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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第十章 代理人、師走を走る

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4. 保留

 二人はとりあえず探検はここまでで切り上げることにした。

 明日も仕事と学校があるが、ここには膨大な資料と試作品の数々が眠っている。秋人の両親についてももう少し何か手掛かりがあるかもしれないし、例のDNA鑑定の結果書類なども探し出しておきたい。

 今度時間を作ってしっかり探す方がいいだろう。

 しかし、ここで問題がある。このことをどこまで誰に伝えるかである。


 一緒に住んでいる当夜や桜子に「地下にダンジョンがあります」という事を隠すのは流石に気が引ける。

 しかし、ダンジョンが人造物で半永久機関なことや、秋人と薫が瞬間移動できるようになったことや、神器に近いような2つのマジックアイテムについてなど盛りだくさん過ぎる秘密をどこまで共有するかが難しい。

 二人のことを信用していないわけではないが、秘密を知っていれば例の組織の標的になる可能性もある。反対に知らなくて罠に掛けられる場合もある。

「厄介な…」

 薫は深くため息をついた。


「とりあえず、地下にダンジョンがあることは伝えよう」

「そうだね。そこは最低限だよね」

 薫と秋人は頷き合った。


 しかし、それ以外の人にはどうだろうか。

 具体的に言うと後藤と栗原大臣である。表沙汰にするのは論外だ。しかし、特に後藤にどう切り出すかが難しい。彼は秋人の両親のこともよく知ってる。

「そういえば、加藤先生のことは知ってるんだろうか?」

 と薫が少し疑問に思った。


 ダンジョンのすぐ外にエレベーターの入り口がある。確かめたところB2へのボタンは薫が乗った時のみ現れるようだった。しかも、エレベーターの上や下へのボタンを二回押さないと出てこない仕組みになっている。

「間違えて押さないようにしないとな…」

 と薫は己に言い聞かせた。



「あれ?お帰り。どっか行ってたの?」

 自宅に戻ると当夜が引っ越しの荷物を運びこんで片付けていた。

「ああ、すまん。ちょっと地下に行ってた」

 薫の返事を聞いて秋人は感心した。嘘は言ってないところが流石である。


「当夜も秋人ほどじゃないが荷物が少ないな」

「趣味とかないですしねー。服もそんなに持ってないし。家事もほとんどしてないし。漫画とゲームも実家に置いてきてるし」

「僕の部屋のゲームとテレビ持っていっていいよ。ほとんどゲームしないから」

「え?ほんと!ラッキー」

 にかりと当夜が笑った。

 当夜はこの中では一番普通の青年なので、ゲームも漫画もアニメも大好きである。特に秋人の部屋に設置している最新のゲーム機はもっぱら当夜が使用しているくらいである。うきうきしている当夜をチラリと見て、薫は秋人に小さく頷いた。


「秋人、家具を動かすの手伝ってくれ」

 薫の言葉に秋人は頷いて加藤の部屋に向かった。

「あ、鍵穴無くなってる」

「そうなんだ」

 薫にはさっぱり見えないが、どうやらあれは封印のための鍵穴だったらしい。今はもう解放されたので必要がなくなったということだろう。カモフラージュの為に薫はしばらく鍵は身に着けておこうと決心した。


 家具を動かしながら薫が言う。

「夕飯の時、桜子さんが揃ってから伝えよう」

「分かった」

 秋人が大きく頷いた。そこはもう全面的に薫にお任せコースである。秋人は思考を放棄した。内容が難しすぎて手に余る。とにかく父と母の武器が自分の所有になったことがとても嬉しかった。



 薫は夕飯の準備に取り掛かる。最近では土曜や日曜の夕飯は秋人が作ることもあったし、桜子も参戦しているが、やはり基本的に神崎家の食卓をつかさどっているのは薫である。

「今日は肉じゃがにします」

 なぜか座った目で薫がそう告げた時、秋人は苦笑を浮かべるしかなかった。


「ただいまー」

 桜子が帰ってきた。

「お帰りなさい」

 と薫が言うと、桜子は非常に奇妙な表情をしていた。

「どうしたんですか?」

 薫が尋ねると彼女はじっと薫の顔を見る。

「なんか、ありました?」

「え?」

「少し朝と顔つきが違う」

「えっと、食事の時に説明します」

 薫が言うと彼女は小さく頷く。そんなに顔に出ているのかと、若干己の技量に不安が募る薫である。


「今日のご飯は何?」

 と桜子が無邪気に聞くので

「肉じゃがとお味噌汁とホウレンソウのお浸しとエビとブロッコリーのサラダです」

 と薫が答えると、彼女はパッと顔を輝かせた。

「わあ。私、薫さんの肉じゃが大好き」

 と笑顔で答えられて、薫の笑顔が固まる。それを聞いてた秋人は笑いを堪えるのに必死だった。



「は?」

 桜子が大きく目を見開いて絶句した。

「へえ」

 当夜は案外冷静だ。そこはこの二人との付き合いの時間の差が出たといえる。

「このビルの地下がダンジョン?」

「はい、どうもそのようです」

「ああ、先生たち、さっきそれ調べに行ってたのか」

 当夜が大きく頷く。その冷静な態度を桜子が恨めし気に見ている。おそらく普通の反応としては断然自分の方が正しいはずなのだが、3対1で分が悪い。


「それで、桜子さんどうします?」

「どうとは?」

「うちの家、たぶんどこよりも安全じゃないです」

「まあ、それは…」

 一応セキュリティ的に高いということで選んだ住居であるので、念のための確認だった。もちろん、桜子は首を振った。

「薫さんや秋人はこのままここの住むんでしょう?なら、私も大丈夫です」

「分かりました」

 薫は一つ頷く。おそらく桜子がそう答えるだろうと思っていたのだろう。さして驚いた風でもなかった。しかし、これでこの話は終わりとでも言いかねない薫の雰囲気に桜子は慌てた。

「いや、それで終わらせちゃだめ」

「あ、やっぱり駄目ですか?」

「当たりまえじゃない」

 ぺしっと桜子は己の額を叩いた。言葉が出てこない。


「うーん、でも今のところ安定してますし、あまり大事にしたくないんですよね」

「そんなこと言っても、いつ何時状態が変わるか分からないのがダンジョンでしょ」

 桜子の言葉はもっともなのだが、この地下ダンジョンに関しては簡単に閉鎖できるからそこまでの危険性はない。しかし、説明しづらい。


「蔵ですか?」

 当夜がボソリと呟く。彼的にはぎりぎり朽木の血統魔法による口止めに引っかからない質問だった。

「いや、蔵じゃない」

 薫の言葉にほっと当夜がため息をつく。彼は地下ダンジョンが蔵で、薫が自分を犠牲にしなくてはならないのではないかという部分が心配だったのだ。

 そこは、蔵を持っていた一族とそうではない一族の差が出た感じだった。桜子はその心配をまったくしなかった自分を恥じた。恋人の生死にかかわる可能性にまったく気が付かなかったなんて。


「ごめんなさい」

「え?なんで桜子さんが謝るんですか?」

 慌てる薫を秋人と当夜は生温かい目で見守る。

 この二人がどうやら恋人同士と言っていい関係になったのは何となく察しているのだが、その進み具合は亀の歩みである。アークのメンバーなどは小学生の方がまだ進みが早いと嘆いている。


「あー、僕そういえば課題が終わってなかったなー」

 と秋人が棒読みで席を立つ。当夜が

「あ、俺もまだ部屋の片づけ終わってないんだよなー」

 と続く。

「え?ちょっと何急に」

「そうだよ、まだ話途中だろ?」

「「ごゆっくりー」」

 慌てる二人を置いて、秋人と当夜は食卓を後にした。残った二人は顔が真っ赤である。気を使われたのがやたらと照れくさい。

「食器洗おうか」

「そうですね」

 皿洗いに逃げる二人をキッチンに続く廊下で様子見していた二人は、ひっそりとため息をついた。


 地下迷宮の話は有耶無耶の保留となった。

秋人「なかなか進まないね」

当夜「まあ、仕方ないよ。なんつーか先生ってあれでまた恋愛しようって思えるメンタルが強いと思えるくらいには、大変な目にあってるからな」

秋人「でも、もうちょっと…こう」

当夜「…美術部の先輩元気か?」

秋人「ぐぐっ・・・・・・」

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