にも影響がある?」

【・・・・・・まあ、今すぐではないがな】

 女性は少しだけ言葉に詰まった。あまりよい影響ではなのだろう。

 

「僕に何とかできる?」

【何とかしてどうするのだ。そなたを著しく損なうことになるし、そもそも覚えておらぬのだろう】

 そこの…と女性は匠を指差した。

【その者が本来なら御霊送りを行うべきだが、その技量はない。血統ではないものが門を開くのはかなりの重労働じゃ。この短期間で行うべきではない】

 女性は新潟の姫と同じことを言った。

 

【安心するがよい。妾が失われたとしてもそれは初めてではない。50年前のダンジョン乱立が起こった折に、結構な数の原初の魔窟がダメになった。もう取り返しはつかん】

「取り返しがつかない?」

【ああ、失われた魂は戻らない。妾は許されることなく消滅する運命に決まった】

 女性はふっと息を吐いた。

 

【全ての禊が終わって魂を常世に全て返すことができれば許されることになっておったが、やはり業が深かったな。残念ながら妾は欠けてしまった故、元の世界には戻れぬ】

 女性の声には深い諦念が刻まれていた。

 

「新潟の姫も、小姫も死んじゃうの?」

 秋人が尋ねると彼女は小さく笑った。

【そなたが覚えていてくれているうちは、死にはせぬだろう】

 

「俺に!」

 匠が不意に声をあげた。

「俺に何かできませんか?少なくても、本来それはうちの義務やったんやろ?」

 匠の言葉に女性は美しい笑みを浮かべた。

【末長く幸せに暮らしておくれ。それが長年そなたたちを見守ってきた妾への代償じゃ】

 匠が唇を噛み締める。彼女を救ってやれないのは、己の力量が足りない所為だとわかっていた。

 

【さ、おやり。今なら黒龍は眠っておる。頸を斬ってやっておくれ。それで長い勤めが終わる】

 女性の言葉に秋人も匠も動けなかった。

 

 

「あの、一つお伺いしても?」

 と当夜が女性に尋ねた。あまりにも意外な人の反応だっただけに、周囲の人間も固唾を飲んで見守る様子だ。

 

「分体にはなれないっすか?」

 当夜はなおも続ける。

「いや、うちに新潟の姫の分体ってのがいるじゃないっすか。あれみたいにできれば、とりあえずうちのダンジョンに引っ越して、それから続きは考えたらよくね?」

「ああ、なるほど。それはいけそうですか?」

 と薫が尋ねると初めて女性の顔に困惑が浮かんだ。匠と瑛人も「うちのダンジョンとは?」と思ったがとりあえずおそらく今突っ込むところはそこではないので黙っていた。

 

【面倒ではないか?】

「いや、1人も2人も一緒ですよ。根っこは同じなんでしょ?あなた方」

【まあ、そうだが…】

「本体がなくなっても無事ですか?」

【いや、本体がなくなるので、ほぼ自由は効かなくなるが、消滅は免れるな】

「なら、それでいきましょう。当夜!ナイスアイデア」

 珍しく褒められて当夜は嬉しそうに頷いた。

 

「枝が枯れてるけど、大丈夫?」

 秋人が尋ねる。新潟の姫が大樹から一枝切り出したのを思い出したのだ。

【当主、あの枝を切ってくれ】

 女性は一つの枝を指し示した。小さな枝で一つだけ花をつけていた。

【もはや、あの程度にしか力が残っておらぬが、妾の力で分体を作るにはあれが精一杯じゃろう】

 女性の言う通り、匠は小枝を自分ができる最高の技で丁寧に切り落とした。

 

【うむ。美しい手じゃ】

 女性は匠の技に込められた優しい想いに頷いた。

【そなたは、ここ何代かの中では最高の当主であった。努力家で勤勉で真摯であった。誇るが良い】

 匠の目尻に涙が浮かぶのを瑛人は複雑な気持ちで見ていた。

 

 こんな風な匠を初めて見たのだ。瑛人だってそれなりの探索者(シーカー)だ。匠が自分たちの前でわざとできないように振るまっていたこと、1人でずっとこのダンジョンを支えていたことはもう分かっていた。

 けれども、こんな不思議な神様のような存在に認められるほどであるとは、思っていなかった。

 

「長い間、ありがとうございました」

 匠は師匠に習った通りの礼儀作法で膝をつき、最大限の敬意を払った。瑛人も慌ててその横に倣う。

【達者でな】

 女性はそう囁くと、淡い光のようになって消えてしまった。後には細い枝だけが残った。

 

 

「僕、家まで届けてくる」

「ああ、そうだな。あんまりおいとくと萎れるからな」

 秋人の言葉に薫が何気なく頷く。

「え?」

 と匠と瑛人が小さく疑問の声を上げるのと同時に、秋人の姿が掻き消えた。

 

 あまりの事に声もでない2人を放り出して、神崎家と朽木家は平気で会話を進める。

「地下には先生しか入れないのでは?」

 と巌が尋ねると、薫は肩をすくめた。

「最近秋人も出入りできるように変更したんですよ。私だけだと何かと不便なので」

「いいなー、俺も瞬間移動(テレポート)できるようになりたいっすよ」

 当夜は魔法師ではないので、瞬間移動(テレポート)の魔法は使えないのが悔しい。しかし、薫は当夜に平然と言い放った。

「何か魔石持ってきたら秋人が作れると思うぞ」

「え?本当ですか?」

 薫の言葉に巌と聖夜が食いつく。

 

瞬間移動(テレポート)って?」

 何とか匠が立ち直って切り出したので、薫はしれっと答えた。

「もうじき発表されますが、私の師匠と秋人のご両親が開発した魔法です。なかなか便利ですよ」

 と言ってる間に秋人が帰ってきた。

 

「ただいま」

「どうだった?」

「小姫が嬉々として植えてた」

「そうか。なら大丈夫そうだな」

 言葉が出ない2人を見て秋人は小首を傾げた。

 

「ちゃんと面倒みるから心配しないで」

「ちゃうし、そういうことちゃうねん!」

 と言葉にできないもどかしさを匠が何とか形にしようとしたが、ふっと真剣な顔になった。魔力の流れが変わった。

 

「あかん、ダンジョンが…」

 匠の言葉に一同も気持ちを切り替える。

「姫がいなくなったからな。黒龍が完全に目覚める前に頸を切るぞ」

 と薫の言葉に全員が戦闘態勢に入った。

 

 ご神体と呼ばれる鳥居の先の暗黒。そこへ向かって魔力の巨大な流れが出来つつある。

「じゃあ、やりますか。当夜、30秒よろしく」

 薫が杖を構える。当夜が頷いて薫の前面に展開した。

「秋人、俺が削るからあとは頼むぞ」

「うん」

 次々と小物のモンスターが出現し出す。巌と聖夜も得物を構えた。匠と瑛人も身構える。

 

「そうそう余所者にええ格好、させられへんからな」

 と匠が笑うと瑛人も「おう」と大きく頷いた。

「頼りにしてます」

 と薫が囁く。

 戦闘開始だった。

匠「なんかもう俺混乱してる」

瑛人「大丈夫、俺もや」

匠「東京の探索者はんぱねぇな」

桜子「ひどい誤解!」


次回の更新は7/5(日)です

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
人間、楽を覚えると破綻するまで楽な方向で動いてしまう悪例ですね。
一族の長扱いされてない可哀想なオヤジ殿が居るけど残当である。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ