二百九十八話「貴族とは」
更新遅くなりすいません。
敷地に入ってからも馬車に揺られること数分。
三人は本邸にたどり着いたようで、案内されるがままにやってきたのは食堂。
天井からはシャンデリアが吊され、一体そこまでの長さが必要なのかと聞きたくなる食事用のテーブルが位置されている。
「さあ、召し上がってください」
どうやら雷沢たちの来訪は連絡されていたようで、テーブルには五人分の食事が用意されていた。
異世界に来てからというもの、一度も食事にありつけていない。怒濤の展開ですっかり忘れていた空腹感が呼び起こされる。
「………………」
疑問はたくさんありますが、まずは腹ごしらえをしてからですね。……というより目の前の食事の誘惑に勝てる気がしないだけですが。
恵梨はこの豪華な雰囲気に相応しいマナーを取っているバーナと彩香を見よう見真似しながら食べ進める。幸い異世界の料理も元の世界と大差無いようで、いやむしろこちらの食事の方が高級な分おいしく感じられる物が多いくらいだ。
「にしても流石に彩香はこういう場に慣れていますね」
「一応社長の娘よ。マナーは身に染みているわ」
「愚問でしたか。……にしても食事の用意がされていましたが、電話も無さそうなこの世界でどうやって私たちの訪問を知らせたんでしょうか?」
「そんなの能力じゃないの? ハミルさんの『念話』みたいな能力で伝えたってことでしょ」
「あ、なるほどですね」
小声で隣の彩香に話をしていると、雷沢がバーナに対して切り出した。
「ところで話を聞いてもいいだろうか?」
「何なりと」
「僕たちはこの国に来てから日が浅くて、文化にも疎い。だからあなたの言う貴族という制度が、具体的にどういうものか教えてほしい」
「……いいでしょう」
貴族……ですか。ちょうど気になっていたんですよね。
恵梨は二人の話に耳を傾ける。
「貴族とはスタリシア王より任されて、領地の管理を任されている家のことです。大小様々な領地が国内に点在していますが、王が直接治める王都に近く領地の大きな方が力を持っていると言っていいでしょう。つまり王都に隣接する四方位の地を管理する四大名門が貴族の頂点というわけです。サウス家もその一つです」
随分と偉い方なんですね……これだけの広さの館を見て分かっていたことだが、改めて認識する。
「貴族には何か条件があるのか?」
「ええ。初代、スタリシア王が貴族を任命したとき、全員Bランク以上の能力の持ち主でした。優秀で、血の交わりによってしか生まれぬ能力者を選ばれたというわけですわ。つまり能力こそが貴族の証で、当主は能力を持っていなければなりません。もし能力が途絶えた場合は、貴族の資格も奪われることになっています」
……気になる情報が出てきましたね。
能力こそが貴族の証。……能力は遺伝しますから、家柄だったり血のつながりを気にするのと同じようなものってことですか。
そして貴族の条件はBランク以上の能力者……血の交わりによってというのは『複製移譲』がBランクの能力を移動させることが出来ないことから来ているのでしょうか? だとしたら……この世界にも『複製移譲』の能力者は存在するということに……?
そのとき食堂に一人従者が入ってきて、バーナに耳打ちした。
「バーナ様…………準備が…………」
「ご苦労、通しなさい」
「五人目の準備が終わったのか?」
雷沢が質問をするが……五人目?
「最初食堂に入ったときに、料理が五人分置いてあったでしょ。なのに現在四人しか座っていないから……」
「あ、それで誰かが遅れていると読んだわけですか」
納得する恵梨。
「ええ、申し訳ありません。ドレスアップするのに時間がかかったようで」
実際、雷沢の予想は当たりのようだった。
「ニーナ入ってきなさい」
バーナの呼びかけで、一人の少女が食堂に入ってくる。
「…………」
その少女、ニーナが無言で入ってくる。顔を伏せているため表情が読みとれない。分かる範囲の情報はバーナと違って服やアクセサリのセンスがいいことと、年齢は恵梨たちと同年代くらいだというところか。
と、ニーナの態度が気に入らなかったのか、バーナは少し気が立っている。
「ほら、ニーナ! 大事なお客様よ、挨拶なさい!!」
「……ようこそいらっしゃいました」
「全く、この子は……」
「やはりニーナさんはあなたの娘なんですね、バーナさん」
「ええ、こんな娘でごめんなさいね」
ニーナの代わりに謝るバーナ。
にしてもニーナさんはバーナさんの娘でしたか。親子で結構違うキャラに見えますが……。
「ええ、では……ニーナが揃ったことでようやく本題に入れますわね」
「本題……?」
雷沢さんをこの館に招いた理由が明かされるということでしょうか……?
「先ほどこのサウス家が四大名門であることは説明しましたが……現在その立場が危機に陥っています」
「危機?」
雷沢が相づちを打つ。
「はい。貴族制度、当主は能力を持っていないといけない。ですがその昔は栄えていたサウス家も、数百年前の大消失や事故などで数を減らし、現在ではこのサウス宗家にしか『電気』の能力者がいません」
「なるほど」
「そして宗家も私と娘、ニーナの二人のみ。これは由々しき問題でした。後二世代で、名門サウス家が貴族の地位から落とされるというわけですから」
なるほど、元の世界なら跡継ぎがいなかったら養子を取ったりという対策が取れますが、この世界の貴族は能力を持っていないといけない。この条件がやはり厳しい。
能力の遺伝には男女ともに同じ能力を持っている必要がある。ニーナさんとバーナさんはどちらも女性。二人しか『電気』の能力者がいないのならば、今後『電気』の能力者が生まれることがないということだ。
「あ……」
そこまで考えて気づいた恵梨。
そうです、つまり『電気』……いえ、『電気』能力者で男性の雷沢さんに求められるのは――。
「そこに振ってわいた偶然がそう! 雷沢さんあなたです! 男性の『電気』能力者。あなたがいればサウス家はもっともっと続くことが出来るのです!!!
つまり私があなたに求めるのは――この娘、ニーナと結婚して子供を作って欲しい、ということですわ!!」
告げられた結婚の単語。
「能力の遺伝のための結婚…………何だか、デジャヴを感じるわね……」
彩香は約一年前、自分が騙されたときのことを思い出した。




