4-19 幻影
第四章
七賢者編
第十九話
吹雪が荒れ狂う。
視界は真っ白だった。
監察者は目を閉じる。
雪は関係ない。
光も闇も関係ない。
見ているのは景色ではなく、人が生み出す”可能性”そのものだった。
右。
可能性。
左。
可能性。
背後。
可能性。
その全てを見ながら、一歩だけ前へ出る。
轟音。
剣が空を裂いた。
あと数センチ。
監察者の頬を掠める。
「……?」
初めて眉が動いた。
見えていた。
避けた。
なのに。
剣が届いた。
吹雪の向こうで、アイリスが笑う。
「惜しかった?」
監察者は振り返る。
そこにアイリスはいない。
「違う。」
背後から声がする。
剣が迫る。
監察者は迷わず避けた。
しかし。
また空振る。
今度は右。
さらに左。
どれも本物の気配。
どれも本物の殺気。
「分身ではない。」
監察者は静かに呟く。
「視線を誘導してる?」
アイリスは笑った。
「違う。」
剣を軽く回す。
「あなたは”可能性”を見てる。」
「だから。」
雪を蹴る。
「可能性を増やしてあげる。」
轟音。
剣が走る。
一人。
二人。
三人。
吹雪の中にアイリスが増えた。
幻ではない。
残像でもない。
全員が違う動きをしている。
監察者は静かに目を閉じる。
本物は一人。
そう判断し、最善の未来を選ぶ。
その瞬間。
「残念。」
声が重なった。
四方向から剣が迫る。
監察者は初めて剣を抜く。
甲高い音が吹雪へ響いた。
火花が散る。
一本だけ受け止める。
だが。
残る三本。
肩。
脇腹。
腕。
浅い傷が走る。
監察者は距離を取った。
血が雪を赤く染める。
「見えた未来が。」
静かに息を吐く。
「外れた。」
アイリスは剣を肩へ担ぐ。
「外れたんじゃない。」
笑う。
「増やしたの。」
吹雪がさらに強くなる。
雪が世界を白く塗り潰す。
監察者は初めて剣を構えた。
「なるほど。」
その瞳から余裕が消える。
「これがお前の戦いか。」
アイリスは静かに頷く。
「見える相手には。」
剣先を向ける。
「見せるものを変えるだけ。」
吹雪の中。
再び姿が消えた。




