三百話「謎だらけの地 火野・理子・光崎side」
祝・300話! ……に主人公が出てこない不具合。
今回より火野パートです。
それと新連載始めました。
『恋愛アンチなのに異世界でチートな魅了スキルを授かった件』
気になった方はユーザーページよりジャンプしてもらえると幸いです。
異世界の地へと降り立った、火野、理子、光崎。
他の能力者たちと同じく辺りは森に囲まれて、島とは風景が一変している。
この地に来た最初の反応は、彰たちはここがどこか疑問に思い、雷沢たちは一歩飛んだ推理で見抜いた。火野たちはというと。
「お兄ちゃん、正座」
「っ、そう安々と従って……あぶっ!?」
「もうー、二人ともそんな場合じゃないんだって」
兄妹ケンカを始めていた。
騒いでいたせいでドラゴンの飛来にも気づかず――去ってからしばらくしてようやくケンカは収まる。
「それでここはどこなんや?」
「……ん、あれ? いつの間にか森の中だ。それに海も見当たらないし」
「うー、やっと二人も疑問に思ってくれたー……」
ケンカの仲裁に骨を折った光崎。
彼女は雷沢から『穴から落ちた先は異世界』『異世界に仲間と一緒に行く場合はバラバラに飛ばされる』などといった異世界に来た場合の知識を授かっていた。
しかし、それを現在の状況と結びつけることが出来ないでいた。
これは光崎が駄目というより、雷沢が異常というべきであろう。普通想定外の事態にあった人間は思考停止するものだ。異世界だと強制的に気づかせるためのドラゴンも見過ごしてしまった。
そういうわけで。
「だから、ここは、どこなんやー!!」
「もううるさいお兄ちゃん!」
「何が起こってるんだろう……タッくん……」
三人ともその場を動けずおろおろするしかなかった。
すると三人を見つける者が現れた。
「○×△」
「○×△○×△……?」
「○×△!!」
それぞれ手に武器を持った荒くれ者たちである。
レリィの『強化』を受けた彰に追い払われたその者たちが火野たちを見つけていた。荒くれ者たちは三人を囲み口々に声をかけるが。
「ん、この人たち何て言ってるんや?」
「外国語?」
「聞いたこともない言語だけど……」
ここでも彰たち、雷沢たちとの違いが出ていた。
それぞれ彰と恵梨が持っていた『言葉』により、異世界人と対話していたのだが……火野たち三人の中に『言葉』を持っている者はいない。
つまり言葉が通じないということで、これではコミュニケーションを取るのは困難だ。
「言葉がこういうときこそボディランゲージや!! 身振り手振りで伝えるんや!!」
「頑張って、お兄ちゃん!!」
「うおおおおおおっ!! はいっ、はいっ、はいいいいっっ!!」
「○×△?」
火野が頑張ってコミュニケーションを取ろうとするも疑問顔を返される。
「…………」
一方で光崎は考え込んでいた。
この人たちは何が目的かな? 言葉は通じないけど武器を持って私たちを囲むなんてことする理由は……。
「○×△」
荒くれ者の一人が無造作に近寄ってきて何やら言いながら理子に手を伸ばした。
「……いやっ!」
言葉は通じずとも同じ人間だ。目を見れば感情は伝わる。
好意的なものにより差し出した手ではないことを理解した理子は、恐怖の感情を浮かべて。
「理子が怖がってるやろ、止めるんや」
火野が横からその手を払った。
「○×△……?」
邪魔された荒くれ者はというと、面倒そうに持っていた武器を火野に対して振り下ろして――。
「そういう輩か。攻撃しようとしたのはそっちが先や、恨むなよ!!」
火野は炎の錬金術を発動。
作り出した剣により受け止め、もう一つ作り出した盾を操作して荒くれ者を押し返す。
「ちょっとお兄ちゃん、能力を使ったら!?」
「そんな場合やないやろ!」
「うん、火野君の言うとおりだよ」
囲んだ者たちから感じる害意。
丸腰の三人が抵抗するためには能力を発動するしかない。
これで驚いて引いてくれればと光崎は期待するが。
「○×△……!?」
「○×△○×△○×△!!」
「……○×△!!」
彰の能力を見たときと同じように、火野の錬金術を見て荒くれ者たちの集団の憎悪が増す。頭らしきものが統率を取り、それぞれが構えた武器で火野たちを攻撃する算段を立て始める。
「どういうことか分からんが、能力を見ても驚いてないようやな」
「そ、それどころか何か敵意が増したような」
「でも、能力を発動する気配はない……能力を知っている無能力者ってこと……?」
光崎は疑問に思うが、そんなことを考えている場合ではないと思考から追いやった。
今気にするべきはこの窮地をどうやって脱するかだよね。
囲んでいる荒くれ者の人数は八人。対してこっちは能力者三人。相手の方が多いけど、能力を駆使すれば勝てなくもない人数差だ。
しかし、こちらの能力の内訳が良くなかった。
火野君は十分に戦えるけど、理子ちゃんは能力を持っていても人と戦ったことはない。それに私の能力『閃光』も戦闘向きの能力ではない。
私がサポートしても、火野君だけで八人を倒せるとは思えない。
逃げるにしてもこの囲まれた状況からは困難だ。
だったら――。
「来いや、返り討ちにしてやるで?」
挑発する火野。
「○×△……!!」
言葉が伝わらずとも、意図が通じたのか一斉攻撃の号令を出す頭。
両者が激突しようとしたその瞬間――カッ!! と目映い閃光が発せられた。
時刻はまだ昼だが、深い森により少々暗いこの空間に閃光はよく効いて、荒くれ者たちは全員思わず目を逸らした。
しばらくまばたきを繰り返して光のダメージから立て直した荒くれ者たちは。
「○×△○×△……!?」
取り囲んでいたはずの三人がその場から姿を消していることに気づいた。
神隠しにあったような光景にきょろきょろと見回すが、三人の姿は見当たらない。
すると。
ガサガサッ!
少し離れた場所から、枝と枝がこすれあう音が聞こえてきた。
まるでこの場から逃げていくような音。
「○×△○×△!!」
あの三人はどういうわけか……いやおそらく能力を使ってこの場から逃げ出したのだと。
そう判断した荒くれ者たちは音が聞こえた方向を二手に分かれて追い始めた。
その場から荒くれ者たちが去っていき、十分に時間を置いて。
「行ったようやな」
「助かりました、光崎さん!」
「うん、何とかなって良かったよ」
火野たち三人は、囲まれていたそのままの場所に姿を現した。
仕組みは簡単だった。
光崎の閃光により荒くれ者たちの目を眩ましたタイミングで、光の屈折率操作を発動。三人は周囲から見えないようにした。これにより荒くれ者たちは三人の姿を見失う。
後は火野が錬金術で作った剣を遠くに投げて、逃げていったような音を立てることで荒くれ者たちをそちらに向かわせたというわけだった。
「さすがに八人相手はやばかったからな」
「……ごめんね、私が戦えれば半分引き受けられたのに」
「気にすんな、妹を守るのは兄として当然やからな」
「お兄ちゃん……!」
自分の力不足を嘆く理子を励ます火野。
微笑ましい光景を光崎は眺めていたかったが、すぐに次の行動に移らないと行けなかった。
「あの人たちは見当違いの方向を探しに行ったけど、もしかしたら気づいて戻ってくるかもしれないからね。私たちもこの場所から動くよ」
「お、そうやな」
「分かりました!」
火野と理子は頷く。
こうして三人は異世界の落ちてきた地を離れる。
荒くれ者たちが向かった方向とは反対に足を進めた。
それは彰たちや雷沢たちが進んだ方向とはまた違う方向であった。
それからしばらく森を歩いた三人だが、人も道も人里も見つからず、ほとんど迷っているような状況で、森の中で夜を迎えることになった。
「俺がサバイバルセット用意するように言っといて助かったやろ?」
「それは結果論でしょ!」
「結局あの後誰とも会わなかったね……」
彰たち、雷沢たちと比べて異世界だと気づかなかったり、『言葉』が無かったり、助けてくれる者と会わなかったり、とハードな道を行っている三人だが、一つだけ救いがあるとすれば火野が理子に用意させたサバイバルセットであった。
その準備はかなり本格的で、三人がおよそ五日は過ごせるだけの準備である。
ご飯を食べ終わった後はテントを立てて三人雑魚寝だ。夜に動くのは危険であるし、他にすることも無かった。
「しかし本当何が起こってるんやろうな? 彰たちも見当たらんし」
「それにここってあの島じゃないよね? どこまで言っても海に出ないし、それにあの変な人たち怖くて治安も悪そうだし」
「うーん…………」
疑問だらけの火野と理子。
光崎もどうにか今までの情報を結びつけて、事態を理解しようとするのだが、あと一歩足りず解明には至らない。
その内森を歩き回った疲労で三人とも眠りにつくのだった。
夜、真っ暗な森で動く影があった。
その者はちょうど火野たちが荒くれ者たちに囲まれた場所を調査していた。
それによって自分の部下たちが見当違いな方向を探していたこと。そして三人の能力者が本当に逃げた方向を掴んでいた。
「○×△……」
その男は痕跡を追う。仇敵、能力者を求めて。




