三百七話「能力階級社会」
本日のクエスト。
役所からの書類をガヴァ町内の色んな場所に配達するというものだ。
「期限は今日中ですので、そこまで急がなくても大丈夫ですね」
メオが確認する。
「そうか! なら早速買い物に――」
「もちろん遊んでばかりもいられませんが。大体、お金を貯めようとしているのに浪費してどうするんですか」
「い、いたっ、もちろん冗談じゃぞ、メオ。……いたたたっ、だからその手は離してください、お願いします」
駆けだそうとしたレリィをアイアンクローで止めるメオ。
そうして四人は各所を回っていく。彰と由菜は異世界に来てからずっとせわしなく、こうしてゆったりした時間は無かったのでありがたいことだった。
「ちょっとした観光みたいで楽しいわね」
「そうだな」
町を回って改めて彰は感じた。
科学によって発展してきた元の世界と違って、この世界は能力を基盤に発展してきたのだと。
推察するところ、この世界の科学力は低い。おそらく産業革命以前くらいのレベルだろう。
それでも能力のおかげで近代レベルの生活を成立させている。
「………………」
元の世界を知っているからこそ……いやおそらく関係なしにこの世界は歪だろう。
誰にとっても平等な科学と違って、能力、個々人の才能によって分かれるものを頼りに世界が出来ているのだから。
小学生、スポーツの才能によってヒエラルキーが決まる世界において、運動音痴は割を食い続ける。
能力を持たない者、持っていても役に立たない能力だったりする者にとって、この世界はかなりの地獄なんじゃないか?
「そう考えると……あの荒くれ者たちは…………」
「最後の配達地は……教会ですか」
メオが確認する。
「教会って……んーでもキリスト教とかこの世界にあると思えないし……」
由菜がぼそぼそ呟くのには彰も同意見だった。
「何の教会なんですか?」
なので彰は聞く。
「地図には書いておらんな。この辺りの地域だと……はて、何の能力じゃったか?」
レリィの答えには疑問符だ。
何の能力……? 何の宗教、じゃなくてか? どういう意味だ?
少しして町外れのうら寂れた教会にたどり着いたところで彰の疑問は解消される。
というのも教会の看板にはこう書かれていたからだ。
『風使い教』と。
「風使い……だと!?」
彰の持つ『風の錬金術』の本来の名前だ。
「書類を投函して……それにしてもちょうど良かったではないか。祈っていけばどうじゃ?」
「へえ、面白そうね。私も祈っていいものなの?」
「もちろんです。その能力者だけでなく、関わる者も救ってくれますから」
彰が衝撃を受けている間に残り三人は盛り上がりながら教会へと入っていく。
「いや、ちょっと……くそっ、処理しないといけない情報が多すぎるんだが……」
彰も慌てて付いていく。
「……ねえ、ちょっと中、埃っぽくない」
「掃除が行き届いておらんな」
「そもそも入り口の郵便受けにも書類が溜まってました。風使いは既に滅んだ……いえ、滅んだはずの能力。管理する人がいないのでしょう」
メオが後ろを歩く彰を振り返りじーっと眺める。
言外に『何故滅亡したはずの風使いが……?』と問いかけているが、彰はスルーした。
「………………」
藪を突いて蛇が出るのも勘弁、こっちとしても何勝手に滅亡したことにされてるんだよ、と問い返したいくらいだ。
中は変哲の無い祈りを捧げるスペースがあり、四人は少しの間黙祷を捧げて外に出た。
「祈りを捧げるのも久しぶりじゃな。最近『強化教』の教会に行けておらんかったし。彰の関係者ってことで『風使い教』で済まさせてもらうかの」
「『強化教』なんてのもあるのね」
「そうじゃぞ。Bランク以上の全ての能力には対応する宗教が存在するんじゃ」
「へえ。無能力者の宗教は無いの?」
「無いな。じゃが由菜は彰の関係者だし、『風使い教』で祈っても十分恩恵はあるはずじゃ」
由菜とレリィの会話。
「能力ごとに分類された宗教か……」
彰は考察を広げていく。
この世界において能力は重要だ。おそらく能力者ごとに結束していたものが宗教として発展したのかもしれない。
その関係者にまで恩恵はある一方で、宗教の対象はBランク以上の能力のみ。Cランク、一般能力者、無能力者を救う宗教は存在しないようだ。
宗教でさえ才能ある者に従属しなければならない。
以前に聞いたが、この世界には貴族とやら身分もあってBランクの能力が無いといけない特権階級もあるんだったか。
能力を中心に作られた徹底的な階級社会。
その下層とされた者たちに……不満が溜まっていないはずが無い。
「あんたたち、気をつけた方が良いよ」
道すがら、老婆に話しかけられる。
「さっき『反逆者』の集団を見かけたからねえ。関わり合いにならないように注意するんだよ」




