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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第九章 代理人、パパラッチされる

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13. 五分五分

 桜子は秋人と薫に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。あんなに仲の良い兄弟のような二人の生活を邪魔してしまった。もしも、桜子がここにいなければこんな事態にならなかったのにと思うと悔やんでも悔やみきれない。


「うちのスタッフの子が、私に逆恨みしていやがらせで週刊誌に薫さんの話をしたの。それも、彼は酷い男で私は騙されてるって」

 きゅっと桜子の拳が握られた。

「秋人が最初に捕まえた記者はそのネタを探ってたらしい。それで、ここはうちの芸能関係を担っている事務所とギルドが圧力をかけて記事自体を掲載できないようにしたんだ」

 それは、Sランクの探索者(シーカー)にはよくあることで、彼らのプライベートを守るのも国防の一環と判断されるからだ。スクープを求める記者が周囲を嗅ぎまわることで、彼らのライフスタイルや精神的な健康を損ねるのは、日本の安全を脅かす反政府行為と同じだからだ。


 しかし、薫はそのあたりのケアをしていなかった。そもそも、あまり彼は探索者(シーカー)として露出していない。隠してこそいないが、Sランクというのも実はギルドの名簿に載せていないのだ。

「そこは、俺のミスだよ」

 と薫は笑っていたが、彼は元々一般人で、そういった慣例を知らなくても当然だった。後藤が酷く落ち込んでいた。そこはギルドがしっかりと気を配るべきだった。


「私の記事が掲載できないとなって、半ば腹いせみたいに薫さんの記事が載ることになったんだ。そこへあの原稿を持ち込まれた」

 おそらくタイミングとして最悪だったのだろう。雑誌はギルドが止める間もなく販売されてしまった。

「本当にごめん」

 桜子が項垂れている姿は忍びない。よくよく聞いてみても何一つ彼女の過失はない。


「桜子さん、薫は弁護士を続けられるかな」

 秋人がもっとも恐れるのはそれだ。彼女は俯いたままである。

「薫さんは五分五分だって言ってた」

「そんな…」

 強気な薫がそう言うのなら本当はもっと分が悪いだろう。

「代理人は続けられるから心配いらないって言ってたけど…」

 桜子が薫の伝言を秋人に伝えるも、秋人は大きく頭を振った。そういう事ではない。

「薫は最高の弁護士だよ。たった一人でうんと努力してなったのに、こんな出鱈目な記事の所為でひどいよ」

 秋人の声が怒りのあまり震えた。


 実は秋人もちょっとだけ弁護士に興味があった。薫と金子の関係が羨ましかったのだ。もしも、自分が弁護士になれば薫の力になれるだろうかと夢想したのである。

 なので、こっそり主のいない部屋の法律書などを読んでみたのだ。


 結果、秋人は己にこれほど向いていない職業はないだろうと痛感した。

 読むだけ、覚えるだけなら秋人は楽勝だ。でも、これを応用して誰かの為に利用するとなると話は別だ。

 秋人が一番苦手とする、人の気持ちを汲むこと、特に悪意、恨み、哀しみなどの負の感情を敵味方双方を読み切らなければならない。そうして、クライアントの為に知恵と弁論を武器に戦うのだ。とてもじゃないけど秋人には無理だと思った。


 とても悲しかったが、智輝にちょっとだけ「弁護士になりたいかも」と話した時の、彼のあの微妙そうな反応を思い出すたびに腹が立つが、彼の判断は妥当だったなとしみじみ思う。

 秋人は感覚の人だ。それは自分でもよく分かっている。

 薫のようには自分は出来ない。


「僕は、何もできないのかな…」

 秋人は力なく俯いた。体が冷えて凍えそうだった。けれども、そんな彼の肩をぐっと掴み目の前の人は泣くことを許さなかった。

「いいや、秋人…私は諦めない。最大限にアークエンジェルの霧崎桜子の名前を使う。」

「え?」

「康子もみんなもいいよって言ってくれた」

 俯いて反省している時間は終わりだ。桜子は戦士だ。敗北を黙って受け入れたりはしない。

「君も使えるものは全部使え。幸い、薫さんはまだ病院に缶詰で、この事務所には薫さんが頼りにするような弁護士の先生がいる」

 秋人が顔をあげると、そこにはぎらぎらと燃え上がる瞳をした剣士が立っていた。


「君は誰だ?」

「如月秋人…ぼくは3S探索者(シーカー)だ」

「そうだ」

 秋人の体に熱が戻ってくるような気がした。

「君が血反吐を吐いて成し遂げたものへの報酬を、今徴収する時だ」

 ニコリと彼の師匠が悪い顔で微笑んだ。

 秋人は大きく頷くのだった。



 まさか自分が記者会見などというたいそうな代物を開催する羽目になるとは、夢にも思っていなかった。

 薫は微妙な気持ちで会議室にセットされた会見用の机や椅子をぼんやりと眺めた。なんだかやたらと椅子が多いなと思った。

 業務として、謝罪会見などにアドバイスをしたことはある。会見を開いた依頼人の横に座って記者を撃退したこともあるが、自分が真ん中に座るというのはなかなかに奇特な経験だ。


「金子のやつ、遅いな」

 自分から弁護士を買って出たくせに遅刻とは。薫が深くため息をつく。


 桜子には五分五分と言ったが実際はもう少し分が悪い。7対3というあたりだろうか。

 まあ、しばらく法廷に立てないかもしれないが、事実無根なので弾劾されたりはしないだろう。自分を慕ってくれている依頼人が担当を変更したいと言い出すことは殆どないかもしれないが、自分の所為で公判が不利になったり、印象が悪くなるのは流石に気が引ける。

「はあ」

 秋人がいなくて良かったと薫は思った。おそらく、かなり論われるだろう。

 そもそも探索者(シーカー)、特に高位の探索者(シーカー)の記事が掲載できないというのは週刊誌などのスクープを狙うフリージャーナリストなどというたいそうな名前のついたハイエナどもには、以前から不満だったのだ。


「スケープゴートだな」

 おそらく記者の中には薫が探索者(シーカー)であることを知っている者もいるだろう。ツラのいいいけ好かない野郎を集団でリンチにしたい気分なのかもしれない。


 入院生活でしばらくラフな格好ばかりしていた所為か、やけにネクタイが息苦しかった。

記者A「だいたいこいつ、このツラで弁護士様とかどういうこと」

記者B「頭良くて金持ってて女にモテまくってるとか何様」

記者C「おまけに探索者まで片手間にやってるとかどんだけ世の中舐めてるわけ?」

ベテラン記者D「最近の若いのはほんのちょっとWebで調べただけで、タレコミの裏も取らない、正式な情報も調べない、足で稼がない」

ベテラン記者E「いやあ、やらかすねぇ。俺は怖くてよーやらんわ」

ベテラン記者D「別に真面目に隠してる訳でもないから、ちゃんと調べたらわかる。あの先生は絶対に触っちゃいかん男だ」

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