2. 魔法開発
今朝の件を警戒する必要もあるということで、部活の後には秋人は美香と一緒に帰宅した。
秋人は下校の道中も美香と一緒にいられてとても幸せだ。
しばらくは一緒に帰る約束をしたので、なんならちょっとカフェに寄ってプチデートもできるのだ。
現在、美香の住居は秋人と同じビルの一つ下の階である。3月にリフォームが終わって引っ越してきたのだ。大雑把に言うと一つ屋根の下だ。若者として浮かれない筈がない。
都度、薫に「節度あるお付き合いを」と言われるのだけが難点だが。
二人が並んで帰ってくると、エレベーターホールには既に見慣れた女性が立っていた。
「お帰りなさい、秋人君、美香ちゃん」
「ただいまです。幸田さん」
幸田和美はデステニーワールドで秋人と知り合った探索者の一人で、同じパーティーの小早川将司と同様に、このビルの警備に当たっている。
「おうおう、彼女と一緒に帰宅かあ、やるねえ」
ニヤニヤ笑う彼女に秋人が苦笑を返す。
このお姉さんは最初こそ秋人や薫にかなり遠慮して猫を被っていたのだが、2ヶ月も過ごした頃にはあっさりと猫を破り捨ててしまった。
人懐っこくとっつきやすい性格で、秋人や美香にも普通に話しかけてくる。秋人としては付き合いやすい人である。
「幸田さん、後でちょっと魔法見てもらっていいですか?」
「ええ?私が君にアドバイスできるようなことってあるかな?」
和美が苦笑を返す。何しろ秋人はこの若さで既にSランクだ。便宜上Sより上のランクがないから秋人の正式なランクはSだが、彼の二つ名は3S探索者である。3つのSランクのダンジョンをソロで討伐した日本トップの探索者。国家的英雄。Bランクの自分よりはるかに格上だ。
しかし、秋人は小さく首を振った。
「僕の魔法はほとんど自己流だから、ちゃんとした魔法使いの意見が聞きたい」
「先生は?」
ここで言う先生は薫のことである。秋人はそれこそ困ったように笑った。
「薫は僕に輪をかけて自己流です」
「…そっかぁ。いいよ。仕事上がったらインターホン鳴らすね」
和美は気安く請け負った。
夕飯を食べ終わり後片付けを終えた頃、和美がやってきた。居間に通して秋人の魔法を見てもらう。
「うひゃああ、何これ。ありえねええええ」
和美が唸るのも無理はない。秋人が見てほしいと言った魔法陣は直径が3mmほど。しかし、湛えている魔力が半端なかった。
「拡大してもいい?」
「どうぞ」
和美が拡大の魔法を唱えると、直径が1メートルほどに変化した。
「すごいね…これは、瞬間移動の魔法式?え?何それ?そんなのあるの??」
「僕の母と薫の師匠が共同開発した魔法で、もうじき探索者連盟に登録されます」
秋人の言葉に和美は愕然とした。
「新しい魔法ってことかぁ。すごいなぁ。魔法開発、やってみたいけど難しいんだよねぇ」
唸りながらも魔法式を読み解く。
「ああ、発動機なんだね。これ」
「そうです。これをペンダントに組み込んで力をこめて握ったら僕の元へ瞬間移動できるような魔法にしたつもりなんですが」
「うーん、ちょっとリスクが大きいかなぁ。この魔法陣かなりの魔力は持ってるけど、それでも人一人跳ばすのは結構危険じゃない? ましてや自力の魔力をもってない人を単体で移動させるのはちょっとねぇ」
「やっぱりそうですかぁ」
秋人ががっくりと肩を落とす。
結構苦労したのだが、やはり自分がネックに思っていた部分は、他の魔法師から見てもリスキーなのかとがっかりした。
「美香ちゃんに持たせたいの?」
「はい。この前みたいなことがまたあるとも限らないし」
美香が誘拐され行方不明になった時、和美や将司も都内のダンジョンを一緒に探したので、ことの顛末は知っている。秋人が何か彼女に安全策を持たせたい気持ちは痛いほどわかった。
「うーん…だったら、逆の発想にしたら?」
「逆ですか?」
「うん。この魔法陣が発動したら秋人くんが瞬間移動してペンダントの持ち主の元へ跳べるようにしたらどう?発信機的な使い方ね」
「それも考えたんですが、ペンダントを救世来神教に奪われた場合、僕がみすみす連中の元へ跳ばされることになりかねないかと」
「ああ、それは使用者を美香ちゃん限定にしちゃえばいいのでは?」
「なるほど!」
秋人がぽんと手を打った。
「割と普通の発想なんだけどね。そういう部分が抜けてるってことか」
和美の言葉に秋人が神妙に頷く。
「特に僕はソロ活動が主流だったので、自分が使うのが前提の魔法が多いから」
「まあ、普通の後衛魔法師はパーティーメンバーを守るって前提の魔法を組むから、その辺は攻撃魔法師とはちょっと発想が違うところよね」
うんうんと和美が頷きながら、魔法陣を秋人に返した。
「修正したらまた見てもらっていいですか?」
「OK!いいよ」
和美は頷いたが、秋人へ忠告も忘れなかった。
「まあ、秋人くんは別に気にしないんだろうけど、これまだ未発表の魔法でしょ?守秘契約とかしてから人に見せないと、勝手に使われたり登録されたりしたら大変だからね。そっちの方は先生の得意分野だと思うから、契約してもらいなさいな」
「あ、そっか。ごめんなさい。気をつけます」
秋人がぺこりと頭を下げた。
「いやあ、でもいいもん見せてもらったわ。意欲が沸くよね。高度な芸術をみた気分」
和美は朗らかに笑った。
「あ、でも和美さん使いたかったら使ってもいいですよ。瞬間移動の魔法」
「ええ!?」
和美が大きく目を見開く。
「元々この魔法は個人の使用にはお金取らないでおこうって薫と決めてたので。ダンジョンで危ない時とかに使ってください」
「いいのー?」
和美の瞳がキラキラ輝いた。
「私の魔力量じゃダンジョンの外では使えなさそうだけど、今度のおやすみにダンジョンで試してみるね」
「はい」
秋人は笑って頷いた。
秋人はこの気のいい魔法使いである和美も、漢気のある剣士の将司のことも気に入ってた。ずっとここに居てほしいがそれは無理だとわかっている。
彼らは現在メンバー不足で警備の仕事をうけてくれているが、本来は探索者なので新しいメンバーが見つかれば、ここを離れていくだろう。
それでも、いわゆる一般的な探索者というものが身近に居なかったこともあり、薫も秋人も何やかやと彼らを頼りにしているのだった。
自室に戻った秋人は、収納魔法から自分が現在持ってる魔石を全て取り出した。
青、緑、銀色、黒、透明、金色、紫色など色々あったがお目当ての色がない。
「赤色系がいいんだけどな」
できれば薄い薔薇色に近いようなピンク色がベストである。
手持ちにいいのがないので秋人はうーんと唸った。美香に贈るならできれば彼女に似合うものがいい。薫が桜子に贈った焔の桜のように美香にぴったりのイメージの魔石が欲しかった。
「不死鳥狩に行くかぁ」
秋人はぽつりと呟いた。不死鳥には災難なことである。
和美「…ていう訳でさあ、今度のお休みにダンジョン行こうよ」
将司「…ほんとに使っていいって秋人くん言ったのか?」
和美「うん。先生と決めたって言ってたよ」
将司「なんか、俺自分が昇級できない理由が分かった気がする」
和美「えー、なんでよう」
将司「先生も秋人くんも桜子さんも、なんつーか一般常識を突き抜けてるからさ。そういうとこだぞってやつ」
和美「ああ、なんか分かった」




