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英雄狩り 〜最初の獲物を狩った日、世界は俺を敵にした〜  作者: Toi
第4章 七賢者編

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4-26 無価値

第四章


七賢者編


第二十六話


白い世界は静まり返っていた。


セレスは右膝をついたまま、荒い呼吸を繰り返している。


折れた左腕。


潰れそうな肺。


霞む視界。


それでも認識者は、一歩も動かなかった。


「立て。」


静かな声。


セレスは歯を食いしばり、ゆっくり身体を起こそうとする。


動けない。


身体が命令を聞かない。


「違う。」


認識者は本を閉じる。


「お前は立てない。」


その瞬間、足から完全に力が抜けた。


床へ倒れ込む。


指一本すら思うように動かない。


「人は自由に生きていると思っている。」


認識者はセレスを見下ろす。


「しかし現実は違う。」


「世界が許したことしかできない。」


「そして。」


「この世界は私だ。」


セレスは唇を噛む。


光を出そうとする。


何も起きない。


魔力はある。


それでも能力だけが発動しない。


認識者は静かに続けた。


「英雄。」


「それは何だ。」


返事はない。


「強い者か。」


「違う。」


「民を守る者か。」


「違う。」


「世界を変える者か。」


「それも違う。」


認識者は本を一枚めくる。


「英雄とは。」


「世界に必要とされた者だ。」


長い沈黙。


「では。」


視線がセレスへ向く。


「お前は何を救った。」


セレスは答えない。


「何人救った。」


答えない。


「何を変えた。」


沈黙。


認識者は静かに結論を告げる。


「お前は。」


「何も成し遂げていない。」


その言葉は剣より深く突き刺さった。


セレスの瞳が揺れる。


認識者は続ける。


「グラムは人を奮い立たせた。」


「ガイアスは民を背負った。」


「アイリスは自由を示した。」


「では。」


「お前は何だ。」


返せない。


言葉が出ない。


認識者は初めてセレスの目の前まで歩いてきた。


「知識だけでは。」


「世界は変わらない。」


「情報だけでは。」


「誰も救えない。」


本を閉じる。


「だから。」


「お前は英雄ではない。」


白い世界が静まり返る。


セレスは俯いたまま動かない。


能力ではない。


心が折れ始めていた。


認識者は静かに背を向ける。


「次で終わらせる。」


「お前という存在を。」


白い世界に足音だけが響く。


その背中を見つめながら。


セレスは初めて、自分の両手を見つめた。


そこには。


一度も灯ることのなかった光があった。

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