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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十章 代理人、師走を走る

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12. 新潟第三ダンジョン 3

 翌日、朝からさっそく出発となった。野宿に慣れていない金子は流石にあまり元気ではなかったが、薫たち三人は全然平気そうだった。

 朝食を食べながらぼやく。


「秋人くんや当夜くんはともかく、なんで神崎は野宿慣れしてるんだ」

 薫は「うーん」と小さく唸った。

「まあ、この1年で割とよく行ったからな、ダンジョン」

「あ、でも、この新しいテントは床もあるし、寝台もあるし、大きいし、すごく快適だよ。僕が前にここに来たときは地面に寝てたから、それに比べたら天国だよ」

 秋人の言葉に当夜はげんなりして答えた。

「いや、これもうどっちかというとグランピングだろ」

 と遠い目をする。


 薫が最近節税対策で買ったテントは探索者(シーカー)御用達アイテムの中でも最高級品のテントで、耐熱耐寒に優れた素材を利用、空間魔法で大きさを変えることができるが、中の広さは見た目の倍、寝台には薄いが高級マットレスがあり、床には絨毯が敷かれ、中で煮炊きもできるコンロがついているという「誰が買うねん」と塩漬けになっていた製品だった。

 通常、この大きさのテントは収納魔法にも入らない。しかし、破格の収納魔法の容量をもつ薫と秋人はこのテントを一つずつ自分の収納に入れている。なんと、一基3千万円という馬鹿げた値段の代物だ。


「俺はシティ派の探索者(シーカー)だから、環境に拘っただけ」

 という訳の分からない説明と共に、それを初めて見せられた時の当夜の顔は『無』だった。

「地方のマンション並みの値段だな」

 金子は思わずつぶやく。

「確かに」

 と薫は笑った。



 さて、秋人の発見した小道まで、4人は粛々と進んだ。途中何度かモンスターに出会ったが、殆どが薫の防御魔法で粉砕されている。文字通り粉砕である。薫の魔法に当たったモンスターはジュっと音を立てて消滅するのだ。金子がおっかなびっくりその仕組みを尋ねた。

「神崎のそれは攻撃魔法じゃないのか?」

「防御は最大の攻撃」

 薫の言葉を

「ちょっと違うと思う」

 当夜が否定する。

 さらに、防御魔法のレンジから外れているモンスターや一撃で死ななかった強力な魔物は当夜が殴ったり、秋人が斬ったりして瞬殺していた。

 金子は探索者(シーカー)になったので、今回臨時のパーティーメンバーとして登録が可能になった。おかげで、ガンガンレベルが上がっている。

 昼食時、ギルドカートを見てみると既に10を超えていた。


「あ、もうレベル13だね」

 カードを覗き込んでいた秋人が囁く。

「よかったね」

 とニコリと笑った。

「魔法覚えたでしょ」

「ああ、たぶん…」

 金子は不思議な感覚に包まれていた。頭の斜め上のあたりにぼんやりと呪文が浮かぶ。おそらく使えるという確信があった。

【初級回復魔法】

 と唱えると、先ほど転んで擦りむいた膝があっというまに治った。


「おお、すげえ」

 と当夜が歓声をあげた。薫も感心している。

「金子、最初からちゃんと使えるの凄いな。俺なんか雷があちこち飛んだけどな」

「薫はいきなり魔力が高かったからコントロール難しかったんだよ。普通は金子さんみたく少しずつ覚えるものだからね」

「なるほど」

 薫はその過程を吹っ飛ばしているので、力の加減がへたくそなのだ。

「さて、ご飯も食べたし、出発だね」

 秋人が気合を入れる。ここから大変な道のりになる予感がした。



「なるほど…これは確かに」

 薫が絶句して脇道の入り口を見上げている。当夜も金子も同じく無言だった。

「よくこんなの見つけたな…」

「なんか、奥の方に強い魔力があるなって思って」

 崖の上の小さな入り口を秋人は指さした。

 そう、この脇道かなり小さめなのだ。秋人の身長でもぎりぎり…少しかがまないと難しいかもというレベルだった。

「僕も、もうすぐ入れなくなりそう」

 秋人はトントンと軽い足取りで崖の上に飛びあがり、入り口の近くに立った。今にも入り口に飛び込んでしまいそうな秋人を、薫は慌てて止めた。


「秋人、なんとか俺も一緒に…」

「いや、無理だから」

「でも」

「だって、流石にこの狭さで魔法撃ったらやばいし、僕も実剣しか使わないよ」

「でもっ」

「この先もう少し狭くなるし、正直薫が詰まったら脱出もできなくなるでしょ。あと、この奥に川があるんだけど、もうそこは絶対に薫じゃ通れないからね」

 ぐうの音も出ない薫にひらひらと秋人は手を振った。

「すぐ戻ってくるから、ここで待ってて」

 そう言うと、秋人は細い脇道に入っていった。



 薫は一つ大きなため息をついた。物理的に不可能という可能性はまったく考えていなかったのだ。

「神崎、その…すまんな」

 金子が落胆している薫に向かって頭を下げる。

「いや、俺が気軽に考えすぎてた。まさか子供しか通れないようなダンジョンの通路があるなんて思わなかった」

「秋人くんが少年だったから見つけられたってことか…」

「うん」

 万能薬というのはエリクサーの上位種で、実は欠損さえ治せる貴重な魔法薬だ。オークションでは当然億の単位の値段が付く。実は、リサのような回復魔法師の魔法は一般人には効きにくく、欠損を補うところまでは効果がない。しかし、万能薬は探索者(シーカー)以外にも有効なのだ。


「何回くらい取りに行かされてたんだろう」

 ぽつんと呟いた当夜の言葉が重たかった。



 秋人は頭上すれすれの通路をゆっくりと進んでいた。以前は駆け抜けることが可能だったか、流石にそれは難しい。前よりかなり狭く感じるし、時々頭を低くしないと通れないような場所もあった。

「僕、かなり背が伸びたってことだよな」

 秋人はうんうんと一人頷いて笑顔になった。その背後には彼が切り捨てたモンスターが点々と横たわっている。剣の修行を桜子に着けてもらえるようになってからは、実剣での対応も様になってきた。以前より全然苦戦しない己の成長がほんの少しだけ嬉しかった。


 狭い通路を抜けると今度はかなり大きな川に出る。

 薫には言わなかったが、この川が曲者だ。大きな怪魚がいる上に流れが速く、飛び越えようとすると水魔法で攻撃をしてくるのだ。避けるためには泳ぐしかない。ダンジョンの中は温かいとはいえ、真冬に泳ぐとなると流石に少々気が重いが他に方法を思いつかなかった。

 秋人は対岸にロープを括りつけた剣を魔力を使って投げつける。威力を持ったそれはきちんと向こう岸に突き刺さった。ロープの反対側を自分に括り付けて準備は終わった。

「よし」

 秋人はすっと身構えると川に飛び込んだ。


 川の中はエメラルドグリーンでとても綺麗なのだが、やはり怪魚がやってきた。最初に来たときは飛び越えようとして怪魚の攻撃を食らって川に落ちたのだ。あの時は本当に死ぬかと思った。自分で飛び込んだ場合は敵との対峙も自分のペースでできる。秋人は自分の周囲に防御魔法を展開して意識を集中する。手には母の杖があった。

「薫の雷神の雷鎚(トールハンマー)とまではいかないけど…」

 雷撃魔法(ライトニング)を唱えると、水中に高圧の電気が走った。


 秋人はロープを伝って対岸に自分の体を引き上げた。川面にはぷかぷかと大きな怪魚が何匹も浮かんでいる。

「いや、凄いな。豊穣の杖」

 秋人の雷撃魔法(ライトニング)はそこまで強くはないはずなのだが、威力が凄まじく強化されていた。

 これで、難所はクリアである。あとは万能薬を取って帰るだけだった。濡れたままで帰ると薫を心配させそうなので、帰るまでに乾くといいなぁと呑気に思っていた。

金子「因みにこのテント以外にもアホな買い物してるのか」

薫「失礼な」

当夜「先生の机の上にこの前魔道冷蔵庫のカタログありましたね」

秋人「うちは何十日も潜る仕事しないから冷蔵庫はいらないと思うよ」

薫「いや、冷麺とか食べたいなあとか思ったらいるかなって」

三人「我慢しなさい」

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