20. 球技大会 4
二回戦は野球対決である。一回戦で勝った方のチームだけが進むのだ。轟学園の球技大会は、最大3種目行うのだが、スポーツ枠の生徒が出られる種目は上限2つまでだ。
そして野球は智輝と秋人以外はインドア派の運動音痴ばかりで構成されていた。
「委員長の作戦、えっぐいな」
織田が応援席で引き攣った笑いを浮かべている。
「まあ、野球は飛び抜けていいピッチャーと極端にいいバッターが一人いれば勝てちゃうからな」
とは町田。この二人は三回戦に温存だ。委員長はもちろん優勝を狙っている。
「ストラーイク、バッターアウト!」
開始早々に三者凡退である。
「智輝、素人相手に自分の得意競技でマウントとるのかっこ悪いとか元宮に言ってなかったっけ?」
町田が思わずぼやくくらい、鮮やかな三振。9球で一回の敵攻撃は終了した。そして、一番バッターは秋人である。
「なんで、一番?四番打たせた方がよくねえ?」
と織田が尋ねると、投げて戻ってきた智輝がため息をついた。
「秋人3回までしか試合出られないから、一番打席多くなるように一番にした。どうせ、あいつら打てないから前に走者貯まらないからな」
「ああ」
2ーBのインドア集団が視線を逸らした。
そんな話をしていると「カーン」という甲高い音がグラウンドに響いた。
「あ、ホームランだ」
大きな放物線を書いて秋人の打った球はフェンスを超えて行った。
「ボール破壊しないで打てるようになったんだな」
とボソリと織田が呟く。
「一昨日バッティングセンターに連れて行ってよかったぜ」
と智輝が苦笑をこぼした。
きゃーきゃーと黄色い声援が惜しみなく秋人に捧げられた。クラスの女子も、クラスじゃない女子も秋人に夢中である。たとえ彼女がいたとしても、その彼女が特大級にお似合いでも、アイドルには皆声が出るものなのだ。
「智輝!1点取ったよ」
「おうおう。見てた見てた」
智輝に向かって秋人がニコニコ微笑む。褒めて褒めてと言わんばかりの空気にうっかり和んだ。
「お、次は俺だな」
と智輝がバットを握る。二番、三番は当然凡退。
「四番、ピッチャー、木下智輝」
とアナウンスされると、智輝の顔がいつものちゃらけたものから戦闘に向かう戦士の顔に変わる。
「かっこいいなぁ」
と秋人が呟く。
「それは否定しない」
と珍しく織田が肯定した。
カーンと甲高い音が鳴り響く。2ーBは一回裏2点をホームランでもぎ取った。
二回表、秋人は外野のセンターを守っている。滅多なことで智輝の球をここまで運べるバッターはいないので、守備がお粗末な秋人は外野に回されていたのだ。流石に高校の球技大会でDH制度はない。
しかし、唯一智輝が警戒していた野球部のレギュラーの先輩が、智輝の配給を読み切っていた。ランナーを一塁に置いて、先輩としても黙ってやられるわけにはいかない。
「げっ」
カーンと鋭い音を立ててボールが初夏の空を切り裂くように飛び上がる。
「フライだけど…」
智輝が思わずボールを追う。落下地点には秋人がいる。
「秋人!グローブ使えよ!」
智輝が叫ぶと秋人は「わかったぁ」と返事をする。習った通りの動作で秋人はグローブを構えたが、はめてない方の手で取って、グローブの中にボールを入れた。
「あ」
2ーB全員が「やっちゃった」という顔をしている。幸いなことに外野周辺には観客席がないので、遠目だから「あれ?」というくらいにしか気がついている人がいない。
「ばか!球投げろ!サード!!」
「サードってどこ!?」
「三塁!!」
というコメディが外野とマウンドで行われている。
「thirdか…3つめの塁ね、オッケーオッケー」
秋人は振りかぶって三塁に向かって投げた。豪速球である。
「智輝!おれ、おれ、秋人の球受けるとか無理!!」
サードの少年が逃げ出しているので、智輝は慌ててサードに走り込んでボールをキャッチし、ランナーを刺した。
「アウト!!」
塁審が苦笑しながらアウトカウントを取ってくれた。智輝は冷や汗だらだらである。
「うん、訂正!やっぱ野球は二人じゃできねえな」
「そうだね」
と織田と町田は肩で息をして孤軍奮闘している智輝を見て、大笑いした。
三回でグランドを後にするまで秋人はきっちり3点取った。全てホームランだ。
「なあ、お前なんで如月諦めたの?」
負けた先輩が智輝を引っ張っていきコソコソ尋ねた。
「秋人の奴、医者から本格的なスポーツ禁止されてるんっすよ。今回も本当は2回までしかダメなとこ、『俺のために』3回までやってくれたんっす」
「何、そのマウント」
先輩が心配そうに智輝を見る。
「お前、山ほどガールフレンドいるけど、本命いないのってそういう…」
「違いますよ!!」
智輝が慌てて否定する。一部女子から誤解があるようだが、智輝は秋人にそういう感情は抱いていない。(ちなみに一部女子は主に美術部の所属だ)
「いつか時代が進んで一緒に野球できるようになったら、やってもいいかなって思ってくれるように、楽しい思い出になってほしかったんですよ」
秋人自身にもクラスメイトにも言えない本音だ。
秋人が探索者である以上、自分と同じ夢は追えないが、そんな日がいつかくるかもしれないという希望は持ち続けたい。野球を大嫌いなままでいてほしくなかった。
「まあ、そうだな。医学の進歩は計り知れんからな」
と先輩が的外れな慰めを呟き、ぽんぽんと智輝の肩を叩いた。
それに彼は苦笑だけ返し、勝利を祝うクラスメイトのそばに駆け出した。
「あれ?秋人は?」
智輝が首を傾げると、委員長が苦笑する。
「彼女の応援に行った。あっちは二回戦」
「かー、薄情ものめ!」
智輝が嘆くも、女子が
「あんたがぐずぐずしてるからでしょ」
と言い捨てられた。
「あ、でも如月くんから伝言預かってるよ、わたし」
と女子の委員長、栗原明子が微笑む。
「他の子に伝えたら絶対にちゃんと伝えてくれないからって」
と明子が困ったように委員長、織田や町田をチラリと見ると、彼らは「てへ」と舌を出す。
「『楽しかった!来年もやろうね』って」
明子から伝えられた言葉に、智輝は珍しく照れもせず大きく破顔した。いい笑顔だった。
この一部始終を見ていたクラスの女子は少しばかり思案顔だ。
「木下ってさ、まあまあいい男なんだよね」
「如月くんの彼女パーフェクトで望み薄だから、あれはアリじゃね?」
「そうだよね。いざって時に頼りになるのはアリよね」
と一部女子から大幅な評価見直しが入るのだが、この時の智輝が知る由もなかった。
秋人「なんで、この変な手袋みたいなの付けて取るの?邪魔じゃない?」
智輝「普通、素手でボール取ったら手の方が痛むんだよ」
秋人「・・・・・・・あ、いたたたたた」
智輝「おせえよ」




