21. デステニー・ダンジョン討伐
デステニーワールドに出現したダンジョンを討伐するために、いくつかのパーティーが投入された。薫は当然行くつもりだったが、今回は外での討伐にかなりリソースを割いているということで、神崎家は参加を見送られた。
表向きはそういう事情だったが、もし今回のダンジョンが救世来神教の仕業だった場合、別の場所でまたダンジョンが出現するかもしれないということで、温存したという一面もあった。
しかし、これだけの騒ぎの現況である。一刻も早い討伐を求める政府の要請が強かった。そういう事情もあり、神崎家…如月秋人を投入しないのであれば、もう一枚の看板を投入する必要がある。
というわけで、デステニーワールドダンジョンの討伐作戦にはアークエンジェルが参加することとなった。
「気を付けて」
出発前に薫が不安そうな顔で桜子に言うと、彼女は大きく眉を寄せた。
「そりゃあ、出会いからして私の救出作戦だったから仕方ないのかもしれないけど、うちは、薫さんとこより戦績あるよ」
ぷんすこ怒って見せる桜子に薫は焦った。
「いや、そういう意味ではなく」
あたふたとする薫に桜子はニヤリと笑って見せた。
「罰として帰ってきたらおでんを所望します」
「はい」
薫は素直に頷いた。
「迷宮核の色を見てくる。黒だったら薫さんに最初に報告するから」
桜子は小声で薫にそう告げた。彼女は当然薫の懸念などお見通しだった。
「一度やったミスは繰り返さない。大丈夫。任せて」
ニコリと彼女は笑いデステニーワールドに向かった。
桜子が帰らぬまま新学期が始まった。幸い秋人の顔は世に出ることもなく、このまま轟学園に通い続けることが可能となった。
そもそも、別に秋人が如月秋人だとばれることに関していえば、正直なところ何も問題はないのだ。ただ、ギルドが「10歳の子供を働かせてたことに気が付かないのは何事だ」というバッシングを受けるだけの話だ。特にまだ少年の気配が濃い秋人が「如月秋人です」と正体を明かした場合、完全に非難はギルドへ向かうだろう。
しかし、そこからの世間の大騒ぎは想像するに難くない。秋人は悲劇のヒーローに祀り上げられ大変な騒動になることは火を見るよりも明らかだ。
秋人自身はおそらくそんな祭りに何の関心もないだろうが、周囲は浮足立つだろう。アイドルのように扱われて、あることないこと世間が盛り上がるに違いない。
そういった騒ぎをものもとしないメンタルや経験を得るための、今はいわゆるモラトリアム期間なのだ。
だから、クラスの皆が黙っていてくれるなら、秋人はそのまま学校に通えるのである。
「おはよう」
秋人が少し緊張して教室のドアを開ける。
「退院おめ」
と誰かが言うと皆がパチパチ拍手した。そのくらいのいつもの光景だった。秋人はほっと息を吐いた。
「これやる」
織田が秋人に一枚のチケットを渡してきた。
「何のチケット?」
秋人が確かめるとそこには『地区新人選手権大会』という文字が刻まれていた。
「俺、レギュラー取ったんだ。お前は見に来る義務がある」
「なんで?」
秋人はよく分からず首を傾げた。甲子園の次はサッカーである。春の智輝の奇行が脳裏を掠める。ちなみにサッカーもルールがさっぱり分かってない秋人は、体育の授業で反対側のゴールにシュートを打ったことがある。
「お前が命がけで守ったもんがどれほどのもんか確認しておくべきだろう」
と偉そうに言い放つ。秋人はぽかんとした顔をしていたが、横からひょっこりと委員長が出てきた。
「こんな言い方してるけど、契約するに賛成を一番早く押したの織田だからね」
「作原、てめえ、匿名だって言ったじゃねーか」
織田が食って掛かるも、委員長はひらりとそれを交わした。
「みんなには匿名だけど、おれはアンケートの製作者だからねー。見えちゃうのは仕方ないんじゃない?」
「くそっ」
顔を真っ赤にして織田は自分の席に戻っていった。
「はっ、これがツンデレ!?」
と思わず秋人が叫ぶと、クラスはどっと笑いに包まれた。織田はさらに机に突っ伏した。
「容赦ねーな、ニャンタ」
町田がため息をつく。
「ニャンタって僕の事?」
「おう。デステニーワールドの守護神『猫耳魔人』は最近ニャンタって呼ばれてるらしいぜ」
「猫耳魔人…」
秋人ががっくりと肩を落とす。それなりに頑張ったはずなんだが猫耳魔人はないと思う。
デステニーワールドという人が込み合うテーマパークでのダンジョン顕現という未曽有の災害で、一報が出た時は万の単位の死者を想定した者も少なくなかった。しかし、蓋を開けてみれば死者548名、重傷者1486名、軽傷者多数という想定をはるかに下回る数字だった。
無論、死者548という数字には548通りの人生があり、軽んじられるべきではない。しかし、シチュエーションと現象を鑑みるにあまりにもその数が想定を下回ったのだ。それは、その場にたまたまものすごい凄腕の探索者が居合わせたからに他ならない。
助かった人が口々に言う彼の特徴は
「猫耳の帽子」「ものすごいスピード」「二刀流」「魔法使い」
その一番の功績者であるはずの猫耳帽子の探索者は一切表に出なかった。残念なことに姿がしっかりわかるような映像や写真を撮った者はいなかったので真相は闇の中である。
いつしか、あれはデステニーワールドのメインキャラクターが守ってくれたのだと話題になり、噂の初期は「猫耳魔人」そこから親しみを込めて「ニャンタ」に変化していった。
「あ、そういえば栗原さんありがとね」
「え?」
明子は突然の秋人の礼に首を傾げた。
「いや、ほら。ショップでカチューシャの代わりに帽子見つけてきてくれたでしょう。薫がいうには帽子だったから顔バレしなくて済んだって。MVPだって言ってたよ」
秋人の言葉に明子は言葉もない。何か酷く心の底からほっとするような、安心感が押し寄せてきて涙が出そうだった。長年の心のつかえがとれた気がした。
「MVP!」
「MVP!」
「MVP!」
と教室が騒がしくなると、担任がやってきた。
「何事ですか!騒がしい!朝礼を行いますよ」
という彼女の号令の元、皆大人しく席に着いた。
秋人の高校一年最後の学期が始まった。
それから1週間してアークエンジェルたちは無事に戻って来た。大きな怪我もなく桜子も元気に神崎家に帰宅した。
「あ、し、た、は、お、で、ん」
と謡うように催促するので、薫は苦笑を返す。それから少しだけ真面目な顔で彼女は告げた。
「迷宮核は通常仕様だった。今回は秋人の運がめちゃくちゃに悪かっただけみたい」
と。
こうして、デステニー・ダンジョンは討伐された。
桜子「おでんには餅巾着をいれてください」
薫「他には?」
桜子「卵多めで。あと大根はしみしみがいいです」
薫「了解しました」
当夜「…ラブラブ光線が独り身には辛い」
第十一章終了です。
まだストックあるので、明日から速攻十二章始めます。
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秋人君なかなかの不運っぷりを発揮しておりますが、次章もさらなる不運回です。
あと、明日記念すべき200話です。明日の夜8時くらいにまた小話を活動報告の方にアップできたらいいなって思ってます。ではまたぁ。




