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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十一章 代理人、空を飛ぶ

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17. 滑空

 秋人の戦いは続いている。さきほどの二人が少しだけ戦力になったので助かった。思っていたよりはレベルの高い探索者(シーカー)だったらしい。(実際は持たされた武器の影響も大きかったのだが)


「来た!」

 秋人が思わず上空を仰ぐ。ヘリの機影が太陽を遮った。ばらばらと大きな音が地獄となったデステニーワールドに響く。



「本当に、ほんっとうに大丈夫ですよね」

 ヘリの扉を開けて当夜が叫ぶ。

「くどい!身体強化してるだろ。落ちても死なん」

「痛いのは痛いでしょう!!」

「まあ、大丈夫だ。俺を信じろ」

 ニヤリと薫は笑った。

「これでも、3週間もクソ忙しい師走前に修行したんだ」

「みじかっ、探索者(シーカー)の技の修行で3週間とかみじかっ」

 当夜が泣き言を言いながらも覚悟を決める。


「どうぞ!」

「うしっ、それでこそ『神崎家』」

「いやー、そんな所属条件いやーーーー」


「集中

瞬間移動(テレポート) 地面】」


 薫が杖を振るった。それと同時に当夜の姿がヘリから消える。パイロットはギョッとした。

「あ、お気になさらず。地上に着地したみたいです。ちょっと座標が狂ったけど」

 にこりと薫が笑う。


 後に、パイロットはこの時の話を後藤に「あの人だけは怒らせてはいけないと分かりました」と青い顔をして報告している。



「ぎゃっ」

 秋人の上空3メートルほどのところに出現した当夜は地面に放り出されて一瞬呼吸が詰まった。慌てて体勢を整えるも数体のモンスターに襲撃される。

「うそだろ」

 叫ぶ声と共に、モンスターが細切れになった。

「当夜!」

「あっくん!無事だったか!!」

 とはいえ、当夜は秋人の恰好を見て笑いを堪える。


「お前、その帽子(キャップ)被ってずっと戦ってたの?」

「え?あ?」

 秋人はデステニーワールドのキャラクターを模した猫耳がついた帽子を被っていたことをすっかり忘れていたのだ。

「あ、どうりでなんか視界が狭いと…」

 帽子を取ろうとした秋人の手を当夜が止めた。

「ちょうどいい、馬鹿が動画撮ってないとも限らないし。顔出ない方がいいだろ」

「あ、うん」

 そんな話をしていると、ふと二人はヘリを仰いだ。


「先生がくるぞ」

「うん」

 ヘリを中心に緑色の稲妻が渦を巻く。冬の薄い太陽の光を切り裂くように放物線を描く。


雷神の雷鎚(トールハンマー) 改 328檄】


 呪文が響き渡る。328本の稲妻が一気に地上に撃ち込まれた。正確無比にモンスターだけを撃ち殺す。追尾機能まで備わっているようで、人間には当たらないようだった。


「普通に薫って結構出鱈目だと思うんだけど」

 流石に秋人が呆れた顔で上空を見つめる。当夜は「おまゆう」と肩を竦めた。


「あ、なんか新技やりそう」

「え?」

 上空を見物しながら地上を掃討していた当夜と秋人はさらに上での魔法の発生を感じた。


瞬間移動(テレポート) 分解】

 薫は杖をふるって唱えるとヘリから飛び降りた。

「わあ、神崎先生!!」

 パイロットが叫ぶも、薫は

「帰還してください!大丈夫でーす」

 と叫んで手を振った。



「薫、飛んでる」

「うそお」

 当夜が思わず見上げた先に、空を滑空しながら降りてくる薫の姿があった。明確にスピードをコントロールしているから落ちているわけではない。上空を飛翔しているモンスターを雷撃魔法(ライトニング)で屠りながら降りてきている。


「あ、瞬間移動(テレポート)の応用だ」

 瞬時に術式を判断する秋人もさらに応用する。

瞬間移動(テレポート) 分解】

 いきなり秋人の体が宙に浮いたと思ったら遥か彼方の大きめのモンスターまで周囲のモンスターを切り払いながら上空まで移動して、そのまま下降の勢いを利用して、真っ二つに斬り割いた。


「やるか?いきなり?自分で実験」

 トホホと嘆きながら当夜が拳をふるう。

「いや、自分もさっき飛んだやん」

 と当夜は自分で自分に突っ込みを入れた。なぜか関西弁だ。

 おそらく自分に魔法が使えたら同じようにやっていただろう。もうそろそろ当夜は自分で認めざるをえなかった。


「俺、もうかなり神崎家のやり方に染まってるよなぁ」

 嘆きつつ、当夜は三体同時にモンスターを木っ端微塵に粉砕した。



 そこから他の探索者(シーカー)も入り、陽が落ちる頃には一区切りとなった。

 今回のダンジョンは秋人が恐れていたSランクではなくAだったようでモンスターが途切れたのだ。

 想定より早く討伐が終わったのは、薫の強力かつ正確無比な魔法と、秋人がもたらした迅速な一般人の避難によって、後から合流した探索者(シーカー)が大技が使えたことが大きかった。

 その後はギルドの結界魔法師の団体がやってきて、ダンジョンのゲートが仮封印された。

 あまり日数は持たないが、体制を立て直して内部調査とおそらく討伐が始まるだろう。


 薫は秋人を他の探索者(シーカー)が来る前に一般人に紛れて帰らせた。途中で後藤に拾ってもらう予定だ。秋人は少しだけ難色を示したが、「いう事を聞きなさい」という保護者命令に渋々従った。


「ふう」

 流石に疲れて縁石に腰を下ろしていた薫の傍に近づく人影が二つ。護衛任務の当夜が慌てて二人の前に立った。


「あの…神崎薫さん?」

 薫は相手を見返した。知った顔ではない。

「あの、これ」

 血まみれの刀と杖を渡された。その二つには見覚えがあった。

「大事なものだから必ず返してくれって。あなた宛てにって言われました。ぶっちゃけこれがなかったら死んでました。ありがとうございます」

 男性の探索者(シーカー)が深々と頭を下げる。

「最後、私魔力キレちゃって。杖を打撃武器にしちゃったんで色々と痛んじゃって」

 杖を渡してきた女性の魔法師の言う通り、杖はかなりボロボロだ。

「へえ、懐かしいな。これあの子が貸したんだ」

「はい。俺たち収納魔道具とか持ってなくて武器もなくて困ってて」

「この辺りは私たちの故郷で、どうしても逃げたくなかったんです。そしたら、これを貸してくれて」

 薫はその二つを受け取るとニコリと笑った。


「顔、見た?」

 ギクリと二人は肩を震わせる。もちろん、誰の顔を聞かれているのか、二人は瞬時に気が付いて顔に出してしまった。


 あの美しい顔を早々に忘れるわけもなく。

 駆け抜けていく閃光。

 振るわれる技の切れ、魔力の正確さ。

 今まで見たどんな探索者(シーカー)より凄まじい戦果。


 あの少年が誰か、もう二人は分かっていた。

 とんでもない秘密だった。薄暗く荷が重く胃の底が痙攣しそうな予感がした。

 泣きそうな目で二人はおそるおそる薫の顔を見つめた。この人は彼のパーティーメンバーだ。そして、あの少年は薫宛てに返してくれと言ったのだ。

 それはすなわち彼が『彼』であるということだ。


「あ、見たんだ。そっか、うん、そうかぁ」

 ニコニコ笑っている薫の顔が怖い。この人は空だって飛ぶし、上空から何百発って魔法を撃つとんでも魔法師で、おまけに弁護士だ。ダラダラと額から二人は汗を流す。


「少しお話しましょうか」

 悪魔のような美しい笑顔で薫が微笑んだ。

探索者男性「あの…俺たち誰にも言いません」

探索者女性「はい。あの如月秋人が子供だなんて絶対に言いません」

探索者男性「orz」

薫「正直は美徳です」

当夜「ああ、可哀相に」

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