4-30 光は世界を照らさない
第四章
七賢者編
第三十話
認識者の本が静かに閉じる。
白い世界は変わらない。
光はない。
炎もない。
風もない。
それでも。
セレスの視線は認識者から離れなかった。
「どうした。」
認識者が静かに問う。
「終わらせないのか。」
セレスは答えない。
ただ、本だけを見つめていた。
「さっき。」
小さく呟く。
「あなたはページをめくった。」
「それがどうした。」
「その瞬間。」
「私は、それを見た。」
認識者は首を傾げる。
「見えたのではない。」
「認識しただけだ。」
「違う。」
セレスは静かに首を振る。
「認識する前に。」
「情報は届く。」
認識者は無言だった。
セレスは続ける。
「あなたは、この世界から光を消した。」
「でも。」
「情報までは消せなかった。」
「認識するには情報が必要だから。」
白い世界に沈黙が落ちる。
認識者は静かに本を開く。
「だから何だ。」
「情報は届く。」
「それでも。」
「世界は私が決める。」
セレスは小さく笑う。
「ええ。」
「そこは変わらない。」
折れた左腕を押さえながら立ち上がる。
もちろん足は震えている。
それでも立った。
「私は勘違いしてた。」
右手をゆっくり開く。
「光は。」
「世界を壊す力じゃない。」
指先に魔力を集める。
何も起きない。
認識者は静かに告げる。
「この世界に光は存在しない。」
「そうね。」
セレスは頷く。
「だから。」
「光は出ない。」
認識者は一歩踏み出す。
「理解したなら終わりだ。」
「違う。」
セレスは笑う。
「光を出したかったんじゃない。」
その言葉に。
認識者は初めて足を止めた。
「私は。」
静かに本を閉じる。
「ずっと。」
「光を武器だと思ってた。」
右手を胸へ当てる。
「でも違う。」
「光は。」
「世界を照らすものでもない。」
長い沈黙。
セレスは認識者を真っ直ぐ見つめる。
「光は。」
「情報を届けるもの。」
その瞬間。
白い世界に。
ほんの一粒だけ。
小さな光が灯った。
認識者の瞳が初めて揺れる。
「……あり得ない。」
「この世界に。」
「光は存在しない。」
セレスは首を横へ振る。
「この光は。」
優しく微笑む。
「あなたの世界にある光じゃない。」
「私が。」
「あなたへ届けた情報。」
白い世界に浮かぶ光は、まだ米粒ほどの大きさしかない。
それでも。
認識者は、その小さな光から目を離せなかった。




