4-23 認識者
第四章
七賢者編
第二十三話
地下神殿の最奥。
そこだけは、戦場とは思えないほど静かだった。
剣戟も轟音も、厚い結界に遮られて届かない。
一人の男が静かに本を閉じる。
「三人。」
認識者は小さく呟いた。
「記録者。」
「選定者。」
「監察者。」
「全員、役目を終えた。」
その向かいで、セレスは静かに口を開く。
「監察者は役目を終えたんじゃない。」
「執行者に殺されたの。」
認識者は表情を変えない。
「執行された。」
短い一言だった。
「敗北した。」
「世界を導く資格を失った。」
「だから執行された。」
セレスは眉をひそめる。
「仲間でしょう。」
「仲間だ。」
認識者は即答する。
「だから例外は作らない。」
「例外は秩序を壊す。」
「秩序が壊れれば、世界は再び争う。」
静かな口調。
怒りも迷いもない。
ただ結論だけを述べている。
「監察者はあなた達のために戦った。」
「結果として敗北した。」
「それでも切り捨てるの?」
「当然だ。」
認識者は迷わない。
「個を守るために世界を捨てる。」
「それが最も愚かな選択だ。」
セレスは小さく息を吐いた。
「あなた達は。」
「誰も幸せになれない世界を作ってる。」
「違う。」
認識者は静かに首を振る。
「幸せとは結果ではない。」
「生存だ。」
「生き残れば、人はまた笑える。」
「死ねば終わる。」
「だから世界は生存を最優先すべきだ。」
地下神殿が静まり返る。
セレスは反論しようとして、言葉を止めた。
間違ってはいない。
少なくとも論理は通っている。
認識者は本を机へ置く。
「今のお前は。」
「感情で世界を見ている。」
「私は事実で世界を見る。」
「だから結論が違う。」
セレスは苦笑した。
「本当にそうかしら。」
「もちろんだ。」
「事実は一つ。」
「認識も一つ。」
「そこに感情は必要ない。」
認識者はゆっくり立ち上がる。
「だから人類は、何度も同じ過ちを繰り返した。」
「感情を優先したからだ。」
本がひとりでに開く。
ページが静かにめくられる。
「なら。」
認識者はセレスを真っ直ぐ見据えた。
「お前にも見せよう。」
世界が白く染まり始める。
床。
壁。
天井。
神殿そのものが音もなく消えていく。
「事実だけで構成された世界を。」
セレスは目を細める。
その世界に、一切の感情は存在しない。
認識者は静かに本を閉じた。
「認識世界。」
「ここでは、私の認識だけが現実となる。」
白い世界が完成した。
セレスはまだ知らない。
ここが。
七賢者最強の知が支配する絶対領域であることを。




