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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十章 代理人、師走を走る

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15. 忘年会

 クリスマスと年末パーティーの前に弁護士会の忘年会がある。

「お前、忙しいな」

 金子が呆れたように薫に呟いた。どうやら、薫は幹事を引き受けているらしい。店の手配をしたいがために毎回引き受けているのだ。一度別人が手配した店で粘着質のホステスを呼ばれて、大変な目にあってからのことらしい。


「金子も来年から正式にうちに所属だし、顔出すか?」

「ああ、そうだな」

 薫は意外な返事に戸惑った。ノーと言われると思っていたのだ。穏やかな顔で弁護士会のくだらない飲み会に参加するという金子の変化に、薫は少し驚いた。今までなら「そんな金の無駄遣いはしない」と嘯いていたことだろう。

「なんだ、変な顔して」

 金子の言葉に

「なんでもない」

 と返した。


「弟さんは、もうついてなくていいのか?」

 先週、新潟第三ダンジョンで手に入れた万能薬を持って、金子は弟が入院している施設に飛んでいった。

「ああ、なんか凄かったよ。万能薬」

 エリクサーよりさらに効き目がよく、探索者(シーカー)以外にも効能がフルで発揮されるこの魔法の秘薬は、金子の弟の瘴気中毒だけではなく、食いちぎられた足まで再生した。病院のスタッフも仰天する効き目だった。


「弟は今はまだリハビリしてる」

 足は再生したが、筋力などは落ちているし使うことに慣れていないのだ。歩行訓練が必要だった。車椅子はまだ手放せないが、このままいけばあと3週間ほどで退院できるだろう。

「年始は久々に兄弟で過ごせるよ」

 穏やかな顔で金子が笑う姿を見て、薫は安堵した。


 金子の弟を含む家族がダンジョン・ブレイクに巻き込まれたのは大学時代の事だった。それまでは、普通のごく当たり前の大学生だった金子の生活も性格も一変した。

 実家は跡形もなく消え去り、彼の家族は行方不明。もはや絶望かという時に弟発見の一報が寄せられて、電話に向かって大声で泣き叫んでいた金子の姿を、薫は覚えている。

 その後、金子は弟を生かすための金策に文字通り駆けずり回った。既に大学生活はほぼ終わりに近かったので、授業料などは問題なく、大学を中退する羽目にはならなかったが、保険金や災害支援金などではとうてい足りなかったのだ。


 しかし、金子は一切家の事情を薫に話さなかった。助けを求めてくれば、薫は金ならいくらでも渡すつもりだった。でも、この半年前に友人の借金関連で金銭トラブルに巻き込まれ、ひどい目にあった薫の事を知っていた金子は、本当は土下座してでも金を借りたかったであろうに、そのことを一言も薫に言いだすことはなかった。

 その時から、薫の中で金子は一番の友人で、いつか力になりたいと思っていた相手だった。

「よかったな」

 と薫は笑った。



 さて、忘年会は当然関係のある弁護士が一堂に集まる。案件を融通したり、専門が違う相手を紹介したりする間柄の気心が知れてるメンバーだ。そこに新参者の金子を連れていくのに多少緊張はあったが、金子は特に問題なく溶け込んでいた。彼はやろうと思えばいくらでも感じよく振る舞えるところが、高難度のツンデレだよなと薫は思っている。


「よう!Sランク!飲んでるか!!」

 バンバンと薫の背中を叩くのは、ここらでいちばん古株の弁護士成瀬だった。加藤とも仲がよかったこともあり薫のことを気にかけてくれている、薫が頭が上がらない人の一人である。

「お前が手配すると綺麗どころがこなくて寂しいんだよ。今度は俺に任せろ」

 と常に文句を言われている。しかし、一度任せた折にやたらと圧の強いホステスに粘着されて以来、薫は断固拒否している。

「成瀬先生、飲みすぎですよ」

 薫はそう言いつつ、成瀬のビールを遠ざける。

「いや、飲んでない。そんなに飲んでない」

「いや、もう頭まで酒漬けって感じですよ。確か健康診断撥ねられてましたよ。奥さんに怒られますよ」

 薫の言葉に成瀬は思わず飛び上がった。

「なんで、薫ちゃん俺の健康診断のこと知ってるんだよ。もしかして…忍者?そういう魔法使える?」

「忍者じゃないし、使えません。奥さんから事前に酒を飲みすぎないように見張っててくれって頼まれてるだけです。あ、柴田さん!柴田さんも飲みすぎ注意ですよ。娘さんから3杯までって言われてるでしょ」

 違う席で勝手に日本酒をオーダーしようしていた柴田という弁護士に向かって薫がダメ出しをしている。


「好かれてるだろ」

 一人ちびちび飲んでいた金子の横にいつのまにか座った藤堂弁護士が苦笑しながら話しかけた。藤堂は加藤のライバルと言われていた男だ。仲が悪いとか犬猿の仲などと言われていたが、毎年薫の手配する忘年会に顔を出している。つまり、そういうことだ。


「神崎は大学時代からこんな感じでしたよ。普通もうちょっとやっかまれてもおかしくないとは思いますがね」

 金子は肩を竦める。

「お前さんが事務所に入ったと聞いてみんなホッとしてるよ。どう見ても働きすぎだったからな」

 しみじみと藤堂が言う。薫があちこちで世話を焼きながら立ち回っているのを、ひっそりと見守っている年輩の弁護士が多数いた。


「まさか、それに加えて子供まで預かってる上に、探索者(シーカー)の仕事までこなしてるとは思ってなかった。みんなもっと気を使ってやればよかったって言ってたよ」

 藤堂の言葉に無言で金子は問い返す。

「ここにいる連中はみんな、加藤に世話になった奴ばかりだ。皆あいつのことを息子みたいに思ってるよ。ところで…」

 藤堂が改まってこっそりと小声で金子に尋ねた。


「今度の霧崎桜子は大丈夫なのか?前みたいなことになったら目も当てられん」


 どうやら、藤堂は全員からそれを確かめるように使命を与えられているらしい。薫の目が他の弁護士にいってる間に完遂しなくてはならないミッションのようだ。

 金子は全員からの圧をひしひしと感じた。ここで、実は佐代子との関係が発展したのは自分が焚きつけたからだと言おうものなら袋叩きである。金子はそこは黙秘することにした。


「ご本人の人格は比較対象にするのもおこがましいレベルで最上級に良い人間で、使命感があり、稼ぎもよく、容姿端麗で、同居人の少年Aにも懐かれており、おそらくここが肝心ですが、これ以上ないってくらい神崎に惚れてます」

 と金子が告げると、と藤堂はホッとした顔をした。

「そうか…」

「はい」

「そうか、よかった」

「はい」

 二人はちびちびと酒を飲みながら、薫が酔っ払いたちに絡まれて大騒ぎしている姿を見守っていた。

成瀬「で、どうだった?霧崎桜子は大丈夫そうか?」

藤堂「今度はちゃんと惚れてるってさ」

柴田「そりゃあよかった。前の子はどう見ても薫のこと好きそうじゃなかったもんな」

成瀬「なんだ、お前も気が付いてたのか」

藤堂「加藤にも何度か相談されたよ」

成瀬「まあ、でもアイツの境遇だと言いにくくってなぁ」

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― 新着の感想 ―
藤堂弁護士はあれか、仕事とプライベートはきっちり分けるタイプなのかな。いいね。プライベートの感情を仕事に持ち込まず、逆も然りってことだし。婚約者の弁護士やってたから良い目で見てなかったけど、仕事に誠実…
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