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3S探索者の代理人  作者: かんだ
第九章 代理人、パパラッチされる

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2. 魔力回路

 翌日には完全復活を果たした薫は、事務所で溜まった仕事をやっつけていた。その隣には秋人が座っている。今日も振替休日なのだがやることがないのだ。


「工藤さんか智輝くんに連絡とって遊びに行けばいいのに。平日に遊びに行けるの貴重だぞ」

 と薫に言われ秋人はうーんと考えてみた。

「そうだなぁ…」

 でも、秋人は何か忘れている気がして首を傾げた。何か大事なことだった気がするのだが。


 そうこうしているうちに桜子が事務所へ顔を出した。薫の様子が気になったらしい。結局昨日はすれ違いで顔を合わせられなかったのだ。

「薫さん、元気になってよかった」

「秋人がすごく世話してくれたからね」

 薫が苦笑を零した。しかし、桜子は腰に手を当てて説教モードに入った。



「二人そろってるならちょうどいい。あなた方はちょっと魔力の使い方と己の身体能力への過信が激しい。こんなことを続けていてはすぐに健康上のトラブルを引き起こすぞ」

 ひえっと薫と秋人が首を竦める。


 片や10歳から自己流で毎日討伐に明け暮れていた少年と、片や1日でAランクになってしまった素人の組み合わせは、探索者(シーカー)としてのセオリーとは程遠い習慣を形成してしまっているのである。二人とも長年一人での生活をしていた故の効率重視な考え方に加え、異様に資産が潤沢なのも問題を悪化させた原因だ。


「とにかく、二人とも魔力回路のお医者様に行くことと、秋人はもうちょっとまともな装備を揃えなさい」

 と説教されてしまったのである。しかもその場で魔力回路の医者の予約まで取らされた。



 その腕が良いと有名な魔力回路の医師を土曜日の午前中に予約できたのは、桜子の顔が効いたからだ。それが分かっていたので、薫も秋人も大人しく彼女に従った。ついでに、当夜もとばっちりを受けて連行されている。

「俺はいいっすよ。そこの二人みたいな無茶はやってないですから」

 と言ったが、念のためということで問答無用だった。


 診療所のようなこじんまりとした建物に着くと、秋人と薫はもの物珍しいのかきょろきょろと見回していた。

「すいません。10時に予約してる霧崎です」

 と受付で桜子が告げると顔見知りなのだろう受付の女性が、にこやかにすぐに診察室へ通してくれた。



「お久しぶりです。先生」

 桜子の挨拶に好々爺の顔で老医師は頷く。

「そちらの方々は初めましてだの。古藤 仁。魔力回路専門医をかれこれ30年やっておる」

 医師は70歳代くらいの、痩躯に白衣を着こみ、頭髪は真っ白で目元の笑い皺が印象的だった。

「まずは桜子さんを診ようかね」

 彼の指示にしたがって桜子が医師の前に置いてある椅子に座った。彼女の額に古藤医師の指が当てられる。


「ふむ…少し前に結構な無茶をしたね?」

「えっと…」

 支配の指輪の時の件だろうと薫と秋人は思った。

「大質量の攻撃をさばいたね。何度も。」

 医師の言葉に薫がはっとして桜子の顔を見つめた。彼女は視線を合わせない。

 支配の指輪の時ではない。先日の巨福呂坂ダンジョンでの白龍の攻撃だ。彼女は薫を守るために何度も白龍の攻撃を防いでくれた。

「リサは有能な回復魔法師だが、魔力回路は専門外だ。今度からきちんと治療にこないといかんよ」

 医師の指摘に藪蛇だったと桜子は頷くしかなかった。


「さて、次はそっちのおっきい人にしようかな」

 指定された当夜はおそるおそる椅子に座る。医師は額に指をあててじっと目を閉じた。

「うん…少し乱れているがほとんど問題なし。綺麗な魔力回路だ」

 老医師の言葉に当夜は胸を撫でおろした。先日の秋人を抑えた件は大丈夫だったらしい。

「しかし、少々修行をさぼっておった間のブランクが気になるのう。マメに魔力を自分に通すことを心掛けるように」

 という医師のアドバイスに大きく頷いた。


「さて、それじゃつぎはそっちの坊にしようか」

 坊呼びは不本意だったようで、秋人の眉間に深い縦皺が寄る。

「ははは、すまんすまん。坊の年頃にはちーっとばっかりデリケートな問題じゃったな」

 老医師は苦笑を浮かべるも変えるつもりはないらしい。秋人は諦めて医師の前に座った。


 しかし、椅子に座った秋人の額に指を少しあてた瞬間、飛びのいた。

「こりゃあ、桜子さん。誰を連れてきた」

 老医師の言葉に彼女はひとこと

「如月秋人」

 と答えた。


「なるほどな…」

 医師は深々とため息をつく。

「相変わらずお前さんは人を驚かす天才だのう。まさか如月秋人がこんなちんまい少年だったとは意外や意外」

「ちんまい少年…」

 秋人がショックを受けている間に医師は座りなおした。

「奈落の底に落ちるような量の魔力じゃな。すまんすまん。少しばっかり驚いた」

 医師は気合を入れて、再度秋人の額に指を添える。ただし、さきほどは2本だったところ、今回は4本だ。


「ふむ…だいぶ痛んでおるの。酷使したね?」

「いつもこんなもんなので、普通が分かりません」

 と秋人が告げると古藤は深々とため息をついた。

「坊がその年で如月秋人ならそりゃそうだろうの。だが、習慣は変えた方がええ。桜子さんに習って回復の仕方を覚えなさい。」

 そう言いながら、彼の手から柔らかい波動が流れた。温かい優しい魔力だった。


「体が軽い」

 秋人がボソリと呟く。

「うむ。酷く荒れてた部分を少し修復した。だが、坊はかなりの魔力の持ち主だし、回路も複雑だからの。来週も来なさい。」

 秋人は黙って頷いた。



 さて、最後の一人である。絶対にまずいと言われることが分かっているので、薫はあまり気が進まない。薫は熱がありそうだと思っても数字で見るとメンタル的に高熱に引っ張られるのが嫌で熱を測らないというダメなタイプの判断をする男である。

 だが、それを許される空気感ではない。そもそも、桜子が今日一番ここへ連れてきたかったのは、薫だろう。


「お手柔らかに」

 薫が椅子に座ると老医師は感心したように頷いた。

「いやあ、診る前からここまで荒れ果てている人を見るのは初めてだ。お前さんどうやって生きとるんだね」

「ははは」

 薫は乾いた笑いを浮かべる。背後の三人からの負のオーラが恐ろしい。

「どれどれ」

 医師は今度も指を四本添える。そして3分ほどそのまま動かなかった。


 ほどなくして、指が薫の額から離れると、医師は無情に告げた。

「入院じゃな」

 がっくりと薫は肩を落とした。

薫「熱とか40度とか見ると、わっ俺病人って気持ちになるから計らない」

当夜「あ、なんかわかるー」

桜子「秋人、あれは真似したらダメなやつだからな」

秋人「はい」


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