4-24 認識世界
第四章
七賢者編
第二十四話
世界が白く染まる。
床も壁も天井も消え、残ったのは認識者とセレスだけだった。
静かだった。
風もない。
音もない。
「ここが認識世界。」
認識者は本を閉じる。
「この世界では、私の認識だけが現実になる。」
セレスは周囲を見回す。
何もない。
だからこそ、不気味だった。
「試してみるといい。」
認識者が促す。
セレスは指先へ光を集める。
何も起きない。
もう一度。
今度は全身へ魔力を巡らせる。
それでも光は生まれなかった。
認識者は静かに言う。
「この世界に光は存在しない。」
その一言だけだった。
セレスは能力を失った。
「……。」
「能力とは世界の法則に従うものだ。」
「法則は私が決める。」
認識者が一歩踏み出す。
「お前の左腕は折れている。」
鈍い音が響いた。
ボキッ。
激痛。
セレスの左腕が不自然な方向へ曲がる。
「っ……!」
思わず膝をつく。
折られた。
触れられてもいない。
認識しただけで。
「痛みも現実だ。」
認識者は歩みを止めない。
「立ち上がれ。」
セレスは歯を食いしばり、右手だけで身体を起こす。
認識者は静かに首を振った。
「違う。」
「お前は立てない。」
その瞬間だった。
足から力が消える。
膝が崩れ、再び床へ倒れ込んだ。
立とうとしても動かない。
身体は命令を拒絶している。
「理解したか。」
認識者は目の前まで歩いてくる。
「お前は今、自分の意思では動いていない。」
「世界の法則で動いている。」
「そして。」
「その法則は私だ。」
長い沈黙。
セレスは荒い息を繰り返す。
汗が頬を伝う。
ここまで一方的な戦いは初めてだった。
能力も使えない。
身体も動かない。
戦うことすら許されない。
「まだ終わらない。」
認識者は静かに本を開く。
「お前は痛みを感じ続ける。」
その言葉だけで、左腕の激痛が何倍にも膨れ上がる。
呼吸が乱れる。
視界が滲む。
「この程度で苦しいか。」
「なら。」
ページを一枚めくる。
「次は視界を奪おう。」
セレスの世界が、ゆっくりと暗く染まり始めた。




