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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第九章 代理人、パパラッチされる

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6. 約束

 昼休み、秋人が学食へ行くと言うと智輝が大きく目を見開いた。

「学食ってなんで?いつもの弁当は?」

「うん、実は薫がちょっと入院してるんだ」

 智輝は薫に会ったことがあるので、いつもの弁当は薫が作っていることを知っている。


「えっ、事故か何かか?」

「過労から少し体調崩して、入院加療中」

 智輝の表情が曇る。

「そりゃあ、なんというか…大変だな。じゃあ、お前今は結構忙しい感じ?」

「そうだね。学校の帰りに病院寄ったり、休みの日はお見舞いに行ったりするよ」

「そっかーじゃあ、ちょっと日程変更だなぁ」

 秋人の話を聞いて智輝がうーんと唸る。


「実は、文化祭でのクラスの出し物の利益がまあまあ出たんだよ。そんで、みんなで遊びに行こうかって話が出てるんだ。今月の土日祝のどこかで行こうぜって言ってたんだが」

 智輝の言葉に秋人は少し考える。残念だが、薫のことが最優先だ。

「そっかぁ、じゃあ仕方ないな。みんなで行ってきてよ」

「お前ね…」

 秋人の返事に智輝はがっくりと肩を落とした。


「違うの、お前が行かないと意味がないの」

 智輝の言葉に秋人は首を傾げた。

「お前が遊園地…ほらデステニーワールドとか行ったことないって言うから、みんなで行こうって決めたんだよ。だからお前が行かないと意味がないの」

「え?」

 思わず聞き返す。クラスの皆は智輝の言葉にうんうんと頷いている。


「利益の大概はお前の頑張りで稼ぎ出したんだから、お前が行ける日程にするんだよ。でも、あれだな。そこまで引っ張るならもう冬休みにした方がいいか」

「期末テストに重なってくるもんね」

「まあ、その方が日程決めやすいか」

 他のクラスメイトたちがカレンダーアプリを見ながらああでもない、こうでもないと騒ぎだす。

 クラスの皆と一緒に作り上げたお化け屋敷。それは、秋人に薫や当夜、美術部以外の沢山の人とのつながりを教えてくれた。


「あ、あの、みんな…ありがとう」

 だから、秋人は間違えることなく言葉を選べた。全員、秋人の礼を聞いて、とても嬉しそうな顔で頷いた。



 放課後、秋人は急いで家路についた。早くこのことを薫に話したかったのだ。今日に限って学校から直接ではなく、一端家に荷物を取りに帰ってから病院へ向かう予定にしていたのがもどかしかった。


 秋人が大慌てで帰宅すると、自宅のエレベーター前に一人の見慣れない男が立っていた。秋人は警戒心を上げた。

「君、秋人くんかな?」

 男は40歳くらいの中年で、汚いジャンパーを着ていた。

「どちら様でしょう?」

 秋人は当初例の向田かと警戒したのだが、どうやら違うらしい。


「私、こういう者です」

 男は名刺を差し出した。

「雑誌の記者さんが僕に何の用事ですか?」

 秋人が名刺を見て尋ねると、男はニヤリと笑った。

「いや、君の保護者について少しお話を伺いたくてね。話してくれたら、少しくらいならお礼をするよ」

「いえ、結構です」

 秋人が金額を聞く前に断るとは思っていなかったらしい。男は慌てた。

「ほら1万円あげるよ。好きなゲームとか買ってあげてもいいよ」

「いえ、まったく興味ありませんので、結構です」

 秋人が再度断ると、男は若干機嫌を損ねたようだった。


「子供が生意気言うんじゃない。少し喋れば1万円だぞ。簡単な小遣い稼ぎみたいなもんだろう」

 秋人は深々とため息をついた。

「そんなもので薫を売れっていう方が頭おかしいよ、おじさん」

 秋人の言葉を聞いた瞬間、男は昏倒した。



「おいおい。どうしたんだ、それは」

 秋人の足元に崩れ落ちた男を見て、桜子は眉を寄せた。秋人が首筋に手刀を叩き込んだのをしっかり見たのだ。

「なんか、薫のこと嗅ぎまわっているみたいだから、とりあえず捕まえて尋問しようかなって」

「恐ろしい事を言うなよ。一般人だぞ」

 桜子がため息をつく。彼女の一番弟子は存外気が短く喧嘩っぱやい。だいたいどこに連れて行く気なのか…という思いを込めて秋人を見るも、彼女の弟子は目を合わせない。どうする気だったのか教える気はなさそうだ。


「今日は早く薫のとこに行きたかったのに」

「お見舞いか…それじゃ、これは私が適当に外に捨てておくよ」

「やった!ありがとう!師匠」

 笑顔でエレベーターに乗り込む弟子に、桜子は肩を竦めた。


「週刊誌か…そろそろ来るかなって思ってたんだよね…」

 霧崎桜子が男と一緒に暮らしているというスクープをどこからか嗅ぎつけたのだろう。桜子は獰猛な笑顔で男をつまみ上げた。



 秋人が病院に着くと、ちょうど当夜と入れ替わりになった。病院では護衛は不要とのことだったが、色々と薫に用事を言いつけられるらしい。もはや護衛というより助手である。秋人はそれがちょっと羨ましいのだけれども。


「あっくんも先生の見舞いか?」

「うん。着替え持ってきた。当夜は?」

「ああ、なんか辞書持って来いって言われたんだよ。Web辞書じゃなくて、なんか前から使ってる奴にメモが色々してあるからそっちがいいって」

 当夜が苦笑しながら説明する。


 そのまま二人が別れ、秋人が受付で薫の面会にきたことを告げると、若い受付の女性が声を潜めた。

「あの、神崎さんのお見舞いですよね?」

 そう声を掛けられたので、少し警戒しつつ頷くと、彼女は酷く真剣な顔で言い出した。


「あの、さっき神崎さんのお見舞いにきてた若い男性の方って何してる人ですか?彼女いたりします?」

「ん?」

 当夜の事を聞かれて秋人は少し驚いた。薫のことを聞かれるのかと思ったが違うらしい。

「えっと、なんで?」

 いきなり個人情報を教えるのはどうかと…と思って秋人が躊躇っていると、その横にいた女性が参戦してくる。

「あ、ずるい!私も狙ってたのに」

「ちょっと、邪魔しないでよ。せっかく聞いてるんだから」

「こら、患者さんのご家族に迷惑かけないの」

 年輩の先輩に叱られて二人は首を竦めた。

「ごめんなさいね。彼、すごくかっこよくて愛想がよくて優しくていい人だから、みんなすっかり気に入っちゃってるのよ」

 秋人が驚いているので、女性は苦笑する。

「薫のこと聞かれるかと思いました」

 と秋人が素直に言うと、女性陣は大きく首を振った。

「あの人は、ちょっと別格っていうか、結婚相手にするには難しすぎる」

「眺めてるだけで十分。私たちの年齢だと彼氏イコール結婚相手なのよ。美形に夢見る時代は終わってるみたいな?」

 若い二人の受付嬢の言い分に秋人はどう反応していいか分からず、困惑の笑顔を浮かべていた。

「ほら、困らせない。聞きたかったら自分で聞きなさい」

 先輩の言葉に「はあい」と二人はしぶしぶ頷く。秋人は首を捻りながら薫の病室へ向かった。

受付嬢A「いやあ、目の保養だねぇ、あの子」

受付嬢B「兄弟とか親戚ではなさそうだよね」

主任「詮索しない!」

受付嬢A・B「はーい」

主任「(あの子が如月秋人だって知ったらぶっ飛ぶだろうなぁ)」

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