三百六話「一般能力者」
翌朝。彰たちの姿は宿屋の食堂にあった。
「ちょっと早くないか……ねむいぞ」
レリィがあくびをしている。
「私は慣れてきたかな」
「だな。十分に寝れたな」
異世界に来て特に娯楽もなく、教科書もないため勉強のしようが無い。夜更かしする理由が無く早めに寝た結果、早起きにも特に苦に感じていない。
「私もこれくらい普通ですので……レリィお嬢様だけですね」
メオさんもイメージに違わず早起きのようだ。
「妾は疲れてるんじゃ……」
ぐでーと机に伏しているレリィ。
「今日もクエストをこなすつもりだったけど……レリィだけ留守番ってわけには……いかないですかね、メオさん」
「万一を考えるとレリィお嬢様一人にするのは難しいですね。私が側に付いていないと」
「レリィとメオさんどちらもいないと私と彰だけじゃ勝手が分からないときがありますし」
「やっぱり四人で行動するのが一番ですか」
「大丈夫です。レリィお嬢様はどうにか連れていきますので」
「あはは……」
右腕を構えるメオさんに由菜は苦笑するしかない。
既に注文紙は厨房の方に飛んでいった。料理が来ないかそわそわしながら見ていると、厨房の人が準備にかかっている。
鍋の前に立った人が手を掲げると火が自然と付いた。
「あれは……『発火』能力者か?」
ぽつりとこぼした呟きは。
「『発火』? 失礼ですが、それほどの能力者がこんな宿に務めてるとは思えませんが」
メオさんに聞き取られる。
「……? どういう意味ですか?」
「この宿のレベルからすると一般能力者じゃないか、ということですが……もしかして」
「えー……はい。一般能力者って何ですか?」
メオさんの「また」という顔に、彰は「また」だと認める。メオさんというか異世界基準だと彰は常識も知らないということになるわけでしょうがない。
「彰さん自身も能力者なのに……いえ、そうですね。説明しましょうか。一般能力者とはCランクのさらに下、魔力を扱うことは出来ますが名前の付くほどの能力も持っていない者たちのことです」
「Cランクの下……魔力を扱うことは出来る……」
「彰さんは魔力を『風使い』の能力としてしか使えないですよね。ですが一般能力者は……ちょうどあのように」
メオさんが先ほどの料理人を見るように促す。ちょうどその人が指を振って棚から飛んで、皿が勝手に並んだのを目撃する。
「え? さっきは火を起こしていたのに、今度は物を動かしたぞ?」
『発火』能力なら出来ない芸当のはずだ。
「一般能力者は大きな事象改変は出来ないですが、火を起こす、物を動かす程度の単純なことは出来ます。ただ能力を介さない関係で魔力の消費が大きいのですが」
「そうなのか」
「あとは一般能力者は魔力ラインを持っているので『複製移譲』で能力を増やすことは出来ますね。能力を持たない者はそもそも無理ですので」
『複製移譲』。聞き覚えがある。
異能力者隠蔽機関のハミルが持つ能力だ。彰自身もこの前『言葉』の能力を付与してもらった。
やはり隠蔽機関もこの異世界に関わったことはあるようだ。
「…………」
目先のクエストだけじゃ無く、この異世界に関わる謎も解明していきたいところだが……。
「ところで今日のクエストは何をするつもりなんじゃ?」
メオが口を開く。
「それなら昨日の内にめぼしいものは見繕ってあります。今日はガヴァの町で配達のクエストです」




