表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十七章 代理人、大阪遠征に行く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
312/327

6. 片伊勢家

「ただいまー」

 という元気な声で莉音が玄関口で挨拶する。大きな和風建築の屋敷の巨大な玄関だ。東京なら下手したらこの大きさの部屋があるなというレベルである。


「まあまあ、莉音。大きな声で」

 奥からやってきたのはふくよかな婦人だった。

「いらっしゃい。遠いところようこそ」

 莉音の母らしい人物は微笑んで、一行に入るよう促した。

 

「この人数でお邪魔するのは申し訳ないのでホテルを取ります」

 と薫は当初は言っていたのだが、部屋はたくさんあるし、ダンジョンを間引くための人員をいつもたくさん世話しているから大丈夫と言われて、今回の滞在中は片伊勢家に世話になることになっていた。

 その方が冬由と莉音にもちょうどよいだろうと思ったのだが、素行の悪い男がいるのが少々気がかりだった。

 

「やあ、よくいらっしゃった」

 居間に通されると痩せて顔色の悪い男性がソファに腰掛けていた。

「片伊勢家当主の進です」

 男性は莉音と音々の父親だった。

「どうにもお見苦しいところをお見せして申し訳ない」

 彼はあまり具合がよくないようだった。

 

「お父さん、寝てないとあかんやん」

 と音々が諌めるも、彼は大きく首を振った。

「久宝寺ダンジョンを征伐するためにわざわざ東京からきてもろうたんや。片伊勢の当主として寝ているわけにはいかへんやろ」

「でも!」

 どうやら本来は立ってウロウロしていいレベルではないらしい。

 

 秋人が進の近くに近寄った。

「欠損治療の失敗ですか?」

 秋人が冷静に尋ねると進は困ったように微笑んだ。

「ええ。頼んだ相手がかなり未熟でね。この様です」

 苦笑いを浮かべる。

 

 欠損を治療できるレベルの回復魔法師はとても貴重で、アークエンジェルのリサなどはその最たるものだが、修行中の低いレベルの魔法師に治療されると見た目は治るが内部の痛みが取れなかったり、血流が悪くなって関連部位が壊死したり、最悪死に至る場合もある。

 

「冬由…いけるか?」

 秋人が尋ねると、冬由は進に手を当ててから少し首を傾げた。

「雑な治療だわ。こんなので修行してますって言ったら師匠に怒られちゃう」

 冬由は不愉快そうに眉を寄せた。

「冬由ちゃん?」

 莉音が困惑気味に冬由を見る。冬由は少し戸惑った。彼女に自分の身の上は話していない。けれども、彼女の父親だ。このままではおそらく近日中にまずい状態になるだろう。

 

上級回復魔法(ハイ・ヒール)

 冬由が唱えると、進の体が微かに光った。

「え?」

 音々と瑛人が驚きの声をあげる。キラキラと降り注ぐ治療の光に目を瞬かせた。

「これで、大丈夫」

 冬由の言葉に秋人が頷く。莉音はポカンと口を開けてみていた。

 

「ふ、冬由ちゃん魔法使えるん?」

「うん。今は庄司リサさんに習ってる」

「庄司リサって、アークエンジェルの?」

「うん。桜子さんの紹介で」

 莉音は秋人と冬由を見て、それから恐ろしい形相で薫を見た。

 

「こ、子供をダンジョンに連れて行ったらあかんねんで!?何考えてるん!?」

 と叫んだ。薫は少し困った顔で頷く。

「うん、事情があってね。2人はこの歳で探索者(シーカー)の仕事を無理やりさせられてた時期があったんだ。今は強制されていないから大丈夫」

 その言葉のニュアンスに2人が過去酷い目にあっていたのだと察して、莉音は唇を噛んだ。秋人の事情は少しは音々から聞いて知っていた。

 さらに、開発途上国などでは時々子供を探索者(シーカー)にして使役するなんて事件が発覚することもある。莉音は冬由が最近まで事件に巻き込まれて外国の田舎で育ったという話を思い出した。

 


「黙っててごめんね。今はもうやらなくてもいいって言われてるんだけど、治療魔法は私が覚えたいの」

 冬由は少し寂しそうに笑った。

「私、これまで酷いことをいっぱいしていきたから。その分、誰かの役に立つって決めたの」

「冬由ちゃん…」

 年齢にそぐわない冬由の厳しい決断に莉音は言葉が出ない。

 

「でも、今はすごく幸せ。本当は私はこんなに幸せじゃいけないんじゃないかってくらい幸せなの」

 冬由は切なく笑った。秋人は視線を落とす。彼女の気持ちは痛いほどよくわかった。

 

「こら」

 ぺしんと薫が冬由の頭を軽く叩いた。

「そんな風に自分を言うもんじゃないって毎度言ってるだろう。君が昔行っていた行為は君の意志じゃない。偏った教育と押し付けられた倫理観のせいだ。誰がなんと言っても俺は君は悪くないと言い続けるぞ。家裁でも高裁でも最高裁でもだ」

「薫…」

 冬由が涙を堪えるように薫を見上げた。如月兄妹の保護者の最強弁護士はふっと小さく笑った。

「大丈夫!たいがいの問題は金で解決できるから。俺も君のお兄さんも、そこだけはかなり有利だしね」

 と悪徳弁護士のようなことを言い出す始末である。それが薫の本心ではないと冬由と秋人は知っているが、苦笑して済ませた。


 

「親父、大丈夫か?」

 瑛人が進の方を窺うと、彼は驚いた顔でぽかんとしていた。

「ああ、ここ何ヶ月も続いていた苦痛がうそみたいに引いてる」

 睡眠もままならなかった身体中を走る痛みがなくなっていた。

 

「ありがとう、冬由ちゃん!」

 莉音が冬由の手を握る。冬由ははにかむように笑った。

 

「彼女もダンジョンへ連れて行くのですか?」

 と瑛人が尋ねるが、薫は大きく首を振った。

「いいえ。今日のはご主人の命がかかっていたので特別です。ご内密に」

「わかりました。感謝します」

 瑛人はぺこりと頭を下げた。嘘のように顔色がよくなった父親を涙混じりに見つめる。母が父に抱きついて泣いていた。

 

「冬由ちゃんは、うちに遊びにきたんや。うちの部屋行こう!ゲームたっくさん見せてあげる」

「うん!」

 2人の少女は手をとって部屋を出て行った。


「え!?ゲーマーなん!?」

 と瑛人は思わず叫んだのだった。

瑛人「しっかし、なんつーか顔面偏差値のたけえメンバーやな」

当夜「そうなんっすよ。俺なんかほんと引き立て役っすよ」

瑛人母「え?」

莉音「え?」

音々「え?」

※片伊勢家の女性陣の男の趣味は筋肉こそ正義


次回の更新は6/21(日)です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
筋肉教徒なら薫も安心だわw 冬由も不審者対策として経験を活かしていこうね…。
ふゆちゃんが受け入れやすい、少し露悪的に言ってくれる大人……いい保護者に出会えたねぇ、ほんと
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ