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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十五章 代理人、高校生と二度目の春を過ごす

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3. 次元剣士

 現在、神崎家には薫と秋人の他に、桜子と当夜が住んでいるが、最近自称秋人の妹である冬由(ふゆ)が加わった。彼女は本来ギルドの管理下におかれるべき立場の犯罪者なのだが、未成年であること、能力が高いこと、救世来神教(エルミネイト)の工作員であることを鑑みて、薫が預かっている。


 薫たちの住まいは6LDKのワンフロアぶち抜きである。

 家主の薫、秋人、桜子、当夜がそれぞれ一部屋を使っている。残りは窓のない小さめの部屋と元家主の加藤の部屋である。流石に救世来神教(エルミネイト)の工作員をまだ何かしらの秘密があるかもしれない加藤の部屋に入れるわけにはいかないので、窓のない部屋で我慢してもらっている。

 しかし、幼い少女をこんな悪環境に置いておくことに、薫は少々心苦しく思っている状況だ。

 

「だったら、私の部屋で一緒に寝る?」

 と、神崎家に住んでいる唯一の女性である桜子が提案したが、冬由は断固拒否した。

「いや、無理。ここにいる全員を3秒で惨殺できるような女と、同じ部屋で寝泊まりとか絶対無理」

 と必死の形相で断った。

 

「あはは、いくらなんでも3秒は無理なんじゃ…」

 と当初その理由を聞いた薫は笑ったのだが、秋人と桜子の微妙な表情に笑いが止まった。

「え?マジで?」

「うん…何と言うか副産物で」


 桜子は秋人に頼まれて月から金曜日で在宅している日は、早朝に剣の稽古をつけている。それ自体は別に悪い話ではなかったのだが、桜子自体への影響を何も考えていなかった。

 

「ようするに、私にもいい修行になったわけ」

 

 桜子はおそらく秋人を除けば日本で一番能力の高い探索者(シーカー)だ。秋人には魔法の補正があることを考えると技術でいえば秋人を超えると言っていい実力の持ち主である。

 そんな彼女だから、正直これまでまともな練習相手という者が存在しなかった。

 そこへ、毎朝自分と同じくらいの実力者との稽古が加わったのである。それは、桜子自身も、今までにないくらい質の高い稽古が毎日積めるということに他ならなかった。

 

 当初は秋人の実力の底上げばかりが目立ったので気が付かなかった。

 しかし、先日のデステニーワールドに出現したダンジョン征伐に向かった際に、彼女自身が大きく進化していることがわかった。

 というより、パーティーメンバーからドン引きされたのだ。それくらい桜子の剣技が圧巻の領域に到達していた。

 

「ジョブが進化しててね」

 桜子が頭をかく。

「なんか、次元剣士って記載になってた」

「それは、秋人の魔法剣士みたいな感じですか?」

「いや、なんかね。空間が切れるんだよ、最近」

「は?」

「うん、この辺で切ってても、あの辺が切れるみたいな?」

 と桜子は手元をさし示してから、遠くを指差した。

 

「というわけで、師匠はたぶん現在僕を殺せる唯一の人だと思う」

 秋人のまとめに薫は天を仰いだ。どうやら自分の婚約者は人類最強らしい。

 

「なんでわからないんだよ!こんなに威圧が出てるじゃないか!?」

 と冬由に言われても薫はぴんとこなくて、「んー」と唸っていた。

「仕方ないよ。薫さん、その辺鈍いんだもん」

 という桜子の容赦ない一言で撃沈した。


 とにかく、冬由がこの家で一番恐れているのは桜子で、その桜子と同じ部屋で寝起きだけは無理、それくらいなら廊下で寝る方がいいと言うので、仕方なく窓のない部屋で過ごしてもらっている。

 

「当夜が帰ってきたら、一回みんなで話をしよう」

 と薫が言う。

「当夜、まだ帰ってこないのかな」

 現在、薫の護衛は将司が勤めてくれているが、彼には本来ビルの警備をお願いしているので、和美の負担が増えていることも気がかりだ。いいよと言ってくれてはいるが、雇用主として従業員の福利厚生はしっかり守りたい。

 

「ギルドにお願いして護衛まわしてもらう?」

 秋人の提案に薫は渋い顔をしている。

 そもそも自分にそんなに護衛がいるのだろうか。

 

 これでもそれなりに攻撃魔法だって使えるようになったのだが…というようなことを、秋人や桜子に言ったのだが、二人はたいそう冷たい視線で薫を見て、肩をすくめ、大きくため息をついた。

 

「薫さん、魔力察知できないんだから誘拐され放題じゃないですか」

 という桜子の言葉と、

「そもそも、薫は相手が探索者(シーカー)じゃなくても誘拐され率高いよね?」

 という秋人の言葉であえなく却下された。

 

「軟弱者め」

 という冬由の蔑みの言葉までオプションで追加される始末である。

「早く当夜帰ってこないかなぁ」

 と分が悪い薫は嘆いた。

 

 

 それから一週間後、ようやく当夜が帰ってきた。

「遅くなりまして、すいません」

 帰ってくるなり謝る羽目になったが、それでも当夜は目的を達して帰ってきた。

 

「おめでとう、当夜。レベル50超えたね?」

 秋人が楽しげにそう言うと、当夜は金色に輝くギルドカードを差し出した。

「うん。なんとか」

「よかったな」

 薫もにこりと笑った。

 

「しかし、Sランクだらけのパーティーか。凄まじいな」

 桜子が半ば呆れながら呟く。当夜は当夜で新たな同居人に驚いていた。

 

「あっくんの女の子版かと思ったら、妹なんだ?初めまして。朽木当夜です。ジョブは拳闘士。好きな食べ物は唐揚げ。嫌いな食べ物は納豆。よろしく!」

 朗らかで陽気な当夜が帰ってくると、ぱっと家の中が明るくなった。


 冬由は自分の素性がわかっていながら呑気な神崎家の同居人たちに半ば呆れて、差し出された当夜の手を無視した。

「この家の人、全員頭おかしいんじゃない?」

 と思わず唸ったが、その言葉を聞いてた当夜は、至極真面目な顔をして

「オレもそう思う」

 と他人事のように言うので、さらに憤慨していた。

 


 結局、部屋割りは当初のまま、冬由は窓のない小さい部屋を希望した。


 正直なことを言えば、彼女はその小さな部屋を大変気に入っていたのだ。

 狭くても一人部屋だ。自分専用の家具があり、プライベートが保てる空間がある生活は、物心ついて以来初めてだった。

 そして、窓がないことこそ冬由の安心の源だった。


 冬由にとって、この部屋で満足して暮らしていることを外部に覗かれないことが、何より重要だった。

 救世来神教(エルミネイト)での生活に比べたらここは天国のようだった。


 その生活を楽しんでいることを、冬由は誰にも知られたくなかったのだ。

桜子「あ!だったら私が薫さんと同じ部屋になればいいんじゃない?」

薫「へっう!?」

桜子「いや、何その反応」

薫「いや、そ、そ、そ、それは駄目でしょう。婚姻前の男女がそんな、そんな…」

秋人「師匠、その気もないのに薫を虐めないでください」

桜子「ははは、ごめんごめん(割と本気だったよ…)」

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