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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
十三章 異世界序幕
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二百九十九話「欲望にまみれた獣の腹の中」

『そこに振ってわいた偶然が、そう! ライサワさんあなたです! 男性の『電気』能力者。あなたがいればサウス家はもっともっと続くことが出来るのです!!!

 つまり私があなたに求めるのは――娘、ニーナと結婚して子供を作って欲しい、ということですわ!!』


 突然バーナから告げられた結婚話。


「……」

 だが当人である雷沢の反応は予想済みというように落ち着いていた。


「……っ」

 隣で聞いていた恵梨の方が動揺しているくらいである。


 理由は分かる。この異世界の貴族が家を続けるためには能力の所持が絶対らしい。能力を子供に遺伝させるためには両親共に同じ能力者でないといけない。

 だからといって会ったばかりの人と結婚をするなんて恵梨の常識からすれば考えられないことだ。


 ニーナさん……娘の方はどう考えているのでしょうか?


 興奮しっぱなしのバーナから視線を隣のニーナに移すが……うつむいて黙っている。

 先ほど親に言われて渋々出てきた様子からして……親には逆らえないというところですか。

 積極的に賛成しているわけで無いことは読みとれるが、どこまで反対の気持ちを持っているのかは表情が見えず掴めない。


「どうでしょうか、ライサワさん!」

 話は次の段階、雷沢の意思の確認へと進む。


「そうですね……」

 雷沢さんは顎に手をやって考えている。


 何を悩んでいるんでしょうか?

 恵梨はその様子を訝しむ。

 いくら雷沢さんが中二病で少々ネジが外れているところがあるとはいえ、こんな話受けるはずがない。どこに悩む要素があるというのか。


 ……あ、そうでした。私たちはこうして広大な館に招かれてごちそうを振る舞われている。そうしてもてなしてもらった手前、無碍に断るのも角が立つと考えているんですね。

 だからどうやって断ろうかと言葉を探して悩んでいる。きっとそうに違いないです。


「この話を受けてもらった場合には、このサウス家当主になれるという事です。最近落ちぶれているとはいえ四大名門の一角。強大な富と権力を自由に扱うことが可能ですよ」


 悩んでいる雷沢さんの姿を見てもう一押しと思ったのか、バーナが誘惑の言葉をかける。


 確かにこの広大な土地を持つ館や多くの従者、私たちと対峙したお抱えの騎士団などサウス家にはかなりの権力基盤がある。それをそのまま引き継げるのはかなりの誘惑だ。

 しかしその権力もこの異世界におけるもの。

 元の世界に戻ると目標を立てた私たちにとっては無用の長物にしかならない。


「どうです? まあそもそもの話――」

「結論が出ました」


 バーナがさらに口を開いて何かを言い掛けたタイミングで雷沢が決断した。


 ようやく断りの言葉を考えついたんですか。ちょっと長かったですね。

 これでこの話も終わり、と考える恵梨をよそに――。




「娘さんとの結婚の話、前向きに考えさせてもらいたいと思います」

「まあ、そうですか!」




「えっ……!?」

「なっ……!?」

 了承した雷沢に対して驚きを隠せない恵梨。隣の彩香も同じようだ。


 どうして引き受けて……まさか権力に目を奪われたのですか? でしたら元の世界に戻るという目標は……それに光崎さんも……。


 言葉が出ない恵梨と彩香の二人を置いて話は進む。


「そもそも選択肢が無い話ですしね」

「……そうですか、その頭脳は貴族向きですよ」

「実際の貴族にそう言われるとはかなりの褒め言葉ですね」

「ふふっ、私のスタンスは変わりません。末永く良い関係を築けることを期待していますわ、ライサワさん」


 そうしてその食事の場は解散となった。






 所用があると書斎に戻ったバーナといつの間にかいなくなった娘のニーナ。そして私たち三人は館に勤める従者に客室へと案内される。

 どうやら二部屋用意してくれたようだ。なので部屋割りは男女分かれて、一部屋は雷沢さん、もう一部屋は恵梨と彩香で使うことに決める。


 部屋はこの屋敷にふさわしい豪華な内装となっていた。メイキングの済んだフカフカのベッドが二つ、テーブルとそれを囲むようにソファ、窓の外はバルコニーとなっていて今は夜のため見えないが中庭を望むことが出来るようだ。

 サバイバルも覚悟していた状況からすれば天国……それどころか元の世界の私の部屋よりも格段に金がかかっている。

 ただテレビや電話といった機械は存在しなかった。やはりこの異世界の工業レベルは元の世界から比べるとかなり遅れているのだろう。


 夜も更けているため後は寝るだけと客室に案内されたのだろう。しかし、恵梨と彩香にはどうしても今すぐにしないといけないことがあった。


「失礼します、雷沢さん! さっきの話どういうことですか!?」

「そうよ、話を聞かせなさいよ!!」


 もう一つの客室、雷沢の部屋を訪問する二人。


「……来たか、まあ入りたまえ」


 雷沢は二人を招き入れた。




 雷沢の部屋の内装は一人部屋のためベッドが一つになっていることくらいで、二人の部屋と変わらないようだった。客室はまだたくさんあるのに、全てがこのレベルの内装だと考えるとどれだけ金がかかるのか想像も付かない。

 三人はテーブルを囲むソファにそれぞれ座る。


「最初に恵梨君。『言葉ワード』を切ってもらえるか?」

「え、ああ……そういえばずっとかけっぱなしでしたね」


 『言葉ワード』とは言語翻訳のフィールドを作り出す恵梨の二つ目の能力だ。異世界においても言葉が通じるのはこの能力のおかげに他ならない。

 この場にいるのが日本人だけだから無駄な能力は切って欲しいということですか。

 恵梨はその言葉に従って『言葉ワード』を解く。


「それで二人は先ほどのやりとりについて聞きたいようだが……」


 魔力反応が消えたことを確認してから雷沢が話を切り出した。


「そうですよ! どうしてあの結婚話を受けたんですか!?」

「もしかして結婚した場合に得られる権力に釣られたわけ!?」

「そんなの元の世界に戻れば意味がないってことくらい分かってますよね!?」

「そ、それとも……まさかあの娘のニーナさんに一目惚れしたとか!?」

「そんな……だったら光崎さんはどうするつもりなんですか!!」


 恵梨と彩香から繰り出されるマシンガンのような質問。


「二人とも落ち着いてくれ。別に僕は権力に釣られたわけではないし、一目惚れしたわけでもないし……それに純がどうしてここで関わってくるんだ?」


 一つずつ否定する雷沢。ただいつもの鈍感さを発揮して光崎の思いについて問いただしたことはピンと来ていない。


「……? だったらどうして結婚話を前向きに考えるなんて言ったんですか?」

「そうよ、あんなの断ればいいじゃない。大体会ったばかりの人と結婚なんてあり得ないわよ」

「別に会ったばかりの人と結婚を考えるというのはおかしいところじゃないぞ。日本だって廃りつつあるがお見合いって文化があるからな。まあ叶うことなら彰君と恋愛結婚したい二人にとっては考えられないことではあろうが」

「っ……そ、そんな私と彰さんが結婚なんて……想像したことがないと言ったら嘘になりますけど…………」

「わ、私だって可能なら………………って、話が逸れてるわよ!!!」

「さっきから攻められっぱなしだったからな、少し反撃させてもらった」


 秘めたる恋心がバレている二人は雷沢と相性が悪い。


「話を戻そう。二人はどうして結婚話を断らなかったのかと言うが……逆に断ったらどうなるか考えてないのか?」

「断ったらそれで話が終わりってことじゃないんですか?」

「違う。断ったら僕たちは今頃もてなされていないということだ。そもそも僕たちがこの館に招かれた理由は僕が『電気エレクトリック』を持っているからだ。つまりニーナさんと結婚しないなら僕に価値は無くなり、この館から追い出されていただろう。そしたらまたサバイバル生活に逆戻りだ」

「あ……」

 一度招待された時点で恵梨の中ではもう客人になったつもりになっていた。そうだ、相手は善意で私たちを保護したのではない。実際雷沢さんが『電気エレクトリック』を見せるまでは酷い扱いを受けていたではないか。

 いきなり話を切り出されたように思えましたけど、バーナさんの頭の中では最初から雷沢さんを娘と結婚させるためにこの館に連れてきたということですか。


「そうか……だから最初私たちとの関係がどうなのか聞かれたのね」

「え、どういうことですか?」

「ほらバーナさんが雷沢さんに私たちとはどういう関係なのか聞いて、従者ですって嘘を吐いたでしょ? 男女が一緒にいる、つまり付き合っていたり結婚していた場合雷沢さんを娘と結婚させる場合に支障が出る。だから聞いたのよ」

「え、ということは私たちが雷沢さんとそのような関係だと疑われていたんですか!?」

 だとしたら不名誉なことだ。


「僕が貶されているようだが……すまないな、どうせ恋人ではないかと疑われるなら彰君が相手の方が良かっただろうに」

「そ、それは……って、またからかうつもりですね!!」

「ははっ、今回はすぐにバレたか。二人を従者だと嘘を吐いたのもそれが理由だ。恋心など毛頭も無い関係だと言っておかないと、過激な手段に出るかもしれなかったからな」

「確かに貴族からすれば従者に恋をするなんて普通は考えないでしょうけど……過激な手段……?」

 彩香が首をひねる。


「娘との結婚の邪魔になりそうならば力を持って排除する……バーナさんならそれもやりかねないということだ」

「っ……!」

「そんな……っ!」

「そろそろ認識を一致させよう。君たちは安心しきっているようだが、ここは既に欲望にまみれた獣の腹の中――敵地だぞ」


 雷沢が緊張感を煽るように警告する。


「バーナさんのあの欲望で濁った目を見なかったのか? 彼女は貴族を続けるため、権力や富を維持するために何でもするつもりだぞ。

 そういう意味では先ほどは間違いを話したな。僕が結婚話を断ったらどうするか、その場合は頷くまでこの館に監禁すればいい。ここは敵の本拠地であの騎士団のように従わせるための力も持っている、その気になれば僕たち三人を閉じこめるなんて楽だ」

「そうね……認識が甘かった。分かってたはずなのにね、裏の無い優しさなんてそうそうあるはず無いって」

「私たちを歓待したのも結婚話を切り出しやすくする意味もあったんでしょうが、油断させるためでもあったってことですか」

 彩香と恵梨も徐々に考えを改めていく。

 この何も知らない異世界でサバイバル生活など出来るわけがない。だからこうして館に招いてもらったのは助かったが、厄介になったと雷沢さんは言っていた。これがその厄介事というわけだ。


「最初に『言葉ワード』を解除させたのも盗聴を警戒してだ。まだそこまでの体制は敷いていないかもしれないし、あっちに『言葉ワード』の能力者がいたら無意味だが、せめてものな」

「なるほど……」

「それで私たちはどうすればいいの?」

 二人とも先ほどまでとは違い目に闘志が灯っていた。そうだ、二人ともただの少女ではない。科学技術研究会と戦ってきた戦士だ。この程度の修羅場は慣れている。


「とりあえずしばらくはこの館に世話になることにしよう。どういう思惑があるにしろ食事と住む場所が提供されるのは、この異世界の情報が少ない僕たちにとってはありがたいからな。そして情報を集めた後に方針を決める。

 今のところの想定は二つ。この館から逃げるか、結婚話を正面から叩き潰すかだ」

「個人的には後者の方がいいですね」

「そうね、強制的に結婚なんて……人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られるのよ」

 恵梨と彩香がやる気を見せる。


「ふむ……」

 雷沢はその様子を見て安泰だと判断した。今の二人ならばこの先何が起きても簡単に遅れは取らないだろう。


 すると中二病的な妄想をする余裕も現れるものだ。

 僕たちのストーリーはさながら異世界編の貴族パートといったところか。おそらくだが彰君たちは、他の人たちはまた別の物語を歩んでいるだろう。


 純……君は今頃この異世界の空の下、どこでどのような展開にあっているんだ?






 ――再び時を少し遡る。


「ここはどこや!? 何が起きているんや!?」


「あーもう!! お兄ちゃんがあの変なの壊すからだよ!!」


「ちょっと二人とも落ち着いて……」


 彰たちや、恵梨たちとも同じタイミングで、火野と理子と光崎も異世界の某所にて目を覚ましていた。


 次の投稿は11月1日予定です。

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