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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十章 代理人、師走を走る

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18. プレゼント

 ホームのベンチで包みを開けると、中身は柔らかそうな皮製の手袋だった。

「かっこいい」

 秋人のサイズにぴったりである。包みの中には小さなメモが入っていた。

『剣士は指が大切なので』

 と書かれていた。剣士と呼ばれるのはくすぐったい。

 秋人は気を取り直して、駅のホームを駆けだした。



「桜子さん、起きてください」

「うーん、もうお腹いっぱい」

「それは分かってますが…」

 ソファで転がっている桜子を起こそうと薫は彼女を揺り動かしてみたが、どうやらダメなようである。シャンパンとビールで完全に酔っぱらってしまっている。部屋に抱えて連れていくことは可能だが、流石にまだ彼女の部屋に許可なく入る勇気はない。


 薫は自室から毛布を持ってきて彼女にかけた。そのまま、彼女の番をするように、近くの床に腰を下ろす。

 聖夜は当初ホテルに泊まると言ったが、薫の計らいで当夜の部屋に客用の布団を運んでそこに泊まることになった。

 にぎやかな夜は一気に音を無くして、部屋には壁掛け時計の音だけが響いている。


 ふと、薫は大昔家族で過ごしたクリスマスを思い出した。

 弟がまだ寝たくないと駄々をこねるのを「サンタが来なくなるよ」と言い含めて寝かしつけたっけ。母のケーキは若干焦げたのをイチゴとクリームで誤魔化したものだったし、父がプレゼントを枕元の靴下に入れようとして薫の手を踏んづけたことも思い出した。

 こうして新しい家族と共にクリスマスを楽しむことで、再び記憶の底から蘇った懐かしい記憶。喪失感がほんの少し和らいだ気がした。


「…秋人、遅いな」

 と薫は小さく呟くと、そのままウトウトと眠りについた。 



 美香は帰宅後シャワーを浴びてベッドに転がった。 昨日は朝日と共に起き出して必死にクッキーを焼いたのだ。招待を受けてから今日までの失敗作は、持って行ったものの約10倍に上る。明日からおやつはずっとクッキーだ。それでも、秋人があんなに大喜びしてくれるならその価値があった。


 クッキーの準備ができてからは着ていく服でさんざん悩んだ。結局当初から計画していたお気に入りの紺色のワンピースにした。それから姉に懇願して髪をセットしてもらった。誰かの為に装うのは美香にとっては初体験だった。

 特に秋人からの言及はなかったが、一瞬だけ秋人が驚いた顔をした。それを見れただけで満足だった。一仕事終えた達成感はあった。


 満足げに一息ついていると、コンコンと何かが当たる音がした。ふっと振り返ると窓のところに人影が。悲鳴の形に口を開きかけた時、月明りでシルエットがよく見えた。

「き、如月くん!?」

 慌てて跳び起きる。美香が呼ぶ声にホッとしたように彼ははにかんだ。


 美香が窓に飛びついて開ける。

「なんで、どうして!?」

 質問が形にならない。美香の部屋は二階で窓の外に足場はないはずなのだが、3S探索者(シーカー)の彼は、ほんのわずかな外壁の境目に足をかけて、窓枠に「よいしょ」と腰をかけた。

「危ないよ」

 と美香が言うも、彼は

「このくらいダンジョンの崖に比べたらなんてことないよ」

 などと笑う。それから、美香の姿を見て赤面すると慌てて目を反らした。

「あの…冷えちゃうので何か上着を…着てください」

「ぎゃっ」

 美香は薄いパジャマ一枚だった。シャワーを浴びたばかりなので、当然ノーブラだった。慌てて椅子の背にかけてたカーディガンを羽織る。秋人少年は紳士なので、美香が着るまで目を反らしてくれていた。


 互いに気まずい沈黙が流れたが、こほんと秋人が小さく咳払いして切り出した。

「渡しそびれちゃったから、これ」

 秋人が美香の手の上に小さな包みを載せた。少し重みのある包みは綺麗なバラ色の包装紙で包まれており、金色のリボンがかかっていた。


「先輩に似合うと思ったんだ。ちょうど今日のワンピースにぴったりだったから、ほんとはもっと早くに渡したかったんだけど。みんないたし、智輝は絶対揶揄うし。でも今日絶対に渡したくて」

 おそらくもっと慣れている男なら、うまく皆の隙をついて渡せるのだろうが、秋人にはそんな技術も経験値もない。

 本当はつけてみて欲しかった。絶対に今日のワンピースに似合ってたのになぁと秋人はとても残念だった。

 玄関に彼女が立っていた時、背後から光がさしているかと思った。おそらくあれを「愛しい」と言うのだと秋人は理解した。


「今日先輩髪くるくるしてて可愛かったね。もう取れちゃったんだ」

 秋人は何か言おうと必死になったが、何か遠くの方へ脱線していく。

「如月くんの初めてのお呼ばれだから、姉に手伝って貰って巻いたの。初めてだったけど気に入ってくれたならよかった」

 はにかみながら美香が笑う。

 あれは自分のためにしてくれたのだ…そう思ったら、秋人はものすごく強く彼女を抱きしめたいような衝動に駆られた。

 しかし、それはいけないことだ。こんな風に突然おしかけて彼女のやさしさにつけこむような真似は言語道断だ。

 それに、秋人は彼女に好きだとは言えない。それなのに触れるべきではない。

 胸の奥がキリキリと痛んだ。


「えっと、メリークリスマス」

 そう呟いて秋人は綺麗に笑うと、階段でも降りるように軽々と飛び降りた。

「きゃっ」

 悲鳴を堪えて美香が階下を覗き込むと、彼は美香を見上げてひらひらと手を振って見せた。美香は苦笑して手を振り返した。


 一瞬、秋人が見せた泣きそうな笑顔が胸に残った。



 包みを開けると、そこにはガラスでできた綺麗なライラックの花を模ったブローチが入っていた。アンティーク的なデザインのコスチュームジュエリーだ。

「わあ」

 確かに今日着ていた紺色のワンピースの胸元に着けるといい感じである。

 何となく月明りに透かして見るとガラスの中にはキラキラ光る何かの粒子が見えた。

「が、ガラス…だよね?」

 若干不安を覚える。一見普通に見えるが、秋人の金銭感覚はだいぶおかしいのを思い出した。

 そう、彼は買おうと思えば何でも買えてしまうのだ。何でもだ。


 改めて灯りの元確認すると、細工は恐ろしく細かく、蔓の金具はもしかしてホンモノの金ではないだろうか。ガラスだと思った本体ももしかしたら何かの石かもしれない。せめて貴石であって欲しい。


「お、お姉ちゃーん」

 と妹は半泣きで姉に真偽を判定してもらいに部屋から駆け出した。

秋人「これにします。綺麗に包んでもらえますか?」

店員A「お買い上げありがとうございます」

店員B「あの子、結構うち見に来るよね」

店員A「買い物していったのは今日が初めてよ。綺麗なものが好きなんだって」

店員B「…値段見ないで買っていったわね」

店員A「うち、真正のアンティークショップだからね。それなりのお値段なんだけどね。ブラックカードだったわ」

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