4-31 情報は消せない
第四章
七賢者編
第三十一話
白い世界は何も変わらない。
光はない。
風もない。
音だけが静かに響いていた。
認識者はセレスを見つめる。
「終わりか。」
静かな問いだった。
セレスは首を横へ振る。
「まだ。」
「何も始まってない。」
認識者は本を開く。
「理解できない。」
「お前は能力を失った。」
「立つこともできない。」
「世界は私の認識通りに動いている。」
「その通り。」
セレスは笑う。
「全部その通り。」
「だから。」
右手を見つめる。
「私は能力を勘違いしてた。」
認識者は黙る。
セレスは続ける。
「私はずっと。」
「光を作ってると思ってた。」
「違う。」
「光は。」
「最初から世界にあるものだった。」
認識者は静かに首を横へ振る。
「この世界に光は存在しない。」
「ええ。」
セレスも頷く。
「だから。」
「私は何も作れない。」
長い沈黙。
認識者は少しだけ目を細めた。
「なら。」
「何をする。」
セレスは認識者を真っ直ぐ見つめる。
「考える。」
その一言だった。
「光がなくても。」
「情報は届く。」
「音も。」
「言葉も。」
「空気も。」
「全部。」
「情報。」
認識者は静かに答える。
「だから何だ。」
「あなたは。」
セレスは少しだけ笑う。
「情報を消せない。」
「違う。」
認識者は即座に否定する。
「私は世界を書き換える。」
「情報ではない。」
「世界そのものだ。」
セレスはゆっくり頷いた。
「そこ。」
「そこが知りたかった。」
認識者は初めて眉を動かす。
「何。」
「あなた。」
「世界を書き換えてるんじゃない。」
「認識を書き換えてる。」
「違いはない。」
「ある。」
セレスは静かに言った。
「世界は。」
「認識より先に存在する。」
認識者は本を閉じる。
「証明してみろ。」
「まだできない。」
セレスは素直に答えた。
「でも。」
「必ず証明する。」
認識者は小さく息を吐く。
「面白い。」
「では。」
ページをめくる。
「お前の認識ごと消そう。」
その瞬間。
セレスの身体が少しずつ透け始めた。
腕。
足。
身体。
存在そのものが。
白い世界へ溶け始める。
セレスは驚かない。
静かに自分の手を見る。
「これが。」
小さく呟く。
「あなたの本当の力。」
認識者は答える。
「そうだ。」
「認識されないものは。」
「存在しない。」
セレスは静かに目を閉じた。
まだ。
答えは見つかっていない。
だが。
確実に。
認識者の能力の本質だけは見え始めていた。




