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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十一章 代理人、空を飛ぶ

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8. カウントダウンパーティー 秘密

 曲者のうち二人は生け捕りになったが、二人とも捕まると同時に毒を含んで自殺していた。あとの一人は跡形もない。

 桜子は護衛としてぴたりと薫の傍に寄り添っている。華やかな装いに不似合いな太刀を引っ提げているが仕方ない。

 秋人と当夜は周囲の警戒をより強くしたが、それ以上の怪しい者はいなかった。



「心当たりは」

 後藤に尋ねられて、薫は肩を竦める。

「あるんですね」

 後藤がため息をつく。薫はうーんと唸った。

「おそらく私の体が目的かなと。目玉と指紋が必要なんですよ。うちの地下に入るには。いや、でもまさか…こんなおおっぴらに襲ってくるとは思ってなかった。申し訳ない」

「薫さん…そんなこと聞いてません」

 桜子が恐ろしい顔で呟く。薫はてへっと笑って誤魔化した。おそらく秋人も聞いていないのだろう。巌がため息をつく。

「それに、おそらく秋人君への揺さぶりも兼ねているかと思います」

 彼の言葉に控室に集まった面々は苦い顔をした。確かに薫が死ねばおそらく一番打撃をこうむるのは秋人だ。


「とにかく無事でよかった。凛子ちゃんにはお礼を言わなくちゃ」

 桜子がため息をついた。

 余談ではあるが薫の命を救ったこのジャケットは、後に加賀谷凛子の会社「エレンディール」の人気製品になる。



 大人組が何とかかんとか折り合いをつけようとしていると、控室のドアがばーんと音を立てて開いた。

「薫、話がある」

 ものすごく座った目の秋人が控室に入って来た。激しく怒っているのはひしひしと全員が感じている。魔力を感知できない薫でさえ、なんとなくわかった。康子やリサなどは顔色が土気色だ。


「ごめんなさい」

 開口一番薫がためらいなく謝る。

「何に対して?」

「秋人に黙ってたことに対して」

「何を?」

「全部」

 秋人の顔が泣く寸前まで歪んだ後、一瞬薫は秋人の姿を見失った。

「え?」

 薫の腰に手を回して秋人が窓から跳躍する。

「ちょ、秋人!?」

 薫の抗議を無視して、秋人は薫の誘拐に成功した。



 新年のお祝いの雰囲気の中、薫を抱えた秋人はビルの谷間を駆け抜けていく。秋人はまるで大事な宝物を取られることを恐れる龍のように、ただ闇雲に跳躍を続けた。


 30分ほど過ぎた頃だろう、薫が流石に寒くて震えていると気が付いて慌てて秋人は停止した。

 どこかの屋根の上だろう。着地すると秋人は無言だった。ただ薫の胴体にぎゅっと腕を回して離さない。薫の心臓の音を確かめるように胸に耳を押し付けている。薫は秋人の好きにさせていた。


「怒らないの?」

 ぽつりと秋人が呟く。

「なんで?」

「だって、薫、僕に誘拐されちゃったよ」

「そうだな」

 薫は小さく笑う。秋人はそれでも動かない。

「怖かった」

「うん」

「本当に怖かった」

 まだ手が震えている。いつもより数段動悸も激しい。薫が秋人の目の前で殺されるなどということが起こるなんて思っていなかった。


 ざくりと肉を裂く感触

 吹き出る血の色

 崩折れる薫の体


 薫が血を吐きながら囁く

 「ごめん、秋人」

 掠れた声で彼に言うのだ。


 まるで現実のように秋人の脳裏を掠めるビジョンがある。

 記憶のように繰り返されるそのリアルな光景。


 怖くて怖くて仕方ない。

 薫を失えばまた一人ぼっちになってしまう。だから、自分は薫を失う事を恐れているのだと思っていたが、違うのだ。それは全然違う。


 薫の喪失に秋人は耐えられない。この心はそれほど強くない。


「死なないで」

 秋人の声に薫はただ頷く。けれどもそれだけでは秋人は安心できない。


「薫、僕に魔法をかけてほしい」

「うん?」

 薫は思わず問いかけた。そして、薫は秋人の願い通りに契約の門(カヴェナント)を使った。その事については、誰にも話さないという事も含めて。


 それは二人だけの秘密になった。



 会場に戻ると後藤、巌、当夜から二人は激しく説教を受けた。

 薫が狙われたのは、彼が実は大変な魔法の術式を編み出したからで、その秘密を狙う外国の秘密結社だったということにしたそうだ。事前に情報を得ており、警備体制も問題なく計画通りだったと発表したらしい。

 あながち嘘ではない。ただ、本当の狙いは薫ではなくて秋人だろうということは伏せられた。


「おそらく、秋人の出生にすごく鍵があると思う。彼のお母さんはたぶんどこかの蔵の血縁だと思うし、下手したらお父さんもそうだろう」

 薫はそう考えている。これは大急ぎで地下迷宮を探索しなくてはならなくなった。


 そう、薫は前から気になっていたのだ。

 秋人の両親は本当にダンジョンでの適応を考えて息子をそんなところで育てていたのだろうか。他の目的があったのではないかと。

 何か、教団に見つかってはいけない兆候が秋人にあり、それを隠すためにダンジョンで育てていたのではないだろうか…と。

 敵がなりふり構わず攻撃をしてくるという事が分かった以上、詳細な情報をいち早く手に入れることが急務である。


 その事を薫は後藤と巌には共有することにした。二人には自分にはない伝手があるからだ。

「我々もその組織について、少し調べてみます」

 後藤と巌が頷く。後藤がギルドの関係から、巌は蔵の関係から探ってくれることとなった。


「でも、本当は一番手っ取り早い方法があるんですよね」

 薫がぼそりと呟く。

「それは?」

 巌の問いかけに薫は目を閉じた。

「たぶん、本部、国際探索者連盟本部は救世来神教(エルミネイト)の事を知っているのではないかと思います」

 薫はボソリとそう呟いた。


「どうしてそう思うんですか?」

 巌の問いかけに薫は少し俯いた後、薫は地下で見つけたいくつかの呪文式が、速攻で本部に申請されたことを明かした。

「これって、おそらくあのPCのパスワードを解除された場合、彼らにだけ知識が独占されないように示しあわせていたんではないかと思うんですよね」


 本部からあの後何の音沙汰もないのだ。それは明らかにおかしい。

 ダンジョン永久機関化の術式と、瞬間移動魔法の術式。どちらも「はいそうですか」で済ませていい代物ではない。けれども何のアクションも未だにない。おそらく、本部はこの術式の存在自体は知っていた。けれども封印されている間はあえて求めるつもりはなかったという事だ。

 教団に結界が開いた事を悟らせないために、そのようにすることがあらかじめ決まっていたのだろう。


「しかし、今回神崎先生が狙われたということは…」

「はい、おそらく教団には結界が開いたことは既に把握されているかと思います。情報源はおそらく本部かと。スパイがいるのでしょう」

 巌と後藤は眉をひそめた。

「そのうち、本部からコンタクトを取ってくるのではないかと思います」

 薫は深く息を吐いた。正直若干手に余るのだが、仕方ない。


「まあ、加藤先生に託されましたからね。なんとかしてみますよ」

 薫は静かに笑った。

当夜「『私の体が目的』ってすごいフレーズ」

薫「あっ、いや言葉の綾で、この場合は死体?」

桜子「どっちでも聞いてませんけど(怒)」

薫「当夜が余計なこと言うから怒られたじゃないか」

当夜「冤罪っ」

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