1. 衣装合わせ
十一章始まりです。
微妙に季節が合わなくて残念!
秋人は不満だった。彼の大事な保護者の衣装が地味だからだ。
「加賀谷さん、これちょっといくらなんでも地味じゃない?真っ黒って…」
頬を膨らませて秋人が文句を言う。
「確かに吊るしならこんなシンプルなのは作らないけど、今回のわたくしへのご用命はオーダーですからね」
つんと加賀谷凛子が顎を反らす。
「依頼主は君ではなく、そちらの弁護士先生であらせられる」
「薫ぅ…」
秋人がチラリと薫を見ると、薫は受け取った衣装をチラリと見て、こっくりと頷いた。
「俺は別に目立ちたくないし、桜子さんの横に立っておかしくなければそれでいい」
との薫の言葉にがっくりと肩を落とした。
「それは、そうかもしれないけど…さあ」
秋人は薫がキラキラした服を着るところが見たいのだ。できれば白がいい。よく似合っている。
「少年、心配しなくてもいい。君の多彩な美術的センスには敬意を表するが、私は本職。そして、今回いただいた注文はフルオーダーの礼装。この私が、薫ちゃんの言葉通りの地味でつまらないものを作ると思うか?」
こそりと凛子が秋人の耳元で囁く。
「!!」
秋人が目を見開いて凛子の顔を見る。
「いいかい。カップルの礼装というのは片方だけが目立ってもダメなんだ。要はバランスだ。そして、君の保護者はその顔だけで大きくバランスを崩しかねない存在なのだよ。普通の男の礼装は足し算で考えなければならないんだが、君の保護者の場合は徹底的に引き算だ」
薫は受け取った衣装を手に取った。
「着た方がいいか?」
「うん。最終チェックは必要」
「分かった」
薫がめんどくさそうに衣装を持って自室へ移動した。
「前から思ってたんだけど、もしかして先生って自分の服まったく興味なし?」
と当夜が秋人に尋ねる。
「うん。仕事で着るスーツとワイシャツ以外の服はTシャツは白、デニムは青、チノパンはベージュ、ポロシャツは黒、セーターはグレーか紺、替えジャケットは紺、夏は麻の生成り、冬のコートは黒って決めてて、ダメになったら同じのをUNIKUROで買い替えって言ってた」
「へえ、なるほど。俺もそうしよっかな。楽ちんじゃん」
「だよね。僕も薫は賢いなって思った」
との2人の会話を聞いて、凛子が震えあがった。
「アイツ、3S探索者様にほんとろくなこと教えてねえええええ」
ぶつぶつと文句を言い出した。
「当夜くんも、もうちょっとちゃんとしたの着たら、女の子にモテモテになるよ。なりたくないの?モテモテ」
凛子が傍らの青年を睨むと、当夜は肩を竦めた。
「フツメンがいくらオシャレしても所詮キモいだけっしょ」
「え?」
凛子が驚いて声を上げる。
「秋人くん、フツメンの定義が私の想像とちょっと違うんだが、当夜君ってフツメンかい?」
「僕はそう思わないけど…」
「あっくんに言われてもなー」
当夜がぼやく気持ちは分からないでもない。この家の住人は顔面偏差値が高すぎる。
「世間一般のレベルで言えば、当夜くんだって立派にイケメンの部類だよ」
凛子はそう言うも、当夜は首を傾げた。
「いや、だって兄貴もすっげーイケメンだし」
「どれどれ」
当夜のスマホに入ってるこの前のクリスマスの写真を見て、凛子が唸る。確かに、これまた特筆するべきイケメンだ。
「当夜君もお兄ちゃんもうちでモデルのバイトする気ない?」
薫のような人外でもなく、秋人のような美少年風でもないので、凛子の商材には朽木兄弟の方がモデルとしては購買層に合致している。
「こら、悪徳の道へ誘うな。当夜はうちのバイトだし、聖夜はご実家の仕事で忙しいんだ」
着替えた薫が部屋に入りながら凛子にクレームを入れる。振り返った三人は絶句した。
一見シンプルな黒のタキシードなのだが、そこは凛子の製品である。薫の魔力を通すと深い黒の中にうっすらとメタリックグリーンの光沢が載る仕様になっている。本当に目の良い人にしか分からない程度のものだが、その光沢が薫の体のすっきりとしたラインを際立たせていた。
襟や袖口、パンツのラインにごくごく細い銀色のラインが入っている。そこも魔力が通るとゆらりと煌めく刃のようにも見える。鋭さとモダンさが融合している。唯一のカラーはポケットチーフで桜子のローズ色のドレスと同じ色だ。
「す、すごいよ。薫、すっごく綺麗」
「…ありがとう」
秋人が感動で目をキラキラさせて呟く。薫は苦笑を零した。こんな誉め言葉は何度も聞いている筈なのだが、秋人の口から出ると不思議と腹も立たない。ただ照れくさいだけだった。
「うわあ、これ売れそう…」
凛子が呟くと薫は嫌な顔をした。
「表紙だっけ?」
「うん。特急料金の代わりにカタログの表紙でお願いします」
「特急料金払うって言ってるのに」
「いや、特急料金として表紙モデルで」
がっくりと薫が肩を落とす。
結局桜子から連絡を受けた凛子は直接薫とやり取りしたので、凛子は思い切りよく自分のブランドのPRに一番効果的な報酬を選んだ。薫はうんざりした顔で釘をさす。
「ボタンは開けないぞ」
「桜子様の婚約者になったにも関わらず、他の女に肌を見せるとか言語道断!浮気で訴えるぞ」
「どこから突っ込んでいいか分からんな」
薫がため息をついた。
「うおおお、びっくりしたああ」
ようやく当夜が息を吹き返した。
「いやあ、先生。すっげーっす。魂持って行かれるかと思った。似合ってる。びっくりした。なんか一瞬先生になら迫られても断らないかもとか思った。やば」
「ああ、まあ。うん。ありがとう」
薫の返事も微妙に引き気味だ。
「わああ、間に合った?」
さらに、声と共に桜子が飛び込んできた。
「桜子さま!!」
凛子が飛びあがる。
「私の衣装とも合わせた方がいいだろ?」
衣装ケースを小脇に抱えて桜子が首を傾げる。それから薫を見てポカンと口を開いた。
「ひゃあ、すごい。薫さん。似合ってる。カッコいいね」
どこにでもありそうな誉め言葉だが、そこには単純に今そこにいる薫への賛辞以外の要素がない。薫はそこに執着のようなものがないことにホッとした。
「凛子ちゃん、私も着た方がいい?」
と尋ねる桜子に凛子はコクコクと頷いた。それからあーでもない、こーでもないというやりとりが深夜まで行われて、薫はすっかり疲れて途中でぐったりと椅子に座りこんでしまったのだった
薫「いや、俺だって着るものに拘りくらいあるよ」
凛子「ほう、どんな」
薫「丈夫で長持ち。組み合わせやすい。適正価格」
凛子「そうじゃねえええええええええ」




