4-25 光のない世界
第四章
七賢者編
第二十五話
白い世界が静まり返る。
セレスは片膝をついたまま、折れた左腕を押さえていた。
痛い。
息をするだけで激痛が走る。
それでも認識者の表情は一切変わらない。
「立てない。」
「左腕は折れている。」
「痛みは消えない。」
淡々と言葉を並べる。
その全てが現実になる。
セレスは右手だけで身体を起こそうとした。
動けない。
膝へ力が入らない。
まるで身体そのものが、自分を拒絶している。
「無意味だ。」
認識者が静かに言う。
「お前は今、自分の身体を動かしていると思っている。」
「違う。」
「世界がお前を動かしている。」
「そして。」
「世界は私だ。」
長い沈黙。
セレスは笑おうとする。
だが笑えない。
余裕すら奪われていた。
認識者は本を一枚めくる。
「お前は見えない。」
その瞬間。
視界の右半分が黒く染まる。
「……っ。」
思わず右目へ手を当てる。
何も見えない。
目は開いている。
それでも景色だけが消えていた。
「恐怖も認識だ。」
認識者はさらにページをめくる。
「息苦しい。」
肺が潰されるような圧迫感。
呼吸が浅くなる。
胸が苦しい。
立っているだけで意識が遠のいていく。
「人は。」
認識者が静かに見下ろす。
「自分の意思で生きていると思い込んでいる。」
「だが違う。」
「世界がそう認識しているから、生きている。」
セレスは歯を食いしばる。
光を出そうとする。
何度試しても。
何も起きない。
「諦めろ。」
認識者は本を閉じた。
「この世界に光は存在しない。」
その一言で。
セレスの最後の希望まで消えた。
静寂。
認識者はゆっくり背を向ける。
「終わりだ。」
「もう、お前にできることはない。」
その背中を。
セレスはただ見つめるしかなかった。
悔しい。
何もできない。
考えることすら、少しずつ奪われていく。
認識者は歩みを止めることなく言った。
「次で。」
「お前の認識を消す。」
白い世界がさらに静まり返る。
セレスは初めて。
死を覚悟した。




