4-28 光は武器ではない
第四章
七賢者編
第二十八話
白い世界に、本のページをめくる音だけが響く。
認識者は静かにセレスを見下ろしていた。
「終わらせよう。」
その一言と共に、本が開く。
「お前は立てない。」
セレスの膝が崩れる。
「左腕は折れている。」
激痛が全身を駆け巡る。
「視界は狭い。」
世界の半分が闇に染まる。
「呼吸は浅い。」
肺が悲鳴を上げる。
一つ一つの言葉が現実になる。
認識者は何もしていない。
ただ、世界を認識しているだけだった。
「人は。」
静かな声が響く。
「世界を変えられない。」
「世界に従うだけだ。」
セレスは歯を食いしばる。
何度魔力を巡らせても、光は生まれない。
認識者は小さく息を吐く。
「まだ諦めないか。」
「光は存在しない。」
「だから、お前の能力も存在しない。」
セレスは拳を握る。
悔しい。
だが反論できない。
現実が、それを証明している。
認識者は本を閉じた。
「これで終わりだ。」
ゆっくりと右手を伸ばす。
「お前は。」
「この世界から消える。」
その瞬間だった。
セレスはふと目を閉じる。
暗闇。
何も見えない。
それでも。
認識者の声だけは聞こえた。
本を閉じる音も。
足音も。
呼吸も。
全部。
「……見えなくても。」
小さく呟く。
「情報は届く。」
認識者は眉一つ動かさない。
「当然だ。」
「認識とは情報だからな。」
その言葉を聞いた瞬間。
セレスの表情が止まる。
情報。
認識。
光。
頭の中で、何かが繋がり始める。
だが。
まだ足りない。
まだ答えは見えない。
認識者は静かに本を開く。
「終わりだ。」
ページがめくられる。
白い世界そのものが、セレスを飲み込もうとしていた。
その中で。
セレスはゆっくり目を開く。
「……一つだけ。」
小さく笑う。
「教えて。」
認識者は答える。
「何だ。」
セレスは真っ直ぐ認識者を見つめた。
「あなたは。」
「どうやって私を見ているの?」
認識者は初めて沈黙した。
ほんの一瞬。
それだけだった。
しかし。
その一瞬を、セレスは見逃さなかった。




