4-29 光という情報
第四章
七賢者編
第二十九話
白い世界は静まり返っていた。
認識者は答えない。
セレスの問いに意味を見出せなかったからだ。
「どうやって見ているか、だと。」
「そう。」
セレスは静かに頷く。
「この世界には光が存在しない。」
「あなたがそう認識している。」
「なら。」
「あなたは何で私を見ているの?」
認識者は迷わず答えた。
「認識だ。」
「視覚ではない。」
「私は世界を認識している。」
セレスは小さく笑う。
「やっぱり。」
認識者は眉をひそめる。
「何がおかしい。」
「あなた。」
「認識と情報を同じものとして話してる。」
「当然だ。」
認識者は即答する。
「認識とは情報を理解した結果だ。」
「そう。」
セレスは目を閉じる。
「そこまでは私も同じ。」
長い沈黙が流れる。
折れた左腕は痛む。
息も苦しい。
立つこともできない。
それでも。
頭だけは止まっていなかった。
「情報。」
小さく呟く。
「情報って何だろう。」
認識者は本を閉じる。
「世界そのものだ。」
「違う。」
セレスは首を横へ振る。
「情報は。」
「運ばれないと意味がない。」
認識者は何も答えない。
セレスは独り言のように続ける。
「言葉も。」
「音も。」
「匂いも。」
「全部。」
「何かが運んでいる。」
ゆっくり天井を見上げる。
真っ白だった。
「じゃあ。」
「光は?」
認識者は静かに答える。
「存在しない。」
「そう。」
セレスは頷く。
「存在しない。」
「だから私は能力が使えない。」
そこまでは理解した。
だが。
どうしても、一つだけ説明できないことがある。
「でも。」
「あなたは私を見ている。」
「私はあなたを見ている。」
「それって。」
「本当に光がないの?」
認識者は初めて沈黙した。
違う。
答えを考えているわけではない。
質問の意味を測っていた。
「面白い。」
小さく呟く。
「だが無意味だ。」
「光が存在しようとしまいと。」
「この世界は私が決める。」
セレスは笑う。
「そうね。」
「でも。」
「世界を決める前に。」
「情報は届いている。」
認識者は静かに本を開いた。
「理解できない。」
「なら。」
「理解する前に終わらせよう。」
本が光を放つ。
いや。
違う。
セレスはその違和感を見逃さなかった。
「……今。」
「光った?」
認識者はページをめくる。
「違う。」
「これは認識だ。」
その瞬間。
セレスの瞳が大きく開かれる。
認識。
情報。
光。
三つの言葉が。
初めて一本の線で繋がった。




