2. 四季
薫と秋人はさらに周囲を探検して回った。このPCの中にもいろいろな情報が詰まっていた。まずは、このダンジョンの詳細が明らかになった。
『やあ!薫!それではこの地下ダンジョンの説明をするね!』
と先ほどしんみりとお別れをしたはずの加藤の映像が語り出した時には、秋人は薫の顔をさっきとは別の意味でまともに見られなかった。
加藤哲也という人は、つくづく本当にとんでもない人だったんだなというのが秋人の正直な感想だった。
この地下迷宮は如月四季という人の研究成果を元に現在のような形になっているらしい。
ダンジョンの真ん中に強力な結界を作成し、その威力でモンスターを討伐する。その時発生する魔石やドロップアイテムなどをエネルギーに変換して結界の維持や、このパソコンや室内環境の電源として利用するという画期的なシステムだ。
ダンジョンが永久機関としてエネルギー取得の発電所のような役割を果たしている。モンスターを自動で討伐し、それをクリーンエネルギーに自動変換しているのだ。
薫はこの技術の凄まじい価値に慄いた。世界中のダンジョンが発電所になるのだ。賛否ある原子力や火力発電、不安定な自然エネルギーに頼らなくてもよくなる。正直、その技術の金額的価値が想像できなかった。
このシステムだけでも人類の行く末に影響すること間違いなかった。
事務所が入っている雑居ビルは、元々は地下だけに結界のエネルギーを利用していたが、薫が探索者として魔力を得たのをきっかけにビル全体を覆うように変化したらしい。
ちょうど、薫が探索者になったのと、秋人との同居にあまりタイムラグがなかった結果、周囲の人間はこの結界を秋人が設置したと思っているようで、あまり騒ぎにはならなかったのが幸いだった。
「そりゃあ、虹彩やら指紋でセキュリティを厳重にするはずだよ」
と薫がぼやくのも無理はない。
しかし、これで加藤が目を抉られ、指を切断されていた理由が分かった。連中はここへ侵入を試みるためにそれらを持ち去ったのだ。
しかし、おそらくその前に加藤は自分のものではなく薫のデータを必要とするように書き換えたのだ。結果、加藤を殺した連中は目的のものを得られなかったに違いない。しかしそれは、今後薫の眼球と指が狙われる可能性があるということである。
「なんつーもん作ってんだ、先生」
薫がため息をつく。秋人は加藤がどういう死に方をしたか知らないので、この危険性については薫は黙秘することに決めた。
秋人は「如月四季」という人物の素性の方に興味があった。名前からして自分と無関係ではありえない。
彼は加藤の古い友人で探索者だった。かなりの変わり者で、ダンジョンと結界の研究に人生をつぎ込んだらしく生涯独身だったらしい。
ただ、この人が秋人の両親を拾ったことから、加藤と如月家の関わりが出来たのだという。
四季は50年前のダンジョン顕現より前からダンジョンの存在を知っていた。どうやらどこかの蔵の関係者らしかったが、巌や一馬のように戦士として育ったわけではなく、主にダンジョンの研究をしていた。
本人自身はあまり強い魔力はもっていなかったが、恐ろしく頭がよく、特に結界魔法についての造詣が深かった。
それで、50年前に全国のあちこちでダンジョンが顕現するようになってからは、喜々として各地のダンジョンに赴き研究をしていた。その為に探索者になったので、あまりレベルは高くなかった。
ある日、地方のダンジョンで四季がフィールドワークをしていた時、瀕死の男女を助けた。それが秋人の両親だった。
彼らは日本語こそ話すことができたが、日本人としての社会常識がほとんどなく、ダンジョンでモンスターを狩るためのエキスパートとして教育されていた。二人は「救世来神教」と呼ばれる宗教団体で育ったという。
四季と同じくダンジョン顕現より前からその存在を知っており、この世をダンジョンで埋め尽くそうという危険思想の組織だった。
二人はダンジョンで極秘の任務にあたっていたが、予想をはるかに超える強力なモンスターが出現し、その時派遣されたメンバーは彼ら以外は全滅した。
彼らは戦闘集団のエース的な存在で、当初は外部の人間である四季を警戒していたが、四季にとっては当たり前の心遣いに触れているうちに、徐々に人間らしくなり、四季のことを父親のように慕うようになった。
四季も研究一筋で生きてきたが、ここにきて家庭の温かさなどを思い知ることになり、二人に対して愛情のようなものを持つようになった。
二人は元の組織へ連れ戻されるのを恐れた。このまま平和にただの人として暮らしていくことを願った。四季もその想いを汲み取り、どうしたらいいかと唯一の友人であり弁護士である加藤を訪ねたのだ。
加藤はまず二人の生い立ちについて詳しく尋ねた。聞き出した話はあまり芳しい話ではなかった。二人の扱いは実験動物のようなもので、組織では人工授精の掛け合わせで「いかに強い能力者を作るか」に重きを置かれていた。
「名前は?」
と加藤が尋ねると男性が
「アフターウィンター53号 通称ハル」
と答え、女性は
「アンカースプリング24号 通称ナミ」
と答えた。その名前の異常さに加藤が眉を寄せる。四季は
「俺は春彦と夏実って呼んでる。俺が四季だからな」
と嘯いた。二人はその呼び名を気に入っているようだ。彼らは四季のことをお父さんと呼ぶ。今まで家族もなくふらふらと根なし草だった四季は、いきなり息子と娘ができて大変なのだと笑った。
加藤は春彦と夏実が恋仲だと知ると、遺伝子検査を勧めた。事情を聞き取る過程で、二人が人工授精で生まれていることは明白だった。最悪遺伝的に兄妹に近い可能性もあると踏んだのだ。
二人は最初あまり乗り気ではなかった。兄と妹などという関係に今更戻れるとは思えなかったからだ。しかし、加藤は知っていることと知らないことの間には大きな違いがあると説得した。これから二人が子供をもつ場合、リスクについて知ることが大事だと諭した。
加藤の伝手で、プライバシーをしっかり守ってくれる医師にお願いして検査してもらった結果、二人は驚くほど他人だった。加藤も四季も最低でも従兄レベルでの相似はあるのではないかと思っていたのだ。
二人はそのことについて、おそらく狙いが違うのだろうと語った。
春彦は明らかに戦士で、夏実は魔法師だった。教団は何か特別な能力の人間を作ることを目標にしているらしかったので、その計画に沿って自分たちは生み出されているのではないかというのが二人の見解だった。
二人は遺伝子検査の結果を知って大変喜んだ。それで、正式に結婚したいと加藤に頼んで戸籍を作ってもらった。春彦が四季の養子になり、夏実と結婚して三人は本当の親子になった。よく三人は加藤の元へ遊びにきて夜通し騒いでいた。幸せな家族の光景だった。
ただ、用心して加藤との関係はできるだけ残さなかった。もしも、件の組織が介入してきた時に、加藤が動きやすいようにとの配慮だった。何年間かは平和で穏やかな時間が過ぎていった。
それが壊れたのは、とあるダンジョンでの事故だった。四季が大怪我をしたのだ。
二人は四季の助手としてダンジョンで結界魔法の実験に手を貸していたのだが、ある日三人が予想もしないような効果が出てしまい、四季は命は取り留めたものの植物状態となってしまった。
彼の生命維持には莫大な費用がかかった。普通なら命を諦めるような怪我だったが、二人は恩人の命を見捨てることが出来なかった。
春彦と夏実は決断した。探索者になってお金を稼ごうと。彼らは教団に見つかることを恐れてそれまでは探索者として登録していなかったのだが、学歴も係累も社会的繋がりもない二人にできるのは探索者しかなかった。
うまくいけば四季を治せるアイテムが手に入るかもしれない。もしかしたら何か効果のある魔法を得られるかもしれない。
二人は必死に頑張ったが、残念ながら四季は回復することなくこの世を去った。
後にはSランクになってしまった二人の探索者だけが残された。
それが、秋人の両親が探索者になった理由だった。
四季「あー、君たち、そろそろ社会常識をもう少し覚えような」
春彦「えー、でもこの辺の壁ぶち抜いた方が早くあっちに行けると思うー」
夏実「うんうん。あと、この辺に結界ぶちこめばモンスター全部跳ね飛ばせるしい」
四季「なんで、君たち窮地に陥ったの?」




