表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十章 代理人、師走を走る

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

173/276

14. ダンジョンの守護者

【童よ】

 不意に秋人に声がかかった。その声は三人にも聞こえたらしく、三人とも慌てて周囲を見渡していた。


【通路を広くしたぞ。遊びに来い】

「え?今?」

 秋人は今度くるときのつもりだったが、どうやら相手はそうは取らなかったらしい。

【その大人たちも連れてくるとよい】

「うーん、分かった」

 秋人が平気で声に返事をしているので、大人三人は事態を見守っている。


「薫、なんか呼ばれているから行こう」

「大丈夫なのか?」

「平気だよ。万能薬のこんな大きな瓶をくれたお姉さんの声だよ。すごく綺麗な花があるんだ。薫に見せてあげたい」

 秋人の答えに薫は苦笑を零した。秋人にとってダンジョンはもしかしたらさほど恐ろしいところではないのかもしれないと思った。



 4人は例の通路に突入した。狭いは狭いが先ほどよりは広がっており、一番背の高い当夜でもかがまずに進めるようだった。しかも、歩いている間も特にモンスターが出ることもなく順調に進むことができた。

 通路を抜けると巨大な川が横たわっている。おそらく怪魚はいる。

【橋をかけてよいぞ。攻撃はさせぬ】

 と例の声が言うので、秋人は氷結魔法で対岸までの橋をかけた。

「滑るから気を付けてね」

 と秋人が言う。

「当夜、金子の面倒みてくれ。そいつ、運動音痴なんだ」

 との薫の言葉に金子は渋い顔をしたが否定はしない。

「ういっす」

 当夜が金子を脇に抱える。

「ちょ、この扱いは納得いかん!」

 と金子が苦情を零すも、三人はひょいひょいと氷でできた橋を3歩ほどで渡った。身体強化を使って氷に足を取られないように足裏を強化して飛んだのだ。



「おお」

 思わず薫は声を上げる。対岸に渡ったところに大きな樹が生えている。桜のような薄い紅色の小さな花が満開だった。

「確かに、これは見事だな」

 思わず唸る薫に秋人は嬉しそうに頷いた。

「綺麗っすね」

「ああ、桜みたいだな」

 当夜と金子も感嘆の声を上げた。


「せっかくだから、何か食べるか」

 と薫が言い出した。収納から作り置きのサンドイッチやおにぎりを取り出す。

「4月になったらみんなで花見でも行こうかと思ってたんだが、まあ少し早いけどいいだろう」

 との薫の言葉に当夜と金子は頭を抱えたが、秋人は嬉しそうに自分の収納からとっておきのおやつを取り出した。


 4人は地面に座り、花を見上げながら食事を開始した。昼から何も食べていなかったので、空腹だったこともある。当夜と金子は薫や秋人ほど図太くはなれなかったが、この際やけくそのような心境で、薫が差し出す食料を受け取った。


「酒が飲みたいところだが、流石になぁ」

 ぼそりと薫が言う。金子も

「まあ、花見に酒がないのは確かに勿体ないな」

 と頷いた。さほど酒を飲み慣れていない当夜や、未成年の秋人にはその心境は分からないが、お花見の習慣は知っているので「そういうものだろう」と納得した。


 4人は30分ほどで花を見ながらの食事を終えた。

「さてと…」

 薫は秋人を見る。

「さっきの声の主にご招待のお礼をして帰るか」

「うん」

 4人は立ち上がり、樹の方へ一礼する。


「ご招待ありがとうございました」

 薫が言うと秋人たちも深々とお辞儀をする。

「ありがとうございました」

 3人が薫に続くように礼の言葉を述べ、さて帰ろうと踵を返した時、慌てたような声が響いた。


【待て!】

「?」

 秋人が振り返る。

【それだけか?】

「え?あっ、ごめんなさい。お礼しなくちゃあね。薫、お金とかある?僕、現金持ってない」

 秋人が言うと薫は大きく頷いた。

「あるけど、普通の人間の金だぞ。何か貴金属とかの方がいいかな?ダンジョンのドロップ品とか魔石は微妙だろうしな」

「あ、俺翡翠持ってるっす。これこれ。結構綺麗なやつ。御守りって兄ちゃんが修学旅行の土産でくれたから、ダンジョンに入るときはいつもベルトに着けてるやつ」

「いや、それはダメだろう。兄弟にもらったものは大切にしなさい。俺の時計は?一応金無垢だぞ」

 高そうなロラックスの時計を金子は腕から外す。

「俺の弟のための薬を取りにここに来たわけだし、俺が出すのが筋だろう」

 金子が外した腕時計を秋人に渡した。秋人はそれを受け取ると木の根元に置く。

「えっと、お供え?が遅れてすいません。ご招待ありがとうございました」

 と手を合わせた。薫たちもそれに倣った。


【違う!!】

 声が慌てたように否定する。秋人はきょとんと首を傾げた。

「えっと、ご飯の方がよかったですか?でももう食べちゃったし。薫何か残ってる?」

【そうではない!!】

「でも、神様にはお供えするもんでしょ?」

 と秋人が困ったように振り返って薫を見る。薫は少し考えた後、

「相手の要望を聞いてみよう。秋人を置いて行けとか言われたら断るけど、何か渡せるものならいいんだが」

 と言う。

「お姉さん、何がいりますか?」

 と秋人が尋ねる。すると、樹の幹の上にうっすらと女性の姿が現れた。彼女は呆れたように4人を見つめる。


【阿呆か。お主らのような卑小な者から何か搾取したりなどするものか】

 いらいらした様子で女性は続けた。

【万能薬をさらに欲しがって何か悪さしたりとかはせぬのか?】

「はい?」

【童に命令し妾の領分を侵そうとしたりせぬのか?】

「しないけど」

 薫が答える。

「万能薬はもう十分だし、お花見も終わったし、そろそろ帰ろうかなと」

 と薫が続けると彼女はがっくりと項垂れた。

【何か目的があって来たのではないのだな】


 女性の言葉を聞いてもぴんと来ないのか、4人はぽかんとした顔をしていた。そのうち、薫がふと「あ」と小さく声を上げた。

「もしかして私たちの事を試してました?」

 薫の問いかけに、秋人が不快気に眉を寄せた。

【怒るな、童。普通は子供を一人でこんなところに寄越す大人はロクな者ではないのだ。そなたが騙されているのではないかと思ったのじゃ】

「薫はそんなことしないよ!今回は金子さんの弟さんの瘴気中毒を治すために薬を取りにきたんだよ。僕が行くって言ったんだ!」

 抗議する秋人に女性は申し訳なさそうな顔をした。

「まあまあ。秋人。こちらの方の言う事は最もだ。疑われても仕方ない」

 薫が割って入る。ふとその薫の姿を見て、女性は感心したような声をあげた。


【そなた、美しいのう】

「は?」

【こんな加護深い人間がまだこの世にいるとは思わなんだ】

「加護?」

 きょとんとする薫を見て女性は驚いた。

【もしかしてそれも分からぬのか。なるほどのう。そこまでこの世界は常世から離れてしまったか】

 ふむふむと女性は頷き、しげしげと薫の顔を眺めた。

【そなたの容姿は妾たちの神からの賜り物じゃ。大事にするがよかろう】

 薫は嫌そうに顔を歪めた。

「いや、この顔で得したことより損したことの方が多いと思うんですが…」

 薫の言葉に女性は柳眉を逆立てた。

【愚か者め!そなたの命が何度も救われておるではないか!13歳、28歳、54歳の時じゃ!忘れたとは言わさぬぞ】

「は?」

 薫が大きく目を見開いた。聞き捨てならない。

「54歳?俺はまだ29歳だぞ」

 しかし、薫の思考は混乱していた。13歳は家族がダンジョンブレイクで死に絶えた年齢、28歳は新宿第三ダンジョンに突き落とされた年齢だ。


【んん?】

 女性は薫の言葉を聞いて、薫を目を眇めるようにして見つめなおした。

【おお、すまなんだ。54歳は2度目の時じゃな。そなたはまだ体験しておらぬ未来の事じゃ。まあ、体験せぬ方がよかろうがの】

 女性は肩を竦めた。じわりと何か嫌な予感のようなものが薫の中に広がった。知っているような、知らないような情報。


【4度目はないだろうから、今生を大切にな。そなたが童を大切にしておるように、童もそなたを大切に、大切に思っていることを生涯忘れるなよ】

 思わせぶりな言葉に薫は形の良い眉を寄せた。

「あなたは何者です?」

【まあ、そなたらの知識に合わせて言えばダンジョンの守護者じゃな】

「ダンジョンボスとは違うのですか?」

【違う。妾はすべてのダンジョンにいるわけではない。そうじゃな…そなたらの言葉を借りるとするならば、「蔵」にのみ存在する】


「…巨福呂坂ダンジョンにもいたんですか?」

 秋人が尋ねると彼女は少し困った顔をした。

【気にしなくて良い、童。そなたが送り返してくれたおかげであそこにいた妾は無事常世に還れた。妾も還してほしいところだが…】

「・・・・・」

 秋人が困った顔をする。彼はその時のことを覚えていないのだ。


【そなたはこちらで生まれた者じゃ。そうそう魔道を開くことは出来ぬだろう。というより命が惜しくば、あまり何度もするではないよ】

 秋人を優しく見つめ、彼女は微笑んだ。

【お帰り、童。また気が向いたら遊びに来や】

 これはその御守りじゃ…と女性が秋人に小さな光る珠を渡した。

【この珠を使えば、ここに跳ぶことが叶う。万能薬がほしくばいつでも参るがよい。そなたになら道は開かれよう】

 女性はそう告げ、次の瞬間真っ白い光を放った。4人は思わず目を瞑る。


 そして、目を開けた時には例の通路の前の小さな広場に立っていた。

 今のが夢ではなかった証拠に秋人の手には小さな珠が握られており、金子の腕にはロラックスの時計がなかった。あれがおそらくかなり高価なものだと察した秋人は申し訳なかった。相手はいらないと言っていたのに。


「置いてきちゃってごめんなさい」

 秋人が困った顔をすると、金子は苦笑した。

「万能薬の値段に比べたら安いもんだよ」

 と嘯いた。


 こうして、新潟第三ダンジョンの探検は終わった。

秋人「薫、お花見って何?」

薫「一般的には桜の見えるとこにピクニックシート敷いて、豪華な弁当作って酒盛りする会だな」

秋人「楽しそうだね」

薫「4月になったら事務所のメンバーとか桜子さんのとことか聖夜とか金子の弟さんなんかも呼んでパーっとやろうか」

金子「なんかサラッととんでもないメンバー混じってた様な」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ