4-22 自由という答え
第四章
七賢者編
第二十二話
吹雪の中で、二本の剣が激しくぶつかり合う。
甲高い金属音が何度も雪原へ響く。
監察者は未来を見ない。
アイリスも幻で惑わせない。
互いに目の前の相手だけを見て剣を振るい、技と技だけがぶつかり続けていた。
「速い。」
監察者が小さく呟く。
「違う。」
アイリスは笑う。
「迷わなくなっただけ。」
轟音。
監察者の斬撃を長剣で受け、その勢いを利用して懐へ潜る。
短剣が閃く。
監察者は紙一重でかわす。
だが、その瞬間には長剣が迫っていた。
火花が散る。
監察者の剣が大きく弾かれ、雪原へ突き刺さる。
静寂。
アイリスの長剣が、監察者の喉元で止まった。
雪だけが静かに降っている。
監察者はゆっくり息を吐き、小さく微笑んだ。
「私の敗北だ。」
アイリスは剣を下ろす。
「ありがと。」
穏やかな笑顔だった。
「あなたと戦えて、本当に楽しかった。」
監察者も微笑み返す。
「未来だけでは、人は導けない。」
「自由もまた、人を導く答えなのだろう。」
その瞬間だった。
黒い一閃。
世界から音が消える。
監察者の笑みを浮かべたままの首が、ゆっくり宙を舞った。
鮮血が白い雪を赤く染める。
首のない身体が数歩よろめき、その場へ崩れ落ちた。
アイリスの瞳が大きく見開かれる。
「……え。」
振り返る。
そこには、一人の男が立っていた。
漆黒の剣。
返り血一つ付いていない刃。
感情を一切映さない瞳。
執行者。
彼は監察者の亡骸を一瞥することもなく、静かに剣を払った。
「敗者に価値はない。」
感情のない声が雪原へ響く。
「七賢者は世界を導く者。」
「敗北した時点で、その資格は失われる。」
アイリスは思わず剣を構える。
「仲間でしょう……?」
執行者はゆっくり視線だけを向けた。
「違う。」
「使命だ。」
たった二文字。
その言葉だけで空気が凍りつく。
「世界を正すためなら。」
「誰であろうと切り捨てる。」
執行者はアイリスへ一歩近付く。
その瞬間。
アイリスの全身へ悪寒が走った。
強い。
そんな言葉では足りない。
目の前に立つ男だけは。
今まで戦ってきた七賢者とは別格だった。
執行者は静かに剣を収める。
「安心しろ。」
「今、お前を殺す命令はない。」
そう言い残し、雪の中へ姿を消した。
残されたアイリスは、監察者の亡骸を見つめながら拳を震わせる。
七賢者。
その組織は、自分が思っていた以上に狂っていた。




