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異能力者がいる世界  作者: 雷田矛平
五章 夏祭り、後の祭り
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百十八話「旅行二日目 ボート1」

「で、次は誰と誰が乗るんだ?」

 ボートを漕いで砂浜に戻った彰は、残っていた面々に向かって言った。

「俺はパスやな。今これを作るのに忙しいし」

「右に同じくだ」

 地面にしゃがんでせっせと砂の城を作ろうとしている火野と仁志はパスを宣言。……砂の城って……馬鹿にするつもりはないんだが、楽しいのだろうか?


「私も遠慮するわ。そろそろ参戦するつもりだったから」

 手元のスマートフォンに目を落としている美佳もそう言った。こいつは海に来た意味があるのだろうか。

 ……ん、参戦?

「よし、ネットで検索して大体作り方のコツも分かったわ。仁志、このバケツに水を汲んできて。そして火野君もいったん手を休めて。……私が砂の城作りに参戦する以上完璧な作品を作るわよ!」

「「イエス、マム!!」」

 と思ったら、美佳も砂の城作りをするようだ。仁志と火野が軍隊のノリで答えるが、何か真剣過ぎて彰はついていけない。


「……まあ、あいつらは置いておくとして……となると、残ったのは彩香と由菜だな。二人で行ってくればいいんじゃないか?」

 ボートは二人乗りなので、必然的に残った二人に声をかける彰だが、

「って、彩香はどこに行ったんだ?」

 彩花の姿が近くに見あたらない。

「えーとね、彩香さんは……」

 由菜が言葉を濁していると、

「司令! ただいま砂を持って帰ってきました!」

「ご苦労、彩香一等兵! 仁志がバケツを持って帰ってきたら、まずは強度を高めるために砂と水を練り込むわよ!」

 またもや軍隊ノリの彩香がバケツいっぱいの砂を運んできていた。……三人とも美佳に掌握されているみたいだが、俺と恵梨が沖に出ている三十分ほどの間に何があったんだ?


 とにかくこちらが引くほどに、真剣に砂の城を作り始めた四人は無視することにした。

「ってことだが、それなら由菜ともう一回恵梨がボートに乗るか?」

「私は遠慮しておきます。オールで漕ぐのも疲れましたので」

 手をぶらぶらさせる恵梨。確かに水の抵抗を受けるのでオールで漕ぐのは疲れる。


「じゃあ残りは俺だけか……。由菜一人ってのも面白くないだろうし、俺が一緒に乗ってもいいか?」

「そ、そうね。お願いするわ」

 彰の提案に乗った由菜。二人はボートのある方に歩いていった。




 そしてその場に一人取り残された恵梨。

「……とりあえず作戦の第一段階は達成したみたいですね。……彰さんと由菜さんの二人でボートに乗せるのは苦労すると思いましたけど、彰さんの方から提案してくれますとは」

 風野藤一郎によって提案された彰と由菜の距離を縮めるための作戦。頭の仲でその全体像を改めて確認した恵梨は、

「第二段階のための準備もさっきしておきましたし、後は経過を見守るとしましょうか」

 そして荷物の中から風野藤一郎によって手配されたものを取り出した。








「風が気持ちいいわね」

 由菜が両手を広げて解放感に浸っている。

 砂浜を出てから十数分後。

 今度は由菜と一緒に彰はまたも沖に戻ってきていた。

「さっきも見た景色だけど、砂浜が遠くて青色に囲まれているこの景色はやはり落ち着くって感じだな」

「……時々思うんだけど、彰ってジジ臭いわよね」

「なっ!?」

「この景色を見て落ち着くって感想、もう世間の喧噪に疲れたおじさんレベルよ」

「この雄大な自然を前に落ち着いて何が悪いんだよ!?」

「悪いとは言ってないわよ。ただオッサンぽいってだけ」

「男子高校生にオッサンぽいって言うなよ! デリケートなんだよ!」

 オッサンぽいと言われると何となく頭皮のことが気になる。……将来ハゲなきゃいいんだが。


「まあまあ。そうヒートアップしないで、落ち着きなさいよ」

「全部おまえのせいなんだが」

 毒づきながらも、由菜にならって彰も両手を広げて深呼吸をする。 

「すーー、はあ。……うん、やっぱり落ち着くな。というかこの景色に落ち着かない奴は人間じゃないな。だから俺が特別オッサンぽいわけじゃないな」

「はいはい。そこまで言うならそれでいいわよ」

 由菜が呆れながらも認めてくれた。



「そういえばさ、彩香さんとか今回の旅行に来ている人と彰ってどこで知り合ったの? 私今まで知らなかったんだけど」

 会話が途切れないように由菜が新たな話題を提供する。

 彰と由菜は幼なじみのため、お互いの交友関係から親戚までほとんどの人間関係は分かっている。

「あいつらとは恵梨の関係で知り合ったんだよ。ほら、GWに旅行に出かけただろ。会ったのはあのときが初めてだ」

「へえ。でも恵梨とあの人たちの関係って何なの?」

「さあ? よく分からないけど昔からの知り合いらしい」

 同じ能力者仲間だ、とは言えないのであいまいに誤魔化す。


「昔からの知り合い、か。大企業の社長が知り合いなんて、恵梨って本当はお嬢様なのかしら? ……そんなことすら分からないなんて、私って恵梨のことをよく知っていないのよね。

 けど、彰なら知っているんでしょ?」

「何でそう思うんだよ?」

「居候しているくらいなんだから恵梨にあまり触れてほしくないような事情があるのは私にも分かるわよ。そして居候させてるんだから、彰がその事情を知っているって考えるのは当然でしょ」

「…………」

 理路整然とした発言に返す言葉もない彰。

「ねえ、それって私には話せないような事情なの? ……興味本位で聞いている訳じゃないのよ。ただ、何か助けられるなら力になりたいのよ」


 以前までの由菜だったら興味本位とは言わないまでも、彰と恵梨だけが共有している秘密ということを妬んで知りたがっていただけだった。しかし恵梨とも親友とまで言えるほど仲を深めた今、本当に力になれないかと思っていた。


 それを彰も感じ取ったのか悩み始めた。

 両親が殺され、能力者ということで追われていた恵梨を俺が助けた――という事情を由菜に話すわけにはいかない。

 それは確定事項だ。由菜に能力者関連の話をするわけには行かないのだから。

 けど、……一部分をぼかして話すぐらいならいいんじゃないか? 恵梨の両親は不幸な事故で亡くなって、突然のことで行く当てのない恵梨を俺が拾った、ってことにすれば話すことができる。

 由菜を騙しているようで悪いがそうして由菜が事情を共有してくれたなら、恵梨は由菜にも感情を打ち明けることができる。親を殺された悲しみだとかそんなのを。

 ……思えば恵梨が俺にそういう感情を打ち明けられなかったのも俺が男だったっていうのも一つの原因かもしれない。同姓同士なら幾分かそういう話もしやすいはずだ……と思う。


 とはいえ彰が独断して良いような事でもないので、

「今度恵梨に相談してみるよ。……これは誤魔化しじゃないからな。恵梨自身の問題だから俺が決めるわけにはいかないんだ」

「うん、分かった。……ありがとね、私のワガママを聞いてくれて」

「ワガママなんかじゃないさ。これも恵梨のためを思ってのことだろう。……おまえはいつも人のためを思って行動しているよ」

 だからそういうおまえに俺は憧れているんだ、と続く言葉は口にしたら恥ずかしいので思うだけにした。




 その後は取り留めの無い話をしたり、無言で波に揺られたりと穏やかな時間を過ごす二人。

「さて、そろそろ帰るとするか」

「そうね。ちょっと陸が恋しくなってきたわね」

 そういって放り出していたオールを手にとる二人。


 作戦は……そう成功したってわけじゃないけど、久しぶりに二人きりで話せて結構良い時間だったわね。

 由菜はこの機会を作ってくれた風野藤一郎や恵梨、彩香、美佳に感謝する。

 ……まあ、大体ムードのいい場所に二人きりでいるくらいで彰との仲が進むなら、もうとっくに付き合っているぐらいの関係になっていておかしくないし。……本当にこの鈍感野郎は。

「はあ……」

「ん、気のせいか? 今俺がバカにされた気がするんだが」

「そうよ、この鈍感野郎」

「いきなり何なんだよ!?」

 脈絡のない罵倒に彰が憤慨したそのとき。



 まだ、作戦は終わりじゃないですよ。



「あれ?」

 由菜はそんな声を聞こえた気がした。

 声だけではなく何か恵梨が黒い笑みを浮かべているイメージも一緒に見えた気がする。


 辺り一周を見回す由菜。しかし、当然のことながら周りは海に囲まれているだけである。

「?」

 ……空耳、だとは思うんだけど……作戦がまだ続くってどういうことだろう。


 そしてそれは唐突に起きた。


「……っ! これは!」

 彰が何かに気づいて驚きの声を上げる。


 そう、オールを漕いでないのにボートが突然動き出したのだ。何かの流れに掴まったのか、急速に沖の方に流されていく。


「きゃあ!」

「くそっ! 何を考えているんだ!?」

 あまりにいきなりの出来事であったため、ボートの外に投げ出されないようにしがみつくので必死な二人。それほどに出鱈目の速さで流されていく。

「な、何が起きているの!?」

「さあな! 理解できない!」

 そう声を上げるだけで精一杯だった。

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