4-20 見えない一手
第四章
七賢者編
第二十話
吹雪はさらに勢いを増していた。
監察者は剣を構えたまま動かない。見えている。無数の可能性は今も視界へ流れ込んでくる。右から来る未来。左から来る未来。上空から襲う未来。どれも存在する。
だが。
その数が増えていた。
「可能性が……増殖している。」
初めて監察者の声が揺れる。
「違うわ。」
吹雪の向こうからアイリスが笑う。
「あなたが勝手に迷ってるだけ。」
轟音。
右。
監察者は剣を振るう。
空振り。
次は左。
そこにもいない。
背後。
振り返る。
また空。
「どこ。」
監察者は初めて辺りを見回した。
アイリスの姿はどこにもない。
「見えないんじゃない。」
声だけが響く。
「見ようとしすぎなの。」
その瞬間。
監察者の足元が砕けた。
剣。
地面の下からだった。
咄嗟に飛び退く。
避けた。
しかし。
肩へ浅い傷が走る。
「……!」
監察者は息を呑む。
「地面まで使うとは。」
アイリスは雪の中から姿を現す。
「戦場全部が私の武器。」
剣を軽く回す。
「人ってね。」
笑う。
「正面しか見ないの。」
「だから。」
雪を踏み締める。
「私は正面から戦わない。」
轟音。
吹雪が爆発する。
今度は雪そのものが舞い上がり、無数の氷片が監察者へ襲い掛かった。
監察者は剣で弾く。
その隙。
アイリスが懐へ潜り込む。
剣を振るう。
監察者は最小限で避ける。
だが。
避けた先に。
もう一本の剣。
「っ!」
火花が散る。
初めて監察者の剣が大きく弾かれた。
「一本じゃ……ない?」
アイリスは笑う。
「ようやく見えた?」
監察者は視線を落とす。
アイリスの腰には短剣が一本。
長剣だけではなかった。
「あなたは。」
監察者が静かに言う。
「最初から情報を隠していた。」
「もちろん。」
アイリスは肩をすくめる。
「全部見せたら、騙せないでしょ?」
吹雪が止む。
監察者はゆっくり息を吐いた。
「理解した。」
「お前は。」
剣を握り直す。
「可能性を増やす者。」
アイリスは首を振る。
「違う。」
静かに笑う。
「私は。」
剣先を監察者へ向ける。
「あなたの”正解”を増やしてるだけ。」
監察者の瞳が揺れる。
その言葉の意味を理解した瞬間。
初めて。
監察者の未来から。
“最善”が消えた。




