7. 結婚の条件
病室では薫がPCに向かって何か難しい顔をしていた。Web会議で何やら打ち合わせをしているらしい。
「分かりました。では後程」
チラリと入ってきた秋人を見て、先方との会議を打ち切った。
「ごめん、邪魔だった?」
秋人が言うも薫は首を振る。
「いや、もう終わりだったし。雑談してただけだから」
と薫が笑った。顔色がずいぶんよくなったなと秋人は思った。毎日朝晩会ってると気が付かなかった。その事を指摘すると薫は苦笑を浮かべた。どうやら当夜にも言われたらしい。
「今日はどうしたんだ?ずいぶん早かったじゃないか」
「うん、あのね…」
薫にクラスの皆が計画してくれたことを秋人は早く話したかったのだ。絶対に薫は喜んでくれると確信があった。そして、それは間違いなかった。薫はその話を聞き終えると
「よかったな」
と最高の笑顔で言ってくれた。
それから、お茶を飲みつつ、さきほどの受付であったことを秋人が話すと薫はうんうんと大きく頷いた。
「あー、それは女の子たちの目が高いな」
薫はさもありなんと頷く。
「俺が女でも、俺より当夜がいい。まあ、現在アルバイトなとこはマイナス要因だけど、あいつ探索者だしな。結婚考えるなら俺じゃなくて当夜でしょう」
と、さも当たり前のように言うので、秋人は衝撃を受けた。
そりゃあ、当夜はいい男だ。人当たりもよく、優しくて気が利く。育ちの良さは隠せないので、品もある。さらに、本人は自分のことをフツメンだとよく嘆いているが、それは大きな勘違いだ。
周りに秋人、薫、聖夜などの頭おかしいレベルの顔面偏差値の男がいるから目立ってないだけで、実はちゃんとハンサムである。体格がよくて男っぽい見た目なので前述の三人とは違うというだけで、人の好み次第というところだ。当夜の方がいいという女性もいるだろう。
ちなみに兄の聖夜は朽木家の中でも一番の美形で、あのジョブにも関わらず見合いの申し込みが引きを切らなくて、両親を困惑させているのは別の話である。
それでも、秋人の中では薫より当夜がいいという判断は納得がいかなかった。
「そういうもの?」
「そういうものだよ。俺なんか結婚相手どころか彼氏からも除外だよ」
自虐的な薫の言葉に秋人が衝撃を受ける。結婚相手どころか彼氏でもダメとはどういうことだろうか。秋人なら絶対に薫がいい。
「なんで?薫は優しいし、強いし、綺麗だし、頭もいいし、かっこいいし、料理も上手だし、弁護士だし、お金だってもってるのに!?」
秋人の薫評がかなり高いので、薫は苦笑を浮かべる。しかし、少年には現実を知るいい機会だと薫は思った。
「まず、秋人は勘違いをしている」
「?」
薫の言葉に秋人は無言で先を促した。
「たいがいの女性は自分より容姿のよい伴侶は好まない。不細工は論外だが、ある程度でいいと思っている。結婚式で隣いる男の方に視線が集中するなんて言語道断だ。さらに結婚相手なら安定が第一だから、女だけじゃなくて男にまで言い寄られるような相手は最悪だ」
「そうかなぁ」
秋人は納得がいかない。そんなの自分の心持一つではないか。
「それから、弁護士ってのもある程度ステータスだけど、それは大手の法律事務所に所属していればの話で、うちみたいに金にならない案件が半分以上のところはお話にならない」
「えええ」
秋人は加藤法律事務所のメンバーを気に入ってるので驚いた。加藤法律事務所は現在でこそ収支がまともだが、それは秋人の代理人としての利益が大きいからである。それまでは、薫は今の3倍くらいの案件をこなして、利益を出していた。
「家事能力が高いってのも、一定数の女性からしたらハードル高そうだし、まあ評価軸は金くらいだろうな。でも俺金遣い荒いからな」
薫の家事能力が高ければ、共働きするのにもってこいだし、金遣いが荒いのは主にエリクサーと美味しいポーションと魔力回復薬の所為であって贅沢品を好むわけではないのに。
「おまけにこんな入院するような中途半端な魔法師だし。結婚相手としてはデメリットしかないんじゃないか」
自虐的に薫が笑う。しかし、秋人は絶対に納得がいかない。
「僕はそう思わないよ。だいたい、そんな風に思う人は薫に相応しくないから僕は認めないよ」
ぷんすこ怒る秋人に薫は笑って秋人の頭をぽんぽんと叩いた。
「そうだな。じゃあ、秋人が納得できるような彼女ができるように祈っててくれ」
「うん」
薫の軽口に秋人は頷いたが、脳裏に桜子の姿が浮かんだ。
桜子は薫が変な連中に絡まれるからといって嫌がったりはしないだろうし、むしろ排除してくれるに違いない。
薫の容姿にしたってさほど拘らないはずだ。何しろ彼女自身もかなりの美人だし、自信に満ち溢れていてカッコいい。
貧乏弁護士だって別に気にしないだろう。彼女は稼ぎでいうと日本で一番のSランク探索者だ。薫の収入がたとえ0でも問題ないだろう。
家事能力については、この前の衣装の時には憤慨していたが、あれは自分たちのミスだ。薫の料理もいつも美味しいと食べているし、別にやりすぎとか怒ったりしない。できることはする、できないことはしないでいいと思っている。
それに、審議官としての薫のことを有能だとちゃんと実力を認めてくれている。
それに、秋人が薫の傍にいても、嫌な顔したりはしないだろう。そして、あの夜彼女が薫のことを好ましく思っていることはもう教えてもらっている。
「あれ、もしかしてすごく完璧なのでは?」
「何が?」
思わず出た言葉に薫が反応したので、秋人は慌てて「なんでもない」と笑って誤魔化した。
秋人の中で霧崎桜子の重要度が一段上がった瞬間だった。
弁護士A「入院大変だねぇ、年末の忘年会の幹事どうする?」
薫「あ、やります。入院は3週間なんで」
弁護士A「いや、無理しなくてもいいよ。君、色々忙しいだろうし」
薫「いえ、大丈夫です。やります!!お店は私は手配しますので!」
弁護士A「神崎先生が店選択すると、女の子のいない店になっちゃうからなぁ」
薫「ホステスさんとかキャバ嬢系の変態さんは金持っててシンパが多い分扱いが大変なんですよ」




