1. 看病
第九章始まりです。章タイトルをご覧の通り、薫不遇回です。(いつもじゃん)
薫が目を覚ましたのは月曜の昼前だった。
「あれ?何時だ?」
いつもなら鳴るはずのアラームが鳴らないことで、やたらとぐっすり寝てしまったらしい。ベッドサイドに置いてある目覚まし時計は11時を指している。
「まずい、遅刻だ」
慌てて薫が体を起こそうとするも、びくともしなかった。
「え?」
もそもそと体の位置を変えると、秋人がものすごく不自然な形で薫のベッドの横に座りながら寝ていて、しっかり薫の胴体をホールドしていた。
「秋人?」
小さく呼びかけると、秋人が何度か瞬きして目を覚ました。
「おはよう、薫。具合はどう?」
「だいぶいいよ。その…起きたいんだが」
「ダメ」
「いや、仕事に行かないと」
「今日はお休みするって楠本さんに連絡した」
秋人はどうやら薫を起こすつもりはないらしい。3S探索者に全力で捕まえられると、非力な弁護士では逃げようがないのだ。
「分かったよ。ちゃんと寝てます。」
渋々枕に頭を戻すと、秋人はにこりと笑った。
「お腹空いてない?朝ごはん食べられる?」
と矢継ぎ早に尋ねる秋人に苦笑する。
「少し空いたかな」
薫の返答に秋人の顔がぱっと輝いた。
「僕、ご飯作ってくる」
秋人が椅子から立ち上がる。しかし、
「ちゃんと、寝てなくちゃだめだからね」
と念押しは忘れなかった。どうやら、携帯も手の届かないところに置かれているようで、辺りを見回しても見当たらなかった。薫は小さくため息を零した。今日はもう仕事はさせてもらえないらしい。
昨日薫の不調を知らせなかったことについては、当夜か或いは桜子がフォローしてくれたようで、想定より秋人の機嫌は良い。ただし、今日は一日秋人の世話になるしかなさそうだなと薫は腹を括った。
「お待たせ」
15分くらい経ってから秋人がトレイに色々載せてやってきた。
「えっとね、パン粥のはちみつ入りとホットミルクとすりおろしリンゴだよ」
「秋人が作ったのか?」
「うん。師匠に教えてもらった」
そう答える姿がどこか微笑ましい。しかし師匠とは?と薫が疑問に思ったが、秋人には説明する気がないらしい。諦めて
「じゃあ、いただこうかな」
と薫が笑うと秋人は嬉しそうに頷いた。
甘いものはあまり得意ではなかった薫も、最近ではかなり甘党に寄ってきている。探索者の特に魔力の高いものは糖分補給が欠かせないという通説は本当らしい。
「美味いよ」
甘めのパン粥は初めて食べたが優しい味だった。最初秋人はスプーンで掬って薫に食べさせようとしたが、流石にそれは勘弁してもらった。薫がそろそろ食べ終わる頃に、秋人がかいがいしく薬やら水やらを運んできた。
「食べたら薬飲んでね。熱測るよ。その後着替えようね」
「分かった分かった」
秋人に変なスイッチが入ってるなぁと薫は思いつつ、彼の好きなようにさせることにした。
薫は秋人が持ってきてくれた替えのパジャマに着替えながら、昨日のことを尋ねた。
「昨日はどうだった?後夜祭とか楽しかっただろ?」
薫の言葉に秋人は頷く。
「あんなに一生懸命作ったのに、燃やすとあっという間だったよ」
「燃やしていいのか?」
色々と現代は焚火一つでも煩いご時世だ。
「なんか、学園出身の探索者がきた。火炎魔法で火をつけるのはいいんだって。変なガスとかでないから」
「火炎魔法なら秋人も使えるのにな」
「あんまり得意じゃないけどね」
秋人はどちらかというと水や氷の方が得意だ。
「だからアイスドラゴン相手だと魔法剣があんまり効かなくて、最初の時はすごく大変だった」
「どうやって倒したんだ?」
薫の脳裏には支配の指輪で強化されたアイスドラゴンが思い浮かぶ。もちろん、それよりは弱かっただろうが、それでも幼い秋人にとっては大変な獲物だっただろうに。
「丁度ドロップした大剣を拾ってたからそれで脳天かち割ったんだよ。でもあの剣はこの前薫の雷でかなり痛んじゃったから、鍛冶師さんに預けてる」
「あー、そっかぁ。あれな。ていうか、魔法剣以外も使わないといけない場合があるから、もうちょっといいの作らないとな」
「うーん…めんどくさい」
「桜子さんに聞いてみよう。いい人紹介してもらえるかもしれないし」
秋人のボヤキを無視して薫は桜子が来たら教えてもらうことにした。
「そういえば、桜子さんは?」
「今日は単発の仕事だって」
「そうか…礼もまだしてないんだがな」
薫は一瞬彼女の腕の中で気を緩めてしまった事を思い出す。
何という醜態。思わず恥ずかしくなって俯いた。
そんな薫の様子を見て秋人は「ふうん」と何やら納得するような様子で頷いていた。
一通りの世話焼きが終わった後、秋人は薫の横に座ってじっとしている。
「別にずっと傍に居なくても大丈夫だぞ。秋人も少し自分の部屋で寝てきたら?」
薫の言葉に秋人は無言で首を振る。
「昨日の夜から変な姿勢で寝てただろ。」
「平気だよ。ダンジョンでは座ったまま寝てたことなんてざらだったし」
さらりと言われた言葉に薫の機嫌が一段下がった。赤城をぼこぼこにしてやりたい気持ちが溢れてきたが、奴はもうこの世にいないので叶わない。
「じゃあ、ここで寝なさい」
薫が自分の横をぽんぽんと手で叩いた。
「え?」
秋人が目を丸くする。
「俺のベッドはダブルだから二人寝られる。別に風邪じゃないから伝染さないしな」
との薫の言葉に一瞬ためらったが、秋人は
「じゃあ、ちょっとだけ」
と頷いた。
薫の横にもぐりこんだ秋人は
「どうしてこうなった??」
と悩んでいたが、そのうち互いの体温でぬくもったせいかウトウトと寝入ってしまった。
昼になって様子を見に来た当夜が薫の部屋に入ると、二人で仲良く眠っている姿を発見した。
「何やってんだか」
とため息をつき、苦笑をこぼしつつ二人に布団を掛けなおした。
薫「秋人の師匠って誰か知ってる?」
当夜「桜子さん」
薫「ううう、やっぱ剣士は剣士の弟子になるのかー」
当夜「(先生は師匠っていうよりおかん…)」
というわけで、第九章はほのぼの幕開けです。そろそろ150話記念を準備しなくてはなりません。ファイトです。




