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神の石 -Back to the Baby-  作者: 中山 英司


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第8話 受容

「先生、年齢の横にある”残齢(ざんれい)”というのはどういう意味ですか!?」

修平は医師に詰め寄る。


医師から渡された紙。文末にはこう記されていた。


『名前:大野修平 性別:男性 年齢:六十五 残齢:二十七

     幼化症:陽性 (一/)二歳』


「残齢は乳児になるまでの年数です」

医師が冷静な声で大野の質問に答える。

「つまり...それはあと二十七年で死ぬという事ですか?」

動揺した声で修平が質問を重ねると

「あくまで検査結果を元にした予測、目安になります」

「幼化症が陽性なのはわかった。その横に書いてある”(一/)二歳”というのは

何ですか?」

修平は焦っていた。

「大野さん、落ち付いて聞いてください。これはあなたは一年でおよそ二歳分

若返っていくという意味になります。今のあなたの年齢は六十五歳ですが、体は

五十四歳相当にまで若返っているという事です」


自分が置かれている状況が整理できない。修平は固まっていた。


「大野さん。あなたの幼化症検査の結果は陽性でした。これからは検体の提供や

検査にご協力いただく事になります。詳細は後日、国や政府からの連絡を...」

医師の説明が頭に入ってこない。やはり隕石に近づきすぎてしまったからなのか?

いや、吉田は何もなさそうだった。どのくらいの発症率なんだ?最初の女性は

たった数年で乳児になった。俺の場合どうなっていくんだ...?


気が付くと修平は診察室を出ていた。検査結果の紙を持ったまま、しばらくの間

愕然とする。

「これじゃまるで余命宣告じゃないか」

自分の老後や将来が想像できない現実に潰されそうになる。

「まずは優美に伝えないと...」


自宅に戻り、修平はすぐに幼化症の発症を妻の優美に伝えた。

検査結果の紙を読みながら、優美は

「たぶんそうだろうなと思っていました...。琵琶湖へ一緒に行った時から」

冷静に受け止める。

「これからどうなっていくのかわからないけど...修平さんは修平さんだから。

前向きに考えれば九十二歳まで生きるお墨付きをもらったわけでしょう?」

修平は自分は若返っていくが妻は老いていく現実にハッとする。

自分ばかりで妻の事を考えていなかった。

これからどのように生きていけばいいのだろうか...。修平は頭の中が真っ白に

なっていった。


--------------------


場所は変わり、幼化症対策チーム室。

室内には閉塞感が漂っていた。


「チーム規模を縮小...ですか?」

チームスタッフの西村が驚くと

「いや、対策の方向転換だ」

チームリーダーの岡沢が言葉を返す。

「治療法の解明から社会影響を最小限にする方へチームを編成し直すらしい」

岡沢は続ける。

「良くも悪くも幼化症発症の可能性がある隕石は政府監視下に置かれる事に

なった。今後は時間が経つにつれて大きくなっていく発症者の社会管理が重要に

なってくる」

「確かに...。外見では発症しているのか見分けがつかないですからね」

西村が言うと

「医療の主要メンバーは縮小はするが幼化症解明に向け活動は継続する。若返りが

速い者の社会管理を早急に構築しなくては」

岡沢はふと別の懸念を思い出す。

「それにしても引っ掛かるな...。狭く収めようとしていたものが盗難で広がって

しまったように感じる...」

「広がる...?どういう意味ですか?」西村が気にすると

「もし隕石が発症の原因だとしたら、これから発症者が増えるという事だ」

岡沢は気合を入れる。

「これからは違う形で忙しくなるぞ」


幼化症対策チームが解明できたのは、細胞の解析による発症の有無と若返り速度の

二点だけだった。

隕石が発症原因である可能性はまだ仮説でしか説明できない。

発症に関してわかったことは”老若男女関係無く突然始まる”という事実だけだった。

更に治療法は四年かけても見つからない。生物が老いに抗えないように、若返りも

また抗うことができないと岡沢をはじめとした関係者は認めざるをえない状況へと

追い込まれていく。


幼化症の社会管理は残齢と若返り速度の告知から始まった。

発症者によって若返っていく速度が違う。

初の死亡者となってしまった田口良枝は、一年で十五歳分の速さで若返っていった。

残齢で言えば検査を受けた時点で二年を切っていた。

逆に一年で一歳分と若返りが遅い発症者もおり、個人差が非常に大きい事が

判明している。

告知は残酷ではあるが、発症者と共にこれからの生き方や起きうる問題を考えて

いくうえで必要な判断だった。


若返りが遅かったとしても、時間が経てば経つほど社会に与える影響は速い者と

変わらなくなっていく。


時の流れと比例して幼化症の法律や規則が次々と定められていく。



年金や退職、勤続年数をはじめとする労働や納税のあり方

再度訪れる人生の節目やイベントの捉え方


老いていく者との肉体的、精神的な乖離

若さへの羨望、妬み


歴史から学べない苦しみや葛藤...不知からくる偏見や差別



発症の有無に関わらず、全ての人間が徐々に幼化症を受け入れていかねば

ならなかった。時に喜び、時に悲しみながら...。




幼化症を巡る未知の人間模様が複雑に絡みながら描かれ始めていた。


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