4-1 最初の授業
入学式が終わり、新入生たちはそれぞれの教室へと案内された。
王立学院の一年A組。
重厚な木製の扉を開けると、すでに半数ほどの生徒が席についていた。
教室は半円状に机が並び、中央には教師用の演壇が置かれている。
アルスが中へ入ると、教室の空気が一瞬だけ静まり返った。
「王子殿下だ……。」
「同じクラスなのか。」
「話しかけてもいいのかな。」
小さな声があちこちから聞こえる。
前世でも同じ反応だった。
王族という立場は、人との距離を作ってしまう。
(懐かしいな。)
前回の人生では、自分から話しかけることもできず、最初の数日は孤立していた。
だが今回は違う。
空いている席へ向かおうとしたその時、一人の少年が笑顔で手を振った。
「こっち、空いてるぞ!」
赤い髪の少年。
リオン・フェルドだった。
「隣、いいか?」
「もちろん!」
アルスは少し驚く。
前回は、リオンから話しかけてくることはなかった。
(これも、未来が変わった影響なのか……?)
「俺はリオン! よろしくな!」
「アルスだ。よろしく。」
二人は握手を交わす。
その手は力強く、温かかった。
この手を、二度と失いたくない。
そんな思いが胸をよぎる。
◇
やがて教師が教室へ入ってきた。
「静かに。」
教壇に立ったのは、四十代ほどの男性教師だった。
「私は一年A組の担任、ガレス・ローウェルだ。」
教室が静まり返る。
「まず最初に言っておく。」
ガレスは教室全体を見回した。
「この学院では、身分は関係ない。」
「王族も貴族も平民も、一人の学生として扱う。」
「実力で競い、努力で認められろ。」
その言葉に、多くの生徒がうなずく。
アルスも、この教師のことをよく覚えていた。
厳しいが、公平。
誰よりも生徒を大切にする人物だった。
◇
「では自己紹介を始めよう。」
一人ずつ名前と得意分野を話していく。
「リオン・フェルド! 剣術なら負けねえ!」
教室から笑いが起こる。
「セレナ・エルミスです……魔法を勉強しています。」
小さな声だったが、その瞳だけは真っ直ぐ前を向いていた。
そして、アルスの番になる。
「アルス・レインハルトです。」
一呼吸置いて続ける。
「まだ未熟ですが、この学院で多くを学び、皆さんと切磋琢磨したいと思っています。」
短く、自然な自己紹介。
王子らしくもあり、一人の学生らしくもある言葉だった。
教室には穏やかな拍手が響いた。
◇
午前中の授業は学院の規則や施設案内で終わった。
昼休みになると、リオンが立ち上がる。
「アルス、一緒に飯食おうぜ!」
「ああ。」
二人が食堂へ向かう途中、廊下の掲示板の前に人だかりができていた。
「実技試験?」
掲示板には一枚の紙が貼られている。
**『一週間後、新入生実力測定試験を実施する。成績上位者には特別訓練への参加資格を与える。』**
アルスはその紙を見つめた。
(始まる。)
この試験が、すべての始まりだった。
前世では、この試験で生まれた小さな因縁が、後に王国の未来を大きく左右することになる。
しかし、それはまだ誰も知らない。
アルスだけが、その先に待つ運命を見つめていた。




